令和時代のお笑い公論

笑いの粗熱が冷めるまで

ファーストサマーウイカが感銘を受けたコント。

2021年9月6日放送の『ファーストサマーウイカオールナイトニッポン0』に、3時のヒロイン・福田麻貴がゲストとして出演していました。

以前、3時のヒロインとして『霜降り明星オールナイトニッポン0』にゲスト出演した際には、お互いにやりたいことが上手く嚙み合っていなかったからなのか、あまり良い結果を残すことが出来なかった福田さん。この時の記憶があったため、今回のゲスト出演にも微かに不安を感じていましたが、いざ蓋を開けてみると、これがまったくの杞憂に終わりました。

同じ大阪府大阪市出身で同世代の二人による掛け合いは、まるで十年来のコンビであるかのように軽妙洒脱。時にはかなり明け透けな内容になりながらも、厭らしさがまったく後に残らない、実に爽快感溢れるトークを繰り広げていました。相手を立てながら、しれっと懐に入り込むウイカさんのトーク術によるところも大きいのかもしれません。トリオのリーダーとして笑いに厳しい態度を見せる普段の福田さんとは違った、とてもリラックスした表情を引き出していました。ちなみに、福田さんの自慢は空手で鍛え上げたウエストと、ウイカさん曰く「チャクラを感じる」お尻とのこと。ご査収ください。

そんな二人のトークの中で、ちょっと意外な事実が発覚したので、記録しておきます。

きっかけとなったのはリスナーから福田さんへと寄せられた質問メール。「多忙の中、いつネタを作っているのか知りたいです」。実は「やらな作らんな」という理由から、月に一度のペースで単独ライブを開催している3時のヒロイン。そうやって自分で自分の首を絞めながらネタを書き続けているのだそうです。この流れから、話は「ウイカはネタ作らんの?」という流れへ。当初は「芸人ちゃうわ」と冗談半分の返しをしていたウイカさんですが、「作られへんねん。産めない」「自分の曲でさえも作れない」「自分がオモロいって思ったことをさ、「これオモロくないですか?」って言って見せるわけやろ?めちゃめちゃコワいやん、それ!」と、徹底してプレイヤー志向であることを語っていたのは些か興味深かったです。少なくとも、今は自分で表現したいことが何もないということなのでしょうか。

そして、以下のやり取りへ。

福田「もし、誰か芸人と、なんかコンビ組んで、テレビでなんか、ネタやりますーってなったら、誰としたい?」
イカ「えーっ……ギース?」
福田「えーっ、ザ・ギースさん?に、入るってこと?」
イカ「分からへんけど、なんか、テンポ(で名前が浮かんできた)?」
福田「意外やなあ。関西人ちゃうねんな、そこは」
イカ「いや私、なんか一番……なんか好きやったネタが、ザ・ギースさんで。触った物の名前全部言うてしまう……「机」「カバン」とかって言うてまうみたいな。それに感銘を受けてん。「なんでこんなネタ浮かぶん!?意味分からん!」て思って。そういうものに惹かれる。だから「自分がやったらオモロい!」は多分そっちじゃないねんけど」
福田「自分の中に無かったものに、感銘を受けた」
イカ「そうそう、感銘を受けただけ」

バリバリの関西人同士によるやり取りが繰り広げられている最中、突如としてゴリゴリに関東芸人のザ・ギースの名前が飛び出して、何も考えずに聴いていた私はビックリしたのでした。否、確かに、人間は自分の中にないものに対して、ある種の憧れを抱くものです。関西人で喋りが達者なウイカさんにとって、関東色の強いナンセンスなコントを得意とするザ・ギースはまさに対極の存在。その初見での衝撃は想像に難くありません。

ちなみに、ここでウイカさんが「感銘を受けた」と説明していたネタは、ザ・ギースの最初期のコント『手は口ほどに物を』です。コンビ結成10周年を記念してリリースされたベスト盤『ザ・ギース コントセレクション「ニューオールド」』に収録されています。企画の打ち合わせの場に現れた人物が、手で触れるものの名前を全て口に出してしまうクセがあるために、打ち合わせがまったく進まない……という設定のコントです。

