白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「R-1グランプリ2023」(2023年3月3日放送)感想文

・司会
霜降り明星粗品せいや
広瀬アリス

・審査員
陣内智則
バカリズム
小籔千豊
野田クリスタルマヂカルラブリー
ハリウッドザコシショウ

 

【ファーストステージ】

・Yes!アキト
コント「プロポーズ」。意中の相手に「俺と結婚してください」とプロポーズを申し出たいのに、緊張で上手く切り出せず、「けっ、けっ、けっ」と口ごもる流れで次々にギャグを披露してしまう。本来、言わなくてはならない台詞が、唐突にギャグへと切り替えられるスタイルは、『スーパーマリオくん』のような少年向けギャグマンガを思い出させる。ずんぐりむっくりとしたアキトの体型との相性も良く、素晴らしい発想である。プロポーズという設定も良い。適度な緊張感とギャグのバカバカしさのズレが大きな笑いを生みやすい。唯一、失敗していたように感じたのは、口ごもっていたワードが「けっ」から「わっ」へと、何の説明もないまま不自然にシフトチェンジしたところ。あそこで冷めてしまった人も多いのではないだろうか。例えば、「俺とけっ、けっ、けっこ、けっこ」と、台詞からの展開で別のワードへと変化していたら、もっとスムーズに受け入れられたのではないかと思う。時間の問題もあったのかもしれないけれど。

 

・寺田寛明
「レビュー」。あらゆることばを評価するサイト「ことばレビューサイト」において、星1評価をしている人たちのレビューコメントを想像する。日常で目にすることも少なくない言葉に対して、多くの人が漠然と抱いているイメージを言語化し、ツッコミを入れるスタイルは割とベーシック。ただ、そのツッコミに、レビューサイトのコメント特有のシニカルでつっけんどんな要素を組み込むことで、現代的な面白さを引き出している。その意味では、言葉のニュアンス以上に、起こっている現象そのものにツッコミを入れる【蘇る】のくだりは、やや特殊といえるのかもしれない。ネタの中では、【依怙贔屓】の「汚い川」、【付和雷同】の「ステッカー交換希望」のくだりが秀逸。特に後者の現代性はかなりグッとくるものがあった。これで緊張さえしていなければ……。

 

・ラパルフェ都留
「怪獣vs阿部寛」。街を破壊する怪獣の前に、巨大な阿部寛が立ち塞がる。モノマネを取り入れたコントといえば、本田圭佑のモノマネコントで知られるじゅんいちダビッドソンを思い出す。ただ、演者の一挙手一投足に大衆の野次(?)が飛んでくる設定を思うと、むしろロビンフッドおぐがR-1決勝の舞台で披露していたハゲネタに近いコントといえるのかもしれない。巨大な阿部寛が怪獣と戦う設定は、ツカミとしてはかなり面白かったのだが、そこからは阿部寛の小ネタが散りばめられているだけで、巨大であることがあまり活かされていない。阿部のホームページの異常な表示速度が発覚するくだりや、R-1で自身の出演する大河ドラマの宣伝をして帰るオチは好きだけれど、賞レース向けのネタではなかった気もする。

 

サツマカワRPG
「この街の人々」。サツマカワRPGのギャグに登場する人物が、次のギャグ、また次のギャグへと繋がっていく。ジャルジャルの単独ライブでは、全体の構成に「先のコントに登場した人物が、次のコントでも別の役割で登場する」という仕掛けが施されているのだが、サツマカワの今回のネタは、それをそのままギャグへと応用している。あと、個人的には、藤岡拓太郎の傑作『街で』を思い出した。結果、先のYes!アキトとはまた違った方法で、ギャグの羅列という散漫的な印象を残しがちなネタに歴とした一体感をもたらすことに成功している。ギャグもしっかりと面白い。Yes!アキトのギャグは職人気質の面白さだが、サツマカワRPGのギャグは日常的でありながら不条理な雰囲気に包まれていて、笑いと同時に不安が押し寄せてくる。その現実味の無さがゆえに、実世界の揺らぎを感じてしまうためかもしれない。だからこそ、こういう構成が成立するのだろう。

 

・カベポスター永見
「世界で一人は言っているかもしれない一言」。日常では決して耳にすることはないけれど、ひょっとしたら実際に口にしている人が世界のどこかにいるかもしれない、そんな絶妙な一言を次々に述べていく。とっかかりのないテーマ、情報量の少ない衣装、最低限の演技を維持している台詞回しなど、無駄な要素を徹底的に排除しているところに、ネタに対するストイックな姿勢を感じる。対して、内容は尖っておらず、インパクトの強い一言よりも、シチュエーションを想像することでじわりじわりと笑いが生じる一言が主。総じて、渋い味わいのパフォーマンスになっていた。ただ、あまりにも渋すぎて、ボリュームが足りない。せめて、ロープウェイのくだりのようなパンチラインがもう一回でもあれば、まったく評価が変わっていたのでは。個人的には、スピードガンと歌舞伎がお気に入り。

 

