白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ベストのや団」(2023年2月22日)

2022年12月1日に東京・角筈区民ホールで開催されたライブを収録。

や団はソニー・ミュージックアーティスツ所属のトリオだ。本間キッド、中嶋亨、海野健太郎によって2004年に結成された。しかし、2007年に海野が就職・結婚を理由に脱退。ピン芸人として活動していたロングサイズ伊藤が加入して、現在の形になる。『キングオブコント』には第一回大会から出場。長きにわたり予選敗退の苦汁を舐め続けていたが、2022年に初の決勝進出を果たす。ファーストステージで470点