白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

8月22日の彼女 第1回単独ライブ「さいごのデートコース」(2023年9月1日)

結婚をして、実家を出ることになったときに、長年にわたって押し入れの奥底に隠してあったエロ雑誌を処分した。空いた部屋を姪っ子が使うと聞いていたので、とても置きっぱなしにすることは出来なかったからだ。

それらの多くは高校生の頃にこっそり古本屋で買い集めたもので、当時の時点で既に古びていたが、そこから更に十五年が経過した令和の時代になってからだと、もはや歴史的な遺産であるかのような存在感だ。

ページを開くと、野暮ったい見た目で油断しきった体型の女性たちが、裸体で股を開いている写真が目に飛び込んでくる。股間部分は黒で塗りつぶされている。モザイクやボカシですらない。ネットで検索すれば、いくらでも無修正動画が引っかかる今の時代において、それは完全に過去の遺物であった。

だが、それは私にとって、エロスの原点であり絶対的なゼロ地点でもあった。それらは間違いなく、今の私を構成する血肉なのだ。

先日、ぐんぴぃ(春とヒコーキ)を中心に活動しているYouTubeチャンネル『バキ童チャンネル』に優秀なブレーンとして籍を置いているFANと、彼が「動かしてみたい」という理由からコンビに誘った女性芸人・千代園るるによる男女ユニット“8月22日の彼女”の単独ライブ『さいごのデートコース』を配信で鑑賞した。

「あの世の階層」をメインテーマとした本公演は、死とは反対の存在である性をピックアップしたコントが主に演じられていた。女性とすれ違いざまにバッグの中にこっそりと“口”を忍び込ませる変態を描いた『口』、母親亡きあと娘を小学生まで育て上げた父親の隠された秘密が発覚してしまう『亡き妻へ』、小学生の性への好奇心を根菜で表現した『紅と白』……などなど、フェティシズムと性のメタファーがコント中にこれでもかと散りばめられている。

特に度肝を抜いたのは『敗け戦』。童貞の卒業に失敗して嘆いている男と慰めている女の関係性が、まったく別のシチュエーションにスライドされていくコントなのだが、その置き換えられていく別のシチュエーションが、(この表現が正しいのか分からないが)あまりにも不敬で笑わずにはいられなかった。特定の事務所に属さず、フリーの状態であるからこそ出来たネタといえるだろう。

本公演を鑑賞し終えたところで、私は引っ越し時にエロ雑誌とともに処分したアダルトコミックのことを思い出した。今回、演じられたコントのシチュエーションに、アダルトコミックと同じような構図を感じたためである。

エロスと笑いを融合したコントといえば、日本エレキテル連合が積極的に演じていた記憶があるが(彼女たちの代表作である『未亡人朱美ちゃん3号』であることを思えば、想像しやすいのではないだろうか)、性のエグみを笑いに転換していた日エ連に対し、8月22日の彼女のコントで描かれている性はより妄想的で独りよがりな印象を受ける。それゆえにアダルトコミックのにおいを感じてしまうのだろう。きっとFAN氏も、かつての私が見ていたような、アダルトコミックの描き出していたエロティシズムの世界を見てきたのだろう。親近感を覚えずにはいられない。

そんな「8月22日の彼女 第1回単独ライブ「さいごのデートコース」は、9月21日まで配信中である。

『バキ童チャンネル』の視聴者でもきっと楽しめるようなフェチと笑いの世界を楽しめる公演になっていると思うので、是非ともご覧いただきたい。

 

(以下、覚書用にネタのタイトルを記録。未見の方は注意)

オープニングコント「アテレコ」
 オープニング映像
コント「口」
コント「死後の世界」
 幕間映像「こけし漫才」
コント「みーくん大好き」
 幕間映像「ゲスト」
コント「亡き妻へ」
 幕間映像「高田純次
コント「紅と白」
コント「敗け戦」
 幕間映像「メモ帳で会話」
 スタッフロール
コント「おせち」
 エンドトーク

千代園氏が手掛けたというコント『みーくん大好き』も面白かったな……。