『M-1グランプリ2022』ファイナリスト・キュウが、東名阪で単独ライブを開催するというので、その大阪公演を観に行くことにした。おおよそ年に一度のペースで開催されているキュウの単独は、ただ独創的で我流を貫くネタが観られるだけではなく、公演全体がひとつのテーマでパッケージされており、一度は生で観てみたいと思っていた。幸いにも、公演日がお盆のシーズン真っ只中で、多少の遠征にも支障のない時期だったことも大きかった。
チケットはローソンで注文した。ことによると、即完するのではないかという心配もあったのだが、大阪公演のチケットの売れ行きはさほど良くはなかったようで、しばらく販売サイトで「販売中」の文字を見かけた。移動手段には今回も高速バスを採用、ホテルもカプセルホテルを予約した。
・8月11日(日)
午前六時半起床。
二泊三日の旅行へと出発する朝にしては気持ちが晴れない。多分に原因はここ数日間のフワちゃんとやす子の騒動によるものだろう。フワちゃんがやす子に向けた言葉は決して看過されるべきものではないが、その重すぎる代償があまりにも世間の風潮を反映しすぎている。これはフワちゃんに肩入れしている云々の話ではなく、既存の炎上案件におけるいくつかの悲劇的な結末からの学ばなさと自身に矛先が向けられるシチュエーションに対する想像力の無さに対する、あきらかな悪に対してノーブレーキでバッシングする快感に酩酊する大衆への不安である。
前日に購入していた菓子パンを朝食にして、YouTubeラジオ『ニュース!オモコロウォッチ』を聴きながら、諸々の身支度を済ませる。午前七時四十分ごろ、自宅を出発。実家を出て、停留所近くに引っ越したおかげで、車で向かわなくても高速バスを利用できるようになった。これでもう有料駐車場でお金を支払う必要性がなくなったわけだ。とても良い。朝方とはいえ、なかなかに猛烈な夏の日差しを浴びながら、停留所へと歩いていく。冷房の利いた室内から出てきたので、まだまだ身体中を冷気が包み込んではいるのだが、それでも体内から汗が噴き出して仕方がない。
午前八時頃、観音寺市発の高速バスに乗り込む。不思議と乗客にアジア圏の人間が多い。耳をすませば理解できない言語の会話が聞こえるし、ほんのり異国の香水の匂いが漂っている。お盆の季節に故郷ではなく旅行に出掛ける日本人はあまりいないのだろうか。以前、同じ時期に高速バスを利用したときには、そんなことはなかったように記憶しているのだが。早朝出発という時間帯が関係しているのかもしれない。すべての乗客が乗り込んだところで出発。更にいくつかの停留所で乗客を回収したところで、バスは関西方面へと突き進む。移動中に『オードリーのオールナイトニッポン』『東京ポッド許可局』『SAYONARAシティボーイズ』を聴く。オードリーのラジオでは、フワちゃんについては触れられていなかった。社内で緘口令が敷かれているのだろうか。その意味では、先日の『令和ロマンのオールナイトニッポン』に緊急出演していた粗品が、冒頭で「はーい、フワちゃんです!」と挨拶したのは、かなり攻めた姿勢だったといえるのかもしれない。そういう芸人を目指しているのだろうな。
正午、湊町(JRなんば駅)に到着。すぐさま事前に予約していたカプセルホテルアムザへと向かう。午前十二時半ごろ、チェックイン。一泊6,000円という金額設定に改めて驚かされる。初めて利用したときには、確か一泊3,000円というとてつもない格安設定だったものだが……。ロッカーに荷物を預けて、再び外に出かける。近場のビックカメラに飛び込んで酒屋を軽く冷やかしてから、午後一時に三田製麺所へと入店。冷やし鯛塩つけ麺玉子(1,080円)の中盛を注文する。身体が熱を帯びていることも影響してなのか、異常に美味しかった。ミネラルが嬉しい。
午後一時半、なんば駅から御堂筋線の列車に乗り込み、千里中央駅を目指す。午後二時、千里中央駅に到着。大阪モノレールの千里中央駅に移動して、そこから万博記念公園駅を目指す。午後二時十五分ごろ出発。十分ほどで到着。万博記念公園駅という名前だが、別に公園の入り口の真正面に出てくるわけではないから、ちょっとばかり厄介だ。午後二時半、万博記念公園に入園。久しぶりに肉眼で捉えた太陽の塔は、相変わらずの存在感で素晴らしい。太陽の塔が存在する限り、自分は生きていられるのではないか、という謎の感覚を味わえる。
