白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

さらば青春の光『おっさん』の話。

中華屋の店主(森田)と常連客(東ブクロ)、二人のおっさんが野球中継を見ながら下らない戯言を交わしていたのだが、店主のおっさんのとある冗談に対して、常連客のおっさんが黙り込んでしまい……。

日常的な風景にとある要素が付け加えられることで笑いへと発展するタイプのコントである。その意味では、このブログで先日取り上げたライスの『あっちとこっち』に近いものがあるのかもしれない。ただ、ライスのコントに付け足された要素が圧倒的に非日常的なモノだったのに対し、今回のさらば青春の光のコントに付け足された要素は、まだ現実にギリギリ存在し得る程度であるため、よりリアリティが高い。しかし、付け足された要素を過剰に描き出すことで、現実味を帯びながらも非日常的なキャラクターとしておっさんを上手く色づけしている。

とはいえ、動画の説明文に「今の地上波では絶対に放送できない」と銘打っているように、ありとあらゆる多様性を認めようという傾向の強い昨今において、このコントにおける常連客のおっさんのような人間のことを否定するような態度は、時代に合っていない。ただ、こういうネタが受け入れられた時代があった、という事実を記録しているという意味では、大変に意義のあるコントである(※2014年の単独ライブで演じられた)。もっとも、店主の受け止め方次第では、いくらでも時代に対応できそうな気もするのだが。そうなると、「さらば青春の光」のコントである必要性が、薄れてしまうのかもしれない。

(※ここからはネタバレを含みます)

ライスのコントも最初のツッコミが繰り出されるまでのフリに長い時間を要していたが、こちらもフリにかなりの時間をかけている。自然な会話から異常が発生するまでの流れを丁寧に見せようという確固たる意志は、肝となる設定に対する自信の表れだ。

その設定を明らかにする東ブクロの搾り出すように発せられる台詞がまた良い。「大将……ワシな……下ネタ……アカンねや」。この時点で、既に観客は東ブクロ演じるおっさんが、大将の下ネタにだけ拒否反応を起こしていることには気が付いている。それが笑いどころになるだろうことも察している。だが、それがどういう理由によるものなのか、これがまだ明らかになっていない。だからこそ観客は様々な理由を想像する。期待する。意識を集中させる。

そんな状況下で発せられた理由が、「下ネタ……アカンねや」。あまりにも単純すぎて、笑うしかない。ただ、下ネタに対して生理的な拒否反応を抱くタイプの人間がいることも、多くの観客は理解している。だが、これを言っているのは、人生の酸いも甘いも噛み分けてきたおっさんだ。そんな人が下ネタを生理的に受け付けない……というギャップで、笑いが巻き起こる。

そんな観客の認識を背負っているかのように、森田演じる中華屋のおっさんは常連客のおっさんに対し、「おっさんやのに!?」「ワシらオッサンから下ネタを取ったら、なーんも残らへんで!?」「セックスしとるやん!」と厳しく言及し始める。いわゆる“おっさん”のパブリックイメージを武器にして、どうして下ネタを受け入れられないのか、深く切り込んでいくのである。

少し余談になるが、コンプライアンス的には、この辺りのくだりが拒否されるのではないだろうか。イメージはあくまでもイメージでしかなく、それぞれに考え方・生き方は千差万別であるという考え方とは、まるで反対の展開である。だが、しかしながら、人間が自身とは関係性の薄い対象へと抱いてしまう、パブリックイメージの持つ力は強固だ。例えば、どんなに「タトゥーを入れているからといって悪人とは限らない!」と声高に叫んでも、それまでに培われてきた、タトゥーに対するネガティブなイメージは易々と払拭されるものではない。おっさんに対するイメージも同様だ。おっさんとはこういう存在である、というイメージは深く根付いていて、このコントにおける中華屋のおっさんのように、マイノリティな(のかもしれない)常連客のおっさんを興味本位で追い込んでいく。

話を戻す。このやり取りにおける最大の見せ場は、常連客のおっさんが「大将、セクハラで訴えるからな!」と切り出す場面だろう。ここもコンプライアンス的には非常に危うい。「原告もおっさん、被告もおっさん、それを裁くのもおっさん」のくだりに顔をしかめる人もいるだろう。裁判長が男性だとは限らないからだ。だが、このくだりに関しては、それを理解した上で、セクハラ裁判とおっさんだらけの法廷を想像してしまって、その違和感についつい笑ってしまう。現時点で、私の中でセクハラ事案に対する意識がアップデート出来ていないからだろう。いずれこのくだりも笑えなくなる日が来るのかもしれない。

終盤は「下ネタの方向性の転換(ウンコネタ)」と「下ネタへの過剰反応(中学生)」を畳み掛けることで、常連客のおっさんの下ネタ嫌いを過剰に見せるナンセンス展開で落としている。あくまでも“下ネタ”というメインテーマの枠組みの中に留まりながら、しかし別方向と展開させているところに、さらば青春の光コント師としての技量を感じさせられる。ただ、オチは強引に理由付けしたかのようで、ややイマイチ。ここは、中華屋のおっさんにも、実は苦手なことがあって……みたいな展開が無難なところだろう。

この『おっさん』のように、リアリティ溢れる設定の中で、ギリギリ現実的に存在しそうだけれどしてなさそうなラインのキャラクターやシチュエーションを泥臭く演じるところにさらば青春の光の魅力がある。ただ、このネタに関しては、下ネタというテーマが軸になり過ぎていて、従来のコント以上にべしゃりの掛け合いの面白さが求められていたような感があって、その点において、当時のさらばはちょっと表現力が足りていなかった印象を受けた。漫才をメインに演じているコンビがコレをやったらどうなるのか、ちょっと見てみたい。