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さあ、水道の蛇口を開け。

『鍵のないトイレ』(2003年7月23日)

最新のお笑いに対する興味が薄れてしまったからなのか、学生時代に見たコントについて思い出すことが多くなった。先日の夜も、家族で酒を飲んでいる最中に、何の脈絡もなく“瓶蓋ジャム”について思い出していた。瓶蓋ジャムとは、シティボーイズによる単独ライブ『鍵のないトイレ』で披露されたコントのひとつ『自己破産の日』に登場するアイテムだ。自己破産の手続きを済ませるために弁護士の元を訪れた浪費家の男の前に、魅力的なアイテムを売りつける販売員が次から次へと現れる。そのうちの一人が、この瓶蓋ジャムを売り込もうとするのだ。懐かしい。実に懐かしい。

ところが、ここで私は、ある問題に直面した。『自己破産の日』に登場するキャラクターを誰が演じていたのか、まったく思い出せなかったのである。正直、ショックだった。この公演の模様を収録したDVDを購入した当時、私は『鍵のないトイレ』を含むシティボーイズのライブ映像を、背景音楽のようにテレビで流し続けていた。それほどにシティボーイズのコントを愛していたのだ。その中でも名作と名高い『自己破産の日』の配役を思い出せないなんて、あってはならないことである。……というわけで、久しぶりにソフトを引っ張り出して、改めて鑑賞することにした。

『鍵のないトイレ』は1992年に東京・大阪・名古屋の三都市で開催された。当時の会場は、渋谷ジァンジァン(東京)、近鉄アート館(大阪)、クラブ・ダイヤモンド・ホール(名古屋)。渋谷ジァンジァンと近鉄アート館は既に閉鎖されているが、クラブ・ダイヤモンド・ホールはダイアモンド・ホールに名前を変えて、現在も運営中である。作・演出を担当するのは三木聡。三木は1989年の公演『さまよえるオランダ人』から2000年の公演『ウルトラシオシオハイミナール』までの全13公演および2017年の公演『仕事の前にシンナーを吸うな、』において作・演出を担当している。

本作は1998年にVHS化、2003年にDVD化されている。私が所有しているものは後者のDVD-BOXで、リリースから20年以上が経過しているにもかかわらず、まだまだ無事に再生することが出来る。DVDの耐用年数は10年~20年という話なので、そろそろ危ういような気がしてならない。不安だ。

演じられているコントは全9本。会話の節々に放たれる台詞回しに重点を置いたネタが多く、全体的にアダルトな雰囲気を醸し出している。子どものころに嘗めた花火の火薬の毒でいつか死んでしまうのではないか……と不安に駆られている男が飛行機の到着を待っている『花火を嘗めた男』。まったく才能が感じられない友人の作品の展示会で感想を求められて苦悩する二人の姿が滑稽な『杉山の博覧会』。くじ引き会場で客を待っている男たちが「人生における幸福の量」について話し合う『幸福の量に関する二三の考察』などなど。後年のアヴァンギャルドな面白さに振り切れるシティボーイズのコントに慣れているため、その落ち着きぶりに違和感を覚える。考えてみれば、こちらの方が年相応なのだろうが。

その中でも先述の『自己破産の日』はやはり面白かった。弁護士に「弁護士料の20万円は用意出来ましたか?」と質問された浪費家の男が、手を大きく振りかぶってポケットを叩くくだりは、腹を抱えて笑った。この所作だけで浪費家の男の性格がはっきりと表されていて、とても良い。ちなみに、自己破産する浪費家の男をきたろう、販売員の男Aを斉木しげる、弁護士と販売員の男B(瓶蓋ジャムを売る男)の二役を大竹まことが演じていた。大竹が一人二役だったことを思い出せていれば……。

もうひとつ、群を抜いて面白かったのは、こちらも名作として名高い『ははーんさん』。海外出張の宿泊先としてモーテルの一室を借りた男たち(大竹・きたろう)の姿を見て、意味深に「ははーん?」と言いながら立ち去っていく従業員(斉木)がメインのコントである。要するに従業員は二人のことを同性愛者のカップルだと思い込んでいるわけだ。その疑いを晴らしたい二人は色々と対策を打つのだが、どういうわけか二人が深い関係性であるかのように見られてしまうような状況になるたびに、その従業員が部屋へとやってきて「ははーん?」と言われてしまう。そのうち男たちは従業員のことを「ははーんさん」と呼ぶようになり、むしろどういった行動を取れば「ははーんさん」と出くわしてしまうのか試し始める。多様性の時代にはとても相応しくない設定だが、他者から本来の自分とは違う見られ方をされてしまうことへの違和感と戸惑いをテーマにしたコントという意味では普遍的で、さほど違和感を覚えることなく見ることが出来た。斉木演じる「ははーんさん」が徹底的に無邪気なのも良い。

【本編(99分)】
「干し葡萄のお父さん」「花火を嘗めた男」「杉山の博覧会」「機能主義者の憂鬱」「自己破産の日」「鏡と対話する男」「何見てるんですか?」「ははーんさん」「幸福の量に関する二三の考察」