以後、特に何も用事はなかったのだが、せっかく入園料を払ったので、しばらく公園内を散策する。途中、国立民族学博物館という施設があるということを知り、向かおうとするも、その間の道が一部閉鎖されているために諦める(8月17日・18日に開催されるサマーソニックの影響らしい)。せめてもの代償にと、あちらこちらの風景写真を撮影する。なかなかに夏らしい写真が撮れたのではないかと思う。
午後三時、退園。太陽の塔の根っこにあるショップでメガネ拭き、万博記念公園の手前にあるショップで万博記念タオルを購入してしまった。こういうところに出かけたときには、出かけた証拠を手に入れないと気が済まない性分なのである。往路とは真逆のルートを辿り、午後四時二十分ごろになんば駅へと帰還する。すっかり歩き疲れてしまったので、アムザに戻って一畳ほどの部屋に寝転んで休憩。いつの間にか眠りこけていたようで、気が付けば午後七時を過ぎていたので、みたびホテルを出る。近隣のどうとんぼり神座で小チャーシュー煮卵ラーメン(1,190円)を頂く。神座の味付けは好みが分かれるらしいのだが、私は好きな方である。
そのまま人混みを掻き分けてホテルに舞い戻り、ひとっ風呂浴びて、休憩所で軽くハイボールとレモンサワーを呷り、午後十一時就寝。
・8月12日(月)
午前七時起床。あまり寝つけなかった。一時間に一回のペースで目が覚めていたような記憶がある。敷布団が硬くて、その痛みに起こされていたように思う。若いころはあまり気にならなかったが、四十歳を目前に控えている身にはちょっと厳しい。そろそろカプセルホテルも卒業しなくてはならないのだろうか。しばらく室内でスマホをイジりながら過ごす。
午前八時、ようやく部屋を抜け出して、朝の身支度を始める。午前九時、一泊目のチェックアウト。ひとまず、以前に調べていて、ちょっと気になっていた酒屋を目指して、黒門市場へと向かう。午前九時開店というから、ちょうど店を開け始めたころだろう。ところが、いざ店の前に辿り着いてみると、シャッターが下ろされていて開店している気配はない。公式サイトを調べてみると、日曜祝日は休業とのこと。我ながらチェックが足りない。平日の明日に出直すことにする。
腹も減ってきたので、何処かのお店で朝食を取ろうと考えるも、これといって行きたいお店が思い浮かばなかったので、午前十時ごろに向かおうと考えていた梅田方面へと早々に行ってしまうことにする。御堂筋線で十分ほどかけて、中津駅に到着。途中、セブンイレブンに立ち寄って飲み物を購入し、従兄弟が働いているラーメン屋・麦と麺助へ。開店一時間前にも関わらず、既に四人ほど並んでいる。うち三人は日傘を持参している。用意周到だ。一方の私は何も用意していないすっとこどっこいぶりである。頭にタオルを巻いて、強い日差しをなんとか避けながら、BAY FM『7時からドットコム』を聴きつつ待っていると、本来の開店時刻よりも早めに店内へと通される。有り難い。数量限定の冷たいラーメン(名前は失念した)を薦められたので、それを注文して食べる。あまりにも繊細な味つけに驚嘆。ラーメンを食べて心の底からビックリする日が来るとは思わなかった。こんな素晴らしいラーメンを手掛けている人間が従兄弟であることを、私は誇りに思う。今後も頑張ってほしい。
午前十一時、退店。だらだらと徒歩で梅田方面へと向かう。途中、ドン・キホーテやら、梅田ロフトやら、ぶらぶら歩いて回る。ロフトでは名作と名高い『MOTHER2』のグッズ販売が展開されていたので、思わずサマーズのおみやげとやさしいタオルを購入する。昨今の糸井重里氏の活動にはいろいろと思うところがないでもないのだが、なんだかんだで『MOTHER2』のデザイン性の高さには惹かれてしまう。
午後十二時半ごろニューミュンヘンに到着。午後一時ごろ、大喜利ユーザーとして名高いゴハ氏とひらたい氏と落ち合い、入店する。フワちゃんの話、キングオブコント審査員の話、M-1ファイナリストの話など、お笑いファンならではの話をバカスカ話す。二時間で店を追い出された後に、近くの喫茶店(ベシャメルカフェ)へと雪崩れ込み、計三時間ほど話をしたように思う。次回は“とりき会”も交えて、お笑いの話をバカスカ出来れば嬉しい。
