白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「R-1グランプリ2022」(2022年3月6日)

今年はサクッと短めにまとめます(希望)。


【First Stage】

kento fukaya

三者の視点から、三対三の合コン風景に対してツッコミを入れるコント。事前に録音した声に合わせて、2メートルほどの高さの三角柱に描かれた絵をくるくる回転させながら、合コンが展開する様子を映し出す演出が見た目に新しい。テレビよりもライブの方が映えそうだ。ただ、肝心のネタは、イラストを扱った内容のものとして見ると、やや無難な印象。敢えて虚構と現実味の狭間を狙ったのかもしれないが、もっと突飛な展開に踏み込んでも良かったのでは。くるくる回転させる演出も、「終電の時刻表」がベストで、それ以降の展開にはあまり驚きがない。これをベースに、もう一年ほど練り直していけば、更に面白いものが出来上がっていたのではないだろうか。ラストイヤーが悔やまれる。

 

お見送り芸人しんいち

ギターを弾きながら、「僕の好きなもの」をテーマに歌い上げる。「好きなもの」として歌っている対象の切り口から滲み出る性格の悪さが、笑いに昇華されている。基本的にはあるあるネタの形式を採用しており、そのエグみの強い切り口は、いつもここからの『かわいいね』に近いのかもしれない。この一言ネタの精度もかなり高いのだが、「一回もテレビ出たことない漫才師の長文の解散発表好き」と歌った直後にその長文を読み上げたり、普遍的な状況の事物を歌い続けていながら最後の最後で具体的なバンド名を出したり、歌が終わった後で「今日のお客さん、大好きです!」という一言で不穏な余韻を残したり、印象に残るアクセントを随所に設けて、聴いている人間を飽きさせない構成を組み立てている。短いネタ時間の中で出来る限りの、完璧なパフォーマンスを見せつけられていたのでは。

 

Yes!アキト(復活ステージ1位)

様々な一発ギャグを次々に披露する。一発ギャグとして披露しているが、やっているパフォーマンスの構成が基本的に「動きのフリ→台詞のオチ」であることを思うと、そのネタはむしろショートコントのシステムに近い。それも、かなり広い層に受け入れられるタイプの、無駄もクセも抑え込んだオーソドックスなもの。これはもう江戸むらさきの後継者といっても良いのではないだろうか。ただ、今回のパフォーマンスに関しては、やや当たり外れのムラがあったような。明らかにウケているネタと、観客に上手く伝わっていないネタがあった。バカウケしたときの破壊力を思うと、もっとウケる構成にも出来ただろうに……もっとも、一発ギャグという形式上、こういった大会で優勝するのは難しいのかもしれないが(それこそ、かつて五十音ボックスから引いたワードで一発ギャグを披露するパフォーマンスで優勝したCOWCOW多田のように、ギャグに一種のコンセプトでも設けないかぎり)。とはいえ、身一つでパフォーマンスを繰り広げる姿は、なにやら妙に格好良かった。これはこれで貫いてもいいような気がする。個人的に笑ったのは『骨壺』『クルトン』『十二単』。

 

吉住

普段は聖人のように温和なのに、芸能人の不倫に対しては気が触れるほどブチギレるOLの生き様を描いた一人コント。有名人のゴシップに対し、インターネット上で怒りをブチまける人たちの姿を具現化した人物を演じており、その自身と無関係な他者に対して向ける怒りの感情と異常な行動力、独自性が過ぎる論理から滲み出る狂気が、笑いへと昇華されている。こういった一部視聴者への皮肉をたっぷり含んだネタを、多くの人が注目する賞レース決勝の舞台に持ってきたことがもう素晴らしい。それだけで優勝といってもいい。インパクトが強いだけではなく、ここから彼女の志向性が明らかになる展開も素晴らしい。お金を一銭も落としたことのないイチ視聴者でしかないのに、テレビでよく見ているからという理由で「だから、当事者なんだ」とズケズケと断言できる危うさ。その危うさへの自覚の無さ。実にたまらない。とはいえ、「事務所に苦情を送る」「放送局に抗議する」「ネットを炎上させる」などのような、ありがちな行動には及ばない。ただ、YouTubeに動画をあげる。ここがまた絶妙なのだ。YouTubeに動画をあげることによって生じる摩擦については語らず、ただ動画をあげるという事実だけを語ることで、その行為のヤバさをマイルドにしている。そこで生じる収益からの寄付、からのオチに至るまでの流れも見事。この狂気的な彼女の言動の全てをなんとなくのイーブンで保っている、このバランスの妙。数多の選択肢から見事に正解を引き当てたかのような、まったく素晴らしいコントだった。二本目が見られなかったことが残念でならない。

 

サツマカワRPG

放課後の体育館裏に意中の相手を呼び出して、告白しようとする学生コント。前半は「そうか……大会、近いもんな……」が繰り返される状態から滲み出る「相手に軽くあしらわれている感」を見せて、後半は「そうか……大会、近いもんな」という台詞をメタ的に崩してナンセンスな笑いへと展開させる構成のコント。前半の展開は日本エレキテル連合の『未亡人朱美ちゃん』を思わせる。どんな話題を切り出してみても、片や「大会が近いから」、片や「ダメよ~ダメダメ」の一辺倒で断られ続けるところの、モテない男のピエロ的な哀愁漂う面白さが滲み出る。この辺りの面白さは、サツマカワの演技力によるところも大きい。同じような言い回しの台詞を延々と繰り返しているのに、観ている者にまったく飽きさせない表現力はなかなかのもの。個人的には劇団ひとりのそれを思い出した。この哀愁漂う前半があるからこそ、後半の「十回クイズ」「トロッコゲーム」に展開するメタ的な笑いが、より一層の深みを増す。なんだか、告白を諦めて、適当なことを言い出してしまったかのような、ナンセンスだけど哀愁も滲み出る感じがたまらない。そして訪れる妙にハートフルなオチ。これまでの哀愁がここで裏返ってしまう爽快感があった。ただ、終盤のご都合主義的な展開に関しては、もう少しアクセントが欲しかったような気も。例えば、ラーメンズの『男女の気持ち』のような、ひとズラしがあっても良かったような……。

 

ZAZY

ZAZYのデジタル紙芝居「恋愛バラエティ」。基本的なスタイルは以前と同じ。既存の言葉同士を掛け合わせて、生まれた言葉の語感の面白さと強引にイラスト化した不条理な面白さが、リズミカルに繰り広げられることで笑いを増幅させていく。そこへ更に、今回は「ネタ中に登場した人物たちに女性が告白するもフラれる」という展開を挟み込むことで、単なるナンセンスな笑いから、より厚みのある笑いに昇華されていたように思う。特に笑ったのは鋭角鈍角六角の「ごめん」。なんだよ、その伏線回収みたいなのは。余談だが、版権ネタが多いため、もっと評価が割れるものだと思っていたのだが、蓋を開けるとそうでもなかったことに、ちょっと驚いた。それが気にならなくなるほど面白かった、ということか。(追記。うっかり触れるのを忘れていたが、デジタルを採用したことで、よりリズミカルにハイテンポな展開を見せられるようになったことも、今回のネタでは非常に重要な改善点だった。鋭角鈍角六角のリズムは紙で再現できるものではないだろう)

 

寺田寛明

「始まりの歴史」。「お餅」「鉄棒」「テニス」のように、今では当たり前のように受け入れられているものの異常性を抽出して、改めてツッコミを入れる手法のスケッチブックネタ。設定そのものは割とありがちだが、「初めてのものには冷たい言葉をかけられることがある」というテーマの通り、「異常性」は単なるフリでしかない。ネタの肝となっているのは、そこから吐き出される「冷たい言葉」にある。で、この「冷たい言葉」が、なにやら異常に面白い。例えば、「お餅」の説明に対する「よくないよ」「怖い…」「サイッテー」という表現。「なんでだよ!」「どうしてそんなことするんだよ!」のような直接的なツッコミではなく、その説明を目にした人々の感想のラインに留める、この生々しいリアリティがたまらない。ここから更にワードの精度が上がっていく。特に笑ったのは、JRの金額の安さに対して言い放たれた、「裏に誰かの悲しみがあるはずだ」という一言。この言葉の表現の奥深さ。ただ、前半に比べて、後半は展開を重視することでややパワーダウンした感。とはいえ、面白かった。最後に、これは余談だが、「今では当たり前に受け入れられているものでも、改めて考えてみると異常に思える要素が少なくない。転じて、今まさに生まれようとしている新しいものも、異常だからと切り捨てるべきではないのではないか」というメッセージを含んでいるようにも見えたのは、考え過ぎだろうか。考え過ぎだろうなあ。

 

金の国 渡部おにぎり

トンビに持ってかれてしまった男のコント。非現実的な状況に巻き込まれ、死の危険もある状態でありながら、それほど慌てていない男の呑気さが可笑しみを生み出しているコント。面白くないわけではないのだが、これまでの徹底的に作り込まれたピン芸人たちによるネタを思うと、ややパンチに欠ける。否、だからこそ、審査員には受け入れられたのかもしれない。渡部おにぎりという芸人のキャラクター、声のトーン、ビジュアルは、緊張感の欠片も感じさせない。この舞台では、それがハマッたのかもしれない。分からないが。個人的には、トンビに持ってかれてしまった男が、最終的にどうなったのかが知りたかった。オチを付けないというオチも、そりゃアリといえばアリなのだが。

 

予選の結果、お見送り芸人しんいちZAZYがFinal Stageに進出。

 

【First Stage】

お見送り芸人しんいち

「応援するよ」。基本的なフォーマットは一本目の『僕の好きなもの』と同じ。応援すると言っておきながら、その切り口から滲み出る性格の悪さ。ただ、『僕の好きなもの』に比べて、『応援するよ』は対象への興味の距離がやや離れている感があり、毒の含有量もやや薄め。ただ、だからこそ、共感性の高いネタに仕上がっている。一本目のネタが受け入れられなかった人でも、こちらのネタなら受け入れられるという人も多いのでは。またしても例に挙げるが、こちらはいつもここからの『悲しいとき』に似ているといえるのかもしれない。終盤の畳み掛けも見事。ここで『脱力タイムズ』を出せるところがスゴい。R-1を観に来る観客・視聴者への信頼の高さ。ただ、一本目で爆笑した身としては、やや物足りなさも感じた。

 

・ZAZY

ZAZYのデジタル紙芝居「寿司屋」。基本的なスタイルは一本目と同じ。ただ、一本目における「ネタ中に登場した人たちにフラれる」のような、ネタに厚みを持たせるような構成は削られ、代わりに従来の「変な人が変な人に対して数珠繋ぎ的にツッコミを畳み掛ける」くだりが追加されている。満を持しての本丸登場といったところか。終盤、ZAZYの人生を振り返る思い出アルバムを見せる展開は、ZAZYがR-1ラストイヤーであることもあって、フィナーレ的な後味がとても良かった。ただ、肝心の内容だけを見ると、様々な有名人が登場する一本目のようなバリエーションがなく、全体的にネタの強度が落ちているように感じられた(敢えて「歯」に固執したのかもしれないが。そこは好き嫌いの分かれるところだろう)。そこをきちんとフォローした上で、このオチを用意していたならば、ひょっとしたら優勝していたのかもしれない。(とはいえ、正直なところリアルタイムで見ているときは、ZAZYが優勝するものだと思っていた。ここに書いた感想は後でネタを観直した上でのものである)

 

結果、お見送り芸人しんいちが優勝。おめでとうございます。