白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

The Fool on the BEER

暑い時期になるとビールを飲みたくなる。日頃は缶チューハイハイボールを愛飲しているのだが、やはり暑さの最中に飲むとなると、否が応でもビールという選択肢になってしまう。太陽がギラギラと照り付けている日中に、全身の毛穴から汗が噴き出している状態で、炭酸の爽快感と強い苦味が演出するキレ味を帯びたビールをグッと口の中へ注ぎ込み、それらが喉を通過して腹の中へと流れ込んでいく快感は、他のアルコール飲料ではなかなか得られない。この快感のために、ビールを飲むときは敢えて窓を開けるようにしている。ここ数年の夏は、どんなに冷房を利かせていた部屋であっても、窓を開けてしまえば、すぐさま室内に侵入する熱風で地獄のような温度に満たされてしまうほどに高い気温をマークし続けている。通常であれば生活にも支障が出るほどに厄介な環境だが、ビールを飲むとなると話は違う。どういうわけか、身体が困憊すればするほど、その果てにあるビールの味は上手さを増していく。日々の暮らしで味わった苦みとビールの苦みが身体の中で共鳴するのだろうか。つまみも水分を抜くような塩分が高めのものが良い。柿の種やあたりめも好ましいが、個人的にはハムやベーコンといった加工肉を選びたい。とりわけ魅力を感じるのはソーセージである。ソーセージと少量の水を入れた状態のフライパンを火にかけることで、ボイルのジューシー感、それから焼きを加えることで皮のパリッと感、それぞれを両立させた状態のものにかぶりついてから、飲み干すビールなど、もはやこの世のものとは思えない。ちなみにビールを注いでいる器は、以前に発売された霜降り明星せいやによる"酒袋タンブラー"である。同製品には銀色の第一弾と黒色の第二弾が存在するが、第二弾の方が圧倒的に飲み口が良い。やや値は張るが、是が非でも手に入れるべき逸品である(デザインがこれまた素晴らしい)。もっとも今は三月である。私が理想とするビールを楽しめる時期は、まだまだ先のことである。特に夏は好きな季節ではないのだが(むしろ私が好きな季節は秋である)、今から待ち遠しくて仕方がない。