午後四時半ごろ、解散。御堂筋線で本町駅へと移動し、久しぶりにtoi booksを訪れるも気になる本は見つからず、再び御堂筋線で淀屋橋駅へと向かう。気になる本との出会いがそう易々と得られるとは限らないのである。
午後五時四十分、キュウの単独公演が行われる会場・朝日生命ホールがある淀屋橋駅に到着。開演時刻よりも早めに到着してしまい、やることがないので、近郊のスーパーマーケットやコンビニで時間を潰す。午後六時、そろそろ開場時刻なので、朝日生命ホールへと向かう。建物内に入ってみると、エレベーターピッチの前に並ばさせられている人たちを見つけたので、おそらくこれがそうだろうと思い、自分も並ぶ。エレベーターで上の階に上がると、そこでも並ばされている。他の芸人の単独ライブでなかなかお目にかかることのない、けっこうな厳戒態勢である。
午後六時半、開場時刻に合わせて、チケットをもぎられてロビーへと案内される。物販コーナーで、100円ライター、アクリルスタンド、ポーチなどが売られていたので、ポーチを購入。2,200円という攻めた価格設定は、応援という大義名分でなんとか押さえ込んだ。一度、ロビーの外に在るトイレで用を足してからホールに突入し、指定された席に座る。舞台に向かって右側の前から四列目。演者が近い席が嬉しい。左右の席に女性が座っている姿を確認し、途端に自分の体臭が気になり始める。一日中、あちらこちらを歩き回ったため、自分でも少し汗臭いように感じていたからだ。制汗剤を持参すべきだったと後悔。
午後七時、『キュウ 第9回単独公演「Q」』開演。午後八時過ぎ終演。幕間映像無し、企画無し、アフタートーク無しのシンプルな漫才ライブ。とはいえ、ネタの中にもライブ全体にも仕掛けが満載で、気が付けばずっと笑っていた。今年のM-1に掛けられそうな、笑いどころの多いネタも少なくなかったように思う。年末の活躍に期待を寄せてもいいのだろうか。
御堂筋線でなんば駅に戻り、そのままホテルに二泊目のチェックイン。ついでにアムザ仕様のMOKUのタオルを購入する。これで旅行時に立ち寄るホテルのMOKUのタオルはすべて手に入れたことになる。嬉しい。風呂に入り、休憩所でビールを飲み、しばらくスマホを眺めながらゴロゴロ過ごし、午前零時ごろに就寝。
・8月13日(火)
午前七時起床。前日の朝は敷き布団の薄さで背中が痛くなってしまったのだが、今朝は敷き布団の上に掛け布団を敷いて、その上で横になったおかげなのか、よく眠れた。大体、カプセルの中は熱がこもりがちなので、掛け布団に必要性を感じていなかったのである。これならば、まだまだ無事にカプセルホテルを利用し続けることが出来そうだ。しばらくスマホを眺めたところで、身支度を済ませる。
午前九時半ごろチェックアウト。昨日のリベンジを果たそうと、再び黒門市場へと向かう。店の前に立つと、シャッターが上がっている。有難い。目的のお店・川崎屋にて、ニッカのフロム ザ バレル(3,520円)を購入する。大した値段ではないが、地元で売られているところを見かけたことがなかったので、抑えておきたかったのである。その足で、再びアムザの方へと戻り、一日目に冷やかしたビックカメラへ突入。酒コーナーでザ・ディーコン(3,980円)と戸河内プレミアムウィスキー350ml(1,490円)を購入する。そして、高速バスターミナルのあるOCATの一階にある酒屋・やまやでタリスカー10年(4,598円)を購入。我ながらインバウンドみたいな買い物である。これらの酒瓶をボストンバッグに詰め込んで、高速バスターミナルの傍にあるコインロッカーに預ける。これでもう、今日は一日中身軽だ。
再びなんば方面へと戻ろうと地下街に入ると、肉まんで知られる中華屋・551があることに気付く。レストランのコーナーが午前十一時に開店する様子だったので(現在時刻は午前十時五十分)、食べてみることに。肉まん(290円)をひとつと、天津飯(焼売セット・1,110円)をひとつ。肉まんも天津飯もオーソドックスな味わいで美味しかった。オーソドックスであることは大事だ。
