白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

押し入れの中に身を潜めていた時代。

押し入れの好きな子どもだった。客人用の布団が詰め込まれた押し入れの中に、身をよじらせながら侵入し、その中で懐中電灯を照らして本を読んでいた。おそらくは『ちびまる子ちゃん』の影響である。空き部屋はないけれど自分だけの部屋を欲しがったまる子が、クラスメートが押し入れを部屋代わりにしていることを知り、真似してみようと画策するエピソードがあったのだ。もっとも、そのようなことはしなくても、私には私だけの部屋がちゃんとあったのだが……ただただ狭い空間の中に身を置くという状態に対して、憧れのような感情を抱いていたように記憶している。当時の実家には、子ども用の小さなジャングルジムがあったのだが、そこに毛布をかけることで敢えて暗闇を作り出し、その中に引きこもっていたこともあった。要は闇だ。闇なのだ。親の監視下から外れ、闇の中に自分だけの世界を構築することに、疑似的に独立したかのような快楽を感じていたのだ。それは一種の秘密基地だったのだろう。大人になってしまった今、暗闇に対する憧れは殆ど消え失せてしまったように思う。押し入れに隠れることもなければ、突っ張り棒のようなものに毛布を被せて秘密の空間を作ることもない。そもそも身体が大きくなってしまったから、隠れたくてもなかなか隠れられない。真っ直ぐに憧れを抱くことの出来る純粋に幼い時期だったからこそ、体験できたことだったといえるのかもしれない。……ああ、でも今でも、カプセルホテルやネットカフェの個室に入るときには、ちょっとだけ興奮や心地良さを感じているから、実は今も本質的には変わっていないのかもしれない。