白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

君たちはどう揚げるか

ちょっと前にスーパーで購入した魚肉ソーセージが美味しくない。不味いとまではいかないのだが、喜々として食べたいという気持ちにはなれない。高級な魚の風味がどうのこうのと書かれていたので、ついつい興味本位で手に取ってしまったのだが、ここまで口に合わないとは思わなかった。とはいえ、買ってしまったからには、購入者としての責任を取らなくてはならない。これを「不味い!」と断言して捨ててしまうのは、飽食の時代を代表する典型的なダメ現代人の振る舞いというものである。

とはいえ、そうなると、どうしたものか。なんだかんだ考えに考えた末に、「天ぷらにすると美味しくなるのではないか」という結論へと辿り着いた。クセの強い味付けも、天ぷらの衣で包み込んで天つゆやポン酢につけてしまえば、食べやすくなるのではないだろうか。我ながら悪くない考えである。ただ、この結論には、ひとつの問題がある。私はこれまでの人生において、一度も天ぷらを作ったことがない。油の温度管理が面倒臭そうだし、調理後に残る大量の油の処分もややこしそうだったからだ。

そこで思い出したのが、以前にスーパーで見かけたことのある、フライパンで天ぷらを作ることが出来る“焼き天ぷら粉”の存在である。聞くところによると、ただフライパンで焼いただけなのに、まるで天ぷらのような仕上がりになるらしい。また、フライパンで調理するので、使用する油も最小限に留めることが出来るという。本当か。それ本当なのか。それが本当なのだとしたら、これまでの天ぷらはすべて過去のものになってしまうのではないか。心の中に疑心暗鬼が生み落とされていたものの、他にすがるものもない。チャレンジの第一歩として、この焼き天ぷら粉を購入したのであった。本当に美味しい天ぷらを作ることが出来るのかしらん。

そして先日、実行に移すこととなった。

まず、例の魚肉ソーセージを、一口大に切る。薄めに切ってしまうと、味も何も分からなくなってしまいそうだったので、ほんのり大き目サイズに切り分ける。続けて、焼き天ぷら粉を水に溶かして、溶液の状態にする。ちょっと固くてドロドロしていて、菜箸で混ぜるとけっこうな力で反発する。生意気だ。それからフライパンを用意する。一面に油を引いて、中火に設定した電気コンロで温める。そこに溶液を通してネトネト状態になった魚肉ソーセージを置いていく。菜箸でつまむと、ツルツルしていて意外と難易度が高い。けっこうな量の溶液が魚肉ソーセージに付着するので、それを落とす作業にも時間を要する。揚げる前に、ザルのように穴の空いた容器の上に置いておけば、溶液を落とす作業工程を省略することが出来るかもしれない。魚肉ソーセージが油に浸かると、天ぷらを作るときならではのパチパチと泡がはじける音がする。耳心地が良い。

規定の揚げ時間は表面三分+裏面三分の計六分だ。三分後、魚肉ソーセージをひっくり返して、更に三分間揚げる。ひっくり返したとき、既に天ぷらが黒く焦げていることに気付き、戦慄が走る。確かにパッケージの説明には「中火で三分」と書かれていたのだが、どうやら我が家のコンロは、そこで想定されているよりも少し高めの温度に設定されているらしい。なかなか一筋縄ではいかないようだ。結局、一巡目の天ぷらは、全体的に焦げた状態で完成。なんだか暗い色をしている。闇に隠れて生きる妖怪人間のように暗い。続けて二巡目に移る。二巡目の天ぷらは焦がさないように二分+二分の四分で調理する。結果、やや茶色くなったものの、なかなか悪くない状態に仕上がった。三巡目の天ぷらは更に短く一分+一分の二分間で調理してみる。白い。今度は白過ぎる。浜崎あゆみのキャリアハイぐらい白い。流石にちょっと不安になったので、更に一分ずつ揚げることにした。

結果、キッチンペーパーを底に敷いた皿の上には、魚肉ソーセージの天ぷらが山積みになることとなった。黒→茶色→白の階層は、どっかの国の政治情勢を表しているようにも見えて、なんだかちょっと風刺的である。それらをアトランダムに食べていく。うっかり天つゆを購入することを忘れていたので、ポン酢でさっぱりと頂く。口に入れるとカリッとしていて美味い。素の状態だとクセの強かった味も、かなり食べやすくなっている。一応、成功したということにしてしまっても、まあ良いのだろう。また、そのうち挑戦してみよう。次はシーフードミックスでかき揚げだ……!