・こたけ正義感(敗者復活)
「おかしな法律」。実際に弁護士としても活動しているこたけ正義感が、日本のおかしな法律を紹介する。一般的には知られていないが実在する事物についてフリップを使って紹介するスタイルに、『爆笑オンエアバトル』『爆笑レッドカーペット』にも出演していたピン芸人星野卓也を思い出したのは、私だけではないだろう。要するにベタな手法なのだが、シュッとした体型にパリッとしたスーツを着こなしているこたけ正義感が、感情的に日本のおかしな法律へツッコミを入れる様子のギャップが加算され、より強い可笑しみが生み出されている。安定感の面白さ。ただ、フリップをめくるタイミングに対して、ツッコミを挟み込むリズムがやや速いときがあり、ちょっと笑いを取りのがしているように感じる場面も見受けられた。場数を重ねれば、いっそう面白くなるだろう。しかし、こういうネタは、先鋭的な笑いが求められる賞レースよりも、分かりやすくて安定した笑いが好まれる演芸場に向いているように思う。どんどんメディアに露出して知名度を上げて、次世代のケーシー高峰として頑張ってもらいたい。

 

・田津原理音
開封動画」。カードゲーム“バトリオンモンスターズ”の限定パックを開封する動画を撮影しているコント。YouTubeで目にすることの多い、ポケモンカード遊戯王カードの開封動画をモチーフにするという着想がとにかく素晴らしい。2020年決勝で披露された野田クリスタルのゲーム実況ネタ以来となる、YouTubeでの動画視聴が一般的になった今の時代ならではの、非常に現代性の高い設定だ。配信者特有のちょっと鬱陶しいくらいに高いテンション、レアカードを傷つけないようにスリーブに入れて保存、限定パックを箱買いしていることを遅れて発表する小賢しい手口など、開封動画あるあるの精度も高い。特に笑ったのは、カードを一気にチェックしてキラカードだけを取り上げるくだり。これも開封動画ではお馴染みの方法なのだが、そこに「カードに表記されている未出のネタが特に説明されることなく急速に消費される」という不条理な面白さが加わって、非常に面白かった。それぞれのカードにちゃんとネタが表記されているのに、それを見せないことが笑いになる。なにやらスゴい時代になったものである。ちなみに、カードの内容については、こちらもあるあるネタとしての濃度が高く、安定して面白い。一発目の「チャリでチャリを運ぶ男」でしっかりと胸を掴まれてしまった。お見事。

 

・コットンきょん
「警視庁カツ丼課」。取り調べを受けている容疑者に罪を認めさせるカツ丼を調理する“警視庁カツ丼課”の様子を描いたコント。年齢・性別・罪状などといった容疑者の特性をプロファイリングして、それぞれに適したカツ丼を提供する……という設定がバカバカしくてたまらない。ただ、プロファイリングの精度が、表面的で分かりやすいところに特化していることで、インターネット的な人間性をカテゴライズして語る嫌なシニカルを彷彿と。とはいえ、その危うさを、コント的演技や『踊る大捜査線』のBGMで上手くカバーしているため、そこまでキツい印象は残さない。良いバランス感だと思う。それはそれとして、ところどころの詰めの甘さが気になった。例えば、後で炊飯ジャーに警察章が入っていることが明らかになる演出にするのであれば、エプロンには警察章を入れない方が良かったのではないか。口に含んだ酒をカツ丼にぶっかけるのは、ご時勢的にどうなのか。炊飯ジャーは開けっ放しにしていたら、米が乾いてしまうのではないか。……さほど気にするようなことではないのかもしれないが、こういう細かいノイズを潰すことで、より大衆向けの笑いとしての精度を上げていくことが出来るのではないかと。余計なお世話。

 

【ファイナルステージ】

・田津原理音
開封動画」。基本的な流れはファーストステージと同じだが、「カードと一緒にガムが入っている」「保存ケースに入れる」「色違いカードがある」など、微妙な改変を加えることできちんと差別化している。特に前半、台詞を先行させてから内容を明らかにする構成にしたことで、明確にファーストステージで披露したものとは違うネタであることを印象付けていたのは上手かった。あるあるネタの精度も高い。ただ、それでもファーストステージで披露した、一気にカードを消費するくだりほどのインパクトはない。あれは良過ぎた。

 

・コットンきょん
「リモート」。夢のためにアメリカへと旅立とうとする彼女のことを思って身を引いてしまった友人を説得するつもりだったのに、うっかり寝坊してしまったために、リモートで説得することに。ドラマチックなシチュエーションを、現実ではなくリモート機能を駆使して表現することによって生じるズレを笑いの軸としたコント。リモート機能をテーマにした現代性の高さは魅力的なのだが、この状況を作るために、友人とリモートで繋がる導入部分に、どうしても違和感を覚えてしまう。ただ友人を説得するだけならば、別に電話だけで十分に対応できることなので、わざわざ電話をかけてZoomに入れる必然性をさほど感じないからだ。そもそも当日、友人が何処にいるのかも分からないのに、最初から友人宅に向かおうと考えていた計画の甘さも気になる。リモートで二人を繋げる設定を成立させるために、無理矢理に仕立て上げているようにしか思えない。事実、リモートで二人を繋げる展開に至るまでのやり取りは、かなり面白い。熱演のクサさは気になるが、「電波が悪い」「マイクがオフになっている」など、さらりと投げ込まれるリモートあるあるは魅力的だった。だからこそ、そこに至るまでの工程には、きちんと違和感が残らないように、細部までこだわってほしい。

 

優勝は田津原理音。めでたい。個人的にはサツマカワRPGが好きだった。今年がラストイヤーだったことが残念でならない。こちらからは以上です。