日曜の昼間、特に何もすることがなかったので、ぼんやりとパソコンの画面を眺めていたら、ちょうど『第45回ABCお笑いグランプリ』の放送が始まったところだったので、せっかくだからとABEMAで視聴した。
まずはAブロックから。大阪吉本のぐろうは、相方から借りた自転車に盗難届が出されていたことへの苦情から始まる漫才。人間の良識に委ねられているところを悪用した設定は、インターネットの一部でもてはやされるライフハックを彷彿とさせ、とても現代性を感じさせられるものではあったのだけれど、設定の魅力以外の笑いが削ぎ落されているようにも感じられて、痒いところに手が届いていない感。とはいえ、面白かった。続く天才ピアニストはタクシードライバーのコント。ますみ演じるタクシードライバーの達者なモノマネを軸としたネタで、パフォーマンスとしては面白かったのだが、肝心のコントとして見ると、展開が控えめで物足りず。また、既に状況を伝えているのだから、いちいち上司から掛かってくる電話に出る必要性も感じられなかったことも、やや引っかかった。色んな人から電話が掛かってきた方が、ドタバタ喜劇としての完成度が上げられたのではないか……という気がした。三番手のダウ90000は、部屋での飲み会の最中にベランダへ出てきて、これまで隠していた秘密をついつい喋ってしまう……というシチュエーションを土台にした群像コント。エモーショナルな設定を第三者の目線で茶化すのではなく、そのエモーショナルな雰囲気のままに展開させる手腕は流石。中盤のさりげない告白を終盤で再利用したキレイなオチもお見事。Aブロック最後の金魚番長は、ヘンテコなオーケストラに参加する漫才コント。得体の知れないボケをツッコミが一言で説明する昨今の流行りのスタイルを取り入れながら、アクロバットに様々なキャラクターを演じる箕輪に翻弄されている姿の良く似合う古市の塩梅が絶妙。霜降り明星とハライチの良さを磨き上げて、自分のモノにしているようなとてつもなさを感じさせられた。結果、ダウ90000が最終決戦に進出。
Bブロックは変化球揃い。トップバッターのエバースは、彼女に「車を持っている」とウソをついてしまった佐々木が、そのウソがバレないように、相方の町田に車になってもらおうとするナンセンスなしゃべくり漫才。設定のバカバカしさに加え、ナンセンスな笑いを助長する町田のツッコミが心地良い。ただ、エバースに関しては、何年か前のM-1で目にしたネタ(思い出の場所で意中の人と再会する約束をしているのだが、その場所に建物が出来てしまって……というネタ)が非常に面白かったので、どうしてもそれと比較してしまう。完全にナンセンスに走るよりも、ちょっとリアリティが残っているネタの方が、熱が感じられて笑いに転換されやすい印象があるのだけれど、どうだろう。続いては、今大会唯一のピン芸人・やました。恋人との会話をやたらと頑張ってしまう女性の姿を演じた一人コントで、面白かったのだけれど、その面白さを上手く言語化できない。状態の面白さを見せるために細かいボケをどんどん消費していく様に、リアルタイムでは田津原理音のR-1決勝でのネタを思い出した。三番手はフランスピアノ。パントマイマーのオーディション風景を描いたコント。言葉によって笑いが生み出されるネタが続いていたところで、躍動的でとことんバカバカしさを追求したネタを投げ込んできたことで、印象が差別化されたようには思うけれど、個人的にはあんまりハマらず。最後は青色1号。アナウンサーの面接試験を舞台としたコントで、設定そのものに関してはさほど意外性を感じられなかったのだが、アナウンサー志望の仮屋と面接官のカミムラの表現力が異常に高く、その骨太な面白さにすっかり魅了されてしまった。審査中に東京03の名前が出ていたが、初期の彼らはまさにこういう演技の熱量を重視したタイプのコントを演じていたように記憶している。今後の進化に期待。結果、青色1号が最終決戦に進出。
Cブロックは化け物揃い。M-1王者・令和ロマンは猫の島を舞台とした漫才コント。ほのぼのとしたタイトルに対してサイコホラー映画を思わせる展開のギャップでしっかりと観客の心を鷲掴みにしてからは、髙比良の卓越した発想ときめ細かい表現力のボケ、松井のどっしりと落ち着いたツッコミでみっちりと笑いを生み出していく。やっていることは真空ジェシカと同じ系統なのに、正統派の漫才であるかのような重厚感は、王者としての余裕によってもたらされてものなのだろうか。ちょっととんでもなかった。そこに食らいついてきたのは、テクニシャンなコント職人として知られるかが屋。定期を巡って繰り広げられる中学生たちのやり取りを丁寧に表現したコントで、令和ロマンとはまったく別ベクトルの笑いを生み出していた。正直、表現力という点に関していえば、今大会のベストアクトだったといえるだろう。とんでもないことが起こらない。意外性がない。でも、だからこそ、それは笑いに変えられることは、あまりにも凄まじいリアリティの証明なのだ。三番手はフースーヤ。シンデレラをテーマにした漫才コントの中に挟み込まれるギャグ!ギャグ!ギャグ!ハマる人にはとことんハマるし、ハマらない人にはとことんハマらない、そんな諸刃の芸風だが、その精度は着実に上がっているように思えた。今年の年末は忙しいことになってもらいたい。予選のトリを飾ったのは、ワタナベエンターテインメント所属のトリオ・ぎょねこ。円周率の記憶術をテーマにしたコントだったのだが、覚え方が気持ち悪いというところに重点を置くのであれば、コントよりも漫才の方がハマッたような気もした。ただ、実際の円周率に沿っていることが明らかだからこそ笑いに昇華されていたところもあったので、一概には言い切れないところではあるのだが。コントという表現技法を採用するのであれば、もうちょっと遊ばせられる部分があったのではあるまいか。結果、令和ロマンが最終決戦に進出。
最終決戦のネタは、ちょっと時間が遅くなってしまったこともあって、夕飯(チヂミ)を作りながらの視聴となった。松井が里帰りする実家の描写を圧倒的な表現力で遊び倒した令和ロマン、くだらない遊びで大金が机の上に積まれていく設定の異常性がもっと観客に伝わるセリフや描写があったのではないかという疑問が残った青色1号、「浮気相手の存在を隠し通す」というシンプルなドタバタ喜劇で勝利を狙うも三谷幸喜的な味付けに二番煎じ感が否めなかったダウ90000、といった印象。結果、優勝は令和ロマン。お見事でした。