正午、なんばに戻る。街中のお土産ショップ・いちびり庵でミャクミャクのぬいぐるみ(3,600円)とハンカチタオル(600円)を購入したところで、今宮戎神社へと徒歩で向かう。そろそろ本業の方で取締役にさせられそうな雰囲気が漂っているので、商売の神様にすがっておこうと思い、お参りに出向いた次第である。GoogleMapによると、歩いて十五分ほどで着くらしいとのことだったのだが、夏の日差しがあまりにも厳しくて、グロッキーになりかける。途中、古本屋やコンビニで休憩しながら、どうにかこうにか到着する。お参りして、お守りを購入。どうぞよろしくお願いします。
流石に疲れ切ったので、なんばに戻るときには南海電車を利用した。やはり最後に頼りになるのは文明の利器である。今宮戎駅からなんば駅まで五分。なかなか電車の止まらない駅だったのだが、おかげでゆっくりと休憩することが出来た。
午後一時、なんば駅に到着。ところが、どこでどう道を間違えたのか、いつの間にか道頓堀に来ていた。何故だ。あまりにも人が多くて、人混みに酔いそうだったので、そそくさとなんばに撤退。ここから特に行きたい場所もなかったので、エディオンのなんば本店で時間を潰すことにした。幸い、ここの九階には“なんば らーめん一座”という、ラーメン屋だけで構成されたフロアがあるので、そこで昼食を取る。塩中華そばおかだで冷製煮干し塩ラーメン(1,100円)。煮干しの風味が強烈で、好き嫌いの分かれる味付けかもしれない。
食後、まだ少し物足りなさを覚えたので、続けざまにアサヒ製麺へ突入。京都冷麺(950円)を頂戴する。ベーシックな冷やし中華といった味わいで、なんだか懐かしい気持ちになった。
食後、しばらく店内で家電を見て回る。気になる電化製品もないでもないが、わざわざ旅先で購入する人間はそうはいないだろう。私もそういう人間である。というわけで、何も買わずに店の外へ出る。時刻は午後三時。高速バスの出発時刻まで残り二時間を切った。そろそろ飲食系のお土産も買っておこうと思い、商店街の中にあるりくろーおじさんの店へと歩みを進める。前回、大阪を訪れたときに、家族から「りくろーおじさんを買ってきてくれないか?」と頼まれたのだが、店の外に伸びている長い行列に絶望を感じてしまい、当時は購入を諦めてしまったのである。しかし、今回は時間的にも体力的にも余裕があったので、頑張って並んでやろうと思い至った次第である。ところが、店の前まで来たところで、その行列が出来立てのチーズケーキを求める人たちによるもので、それとは別に、出来立てじゃないものが欲しい人たち用の列が存在することを知り、脱力。長く待たされることなく、サクッと購入することが出来た。なんだよう。
ちなみに、りくろーおじさんのチーズケーキは要冷蔵なのだが、購入から七時間以内に冷蔵庫に入れることが出来れば、それまでは常温でも問題がないとのことだったので、旅先での購入を考えている人は参考にしていただきたい。
行列に並んでいるときにサクッと撮った写真なので、ちょっとブレている。
購入後、再びバスターミナルのあるOCATへ。それからは、会社の人たちのためのお土産を購入したり、ジュンク堂書店で気になっていた本『故人サイト』を購入したり、ジュンク堂でミャクミャクと西島大介がデザインしたキャラクターが漫才をしているグッズを見かけて度肝を抜いたり、高速バスでの移動中に飲むためのフルーツジュースを購入したり(経験上、長時間のバスでの移動には、甘くて爽やかな飲み物を飲むことが、自分にとって最も気が晴れる行為であると理解しているのだ)、トイレに行ったりしながら、じんわりと時間を過ごした。
午後五時、バスが出発。お盆休みの真ん中ということで、さほど乗客もいないだろうと予想していたのだが、ほぼ満席の様相を呈していて驚いた。否、お盆の時期なのだから、むしろ都会から田舎へと帰省する人の方が多くて当然なのである。どうやら旅の疲れで判断力が鈍ってしまっているらしい。帰りのバスでは『ザ・ビートルズ10』『山下達郎のサンデーソングブック』『9の音粋(月曜日)』を聴きながら過ごした。『サンソン』は例の件を受けて「聴けなくなりました!」と表明している人が多いようだが、私は相変わらず聴き続けている。思うに、例の一件を受けても、確固たる意志をもって習慣を引き剝がすほどの不快感を覚えられなかったためだろう。その意味では、私は冷酷なのかもしれない。だが、まだ自分が飲み込みきれていない多勢の正しさに、何も考えずに押し流されて安易な判断を下したくないだけなのかもしれない。
午後九時、帰宅。お疲れさまでした。またお願いします。