今回の発言を受けて、久しぶりにDVDを再生してみたのですが、やっぱり面白かったですね。「手で触れたものの名前を全て口に出してしまう」というコントの肝はかなり序盤で明らかになるのですが、この設定を踏まえた上であちこちにバラ撒かれたボケのバリエーションが豊富で(シンプルなボケから言葉遊びまで実に多様)、最後までまったく飽きさせません。特に「ふとももは、胸板ですから!」のくだりは、なんか面白いですよねえ。突出して面白いことを言っているわけでもないんですけどねえ。なんなんですかねえ。

今回の放送でのファーストサマーウイカさんの発言をきっかけに、ザ・ギースのコントに興味を持ってくれる人が増えると嬉しいですね。もっとも、今のザ・ギースのコントは、この当時に比べて若干方向性が違ってきてますけれどね。そこも踏まえて楽しんでもらえると有難いです。

「キングオブコント2021」決勝進出者決定!

【三】うるとらブギーズ(昨年10位)
【初】蛙亭
【三】空気階段(昨年3位)
【初】ザ・マミィ
【初】ジェラードン
【初】そいつどいつ
【初】男性ブランコ
【二】ニッポンの社長(昨年同着5位)
【二】ニューヨーク(昨年2位)
【二】マヂカルラブリー

アルコ&ピース、おいでやすこが、霜降り明星、チョコンヌ(チョコレートプラネット×シソンヌ)などなど、個性豊かな面々が出場したことで話題になっていた今年のキングオブコントですが、フタを開けてみると、とても渋いメンバーになりましたね。良くも悪くも例年通りで手堅いラインナップといったところでしょうか。初登場が五組、ファイナリスト経験者が五組というバランスも良いですね。新しい時代のうねりのようなものを感じさせます。そんな中、鈍い光を放っているのは、昨年のM-1王者・マヂカルラブリーM-1とR-1を制覇した野田クリスタルは果たしてKOCの栄光もその手中に収めてしまうのでしょうか。……可能性がゼロじゃないってところがたまりませんね。

優勝候補はやはり昨年2位のニューヨークと昨年3位の空気階段でしょうか。昨年大会では、どちらもキングオブコントで勝ち上がるための方程式を明確につかんだかのように「評価されるためのコント」を作り込んでいましたが、今年はどのような戦い方を見せてくれるのでしょうか。ただ、どちらも既に手の内を明かしているという意味では、まだまだ底知れないニッポンの社長の方が可能性を秘めているといえるのかもしれませんね。記録よりも記憶に残るコントを見せていた彼ら。今年は記録を残したいところ。昨年大会は10位、一昨年の大会は2位と評価の上がり下がりが激しいうるとらブギーズは、今年こそその真価を見せつけなければ、一昨年の評価がまぐれ当たりだといわれそうな雰囲気。実力者としての手腕を如何無く見せてもらいたいですね。

初の決勝進出者はいずれも名だたる実力派ばかり。アヴァンギャルドなコントが多くのお笑いファンに衝撃を与えた蛙亭ハナコゾフィーかが屋に続く最後のコント村村民ザ・マミィ、シンプルでバカバカしいキャラクターコントは一度見たら忘れられないジェラードン、松本竹馬のキャラクターが妙に先行しているがコント職人としての腕に間違いはないそいつどいつ霜降り明星コロコロチキチキペッパーズ・ZAZYといった天才型芸人たちを同期に持つ静かなるコント職人・男性ブランコ。特に男性ブランコラーメンズに影響を受けているコンビらしいので、個人的にはとても期待しております。あまりネタを見たことがないので、そこだけで期待しております。今はもうラーメンズが好きっていうコンビを見るだけでちょっと目頭が熱くなってしまう状態なので……(察しろ)。

以上の十組による激戦、今から楽しみですねえ。

リハビリコント雑談:イッセー尾形『生物教師』

お盆休みの連休中、酒浸りになっていた後遺症なのか、心の様子がどうも宜しくない。具体的にいうと、何もやる気が起きない。ふと、「ブログを更新しよう」と思い立ったとしても、なかなか重い腰を上げることが出来ず、気付けば何もしないままに真夜中が訪れる。そんな日が何日も続いている。

このままでは心身ともに腐ってしまいかねないので、今日はなんとかかんとか心と体を動かして、ブログを更新してみようと思う。毎度お馴染みのリハビリテーション更新である。出来不出来に関わらず、とにかく更新するのである。しかし、ブログを更新しようと心に決めたところで、肝心の本文に何を綴るかが決まっていなければ、どうにもこうにも仕様がない。そこで、最近ふっと思い出したイッセー尾形の一人芝居『生物教師』を久しぶりに視聴して、思ったことをアトランダムに書いてみることにした。

イッセー尾形の『生物教師』は2004年に上演、翌年3月にリリースされた『イッセー尾形 ベストコレクション2004』に収録されている。当時、イッセーの舞台は定期的にソフト化されていて、レンタルビデオでも氏の公演を収めたVHSをよく見かけたものである。今現在もイッセーは一人芝居を続けているが、それらの舞台はソフト化されていない。この世の何処かにいそうな人の姿を描写する芸は、アーカイブを残してこそ、その希少性を感じさせられるものだと思うので、とても惜しい。

『生物教師』では、生徒たちに真に迫った生物の授業をするために、ノラネコを解剖したことが教育委員会にバレてしまい、大問題になってしまった生物教師による最後の授業の様子が描かれている。冒頭から、ノラネコを解剖したことに対する生徒たちに対する謝罪で始まるのだが、そこに反省の念は感じられない。ただ、やらかしてしまったことへの後悔と、これからどうなるか分からないが故の自暴自棄が繰り返されている。『生物教師』は、教師が思い描いている理想の授業と、それを間違っていると認められない現実の狭間で、ゆらゆらと揺れ動いている様が面白おかしく描かれている。

笑いの構成としては、序盤でフリとなる言動を提示して(ネコを解剖した手を眺めて「この手がなぁ~!」と後悔する、などのような)、その言動に繋がる展開を随所に散りばめたものが主。手の話になるたびに「この手がなぁ~!」と後悔の念に駆られるところで、大きな笑いが生まれている。いわゆる天丼と呼ばれるオーソドックスな手法だが、心の底では反省していない生物教師のキャラクターとの相性があまりにも良い。自分の立場を忘れて、生徒たちの前で持論をあけっぴろげに展開しているところで、急に現実へと引き戻される姿がたまらなく面白い。

この生物教師の考え方が正しいかどうかは分からない。教育のためであっても、誰にも飼われていないノラネコだとしても、殺すべきではないという人間もいるだろう。だからこそ劇中でも教育委員会から問題視されている。だが、それならば、金魚ならばいいのか、という話にもなる。生命の重さとはなんなのか。……そこまで重たいテーマを背負っているわけではないだろうが、そういった不明確な論理が見ている側にも備わっているからこそ、この教師の無反省と後悔の狭間を揺れるような振る舞いが、笑えるのだろう。どちらの意見もよく分かる。もっとも、世の中には「ネコはいたほうがいい」「ホームレスはいないほうがいい」と主張する人もいるようなので、そういった人には笑えない演目なのかもしれないが。

(まったくの余談だが、インターネット上における形骸化した「猫絶対主義」みたいな思想は個人的に好きではない。一昔前のテレビは「子どもと動物と健康ばっかり」と批判されていたが、それと同じ道をインターネットも辿っているようである)

ちなみに、この『生物教師』がどのような処分を受けたのかは、明らかにされていない。この授業の後、教育委員会と話をして、対処が決定する……というところで幕を下ろすからだ。ただ、教師はもはや分校に飛ばされることを覚悟しているようで、「分校行って、何から解剖してやろうかな!」と生徒たちに見栄を張りながら教室を出ていく。とことん人間臭い、だからこそ愛おしい。

2021年9月の入荷予定

01「NON STYLE LIVE 2020 新ネタ5本とトークでもやりましょか
08「情熱大陸×和牛
22「best bout of hiccorohee」(ヒコロヒー)

どうも、すが家です。お盆休み中にはしゃぎすぎた影響なのか、八月の更新は色々と滞ってしまって、申し訳ありませんでした。九月はきちんと“コント地獄”の更新を再開できるようにしたいと思います。……別に、当ブログのメインコンテンツってわけでもないんですけどね、アレ。でも、ああいう記事の定期更新を止めたら、もう何もやらなくなってしまいそうな不安があるんですよね。なんとかかんとかやっていきます。そんな九月のラインナップは以上となります。説明する気力がないので、詳細は各自でお調べください。……何気に松竹は女性ピン芸人のDVDを頻繁にリリースしますね。有難いことです。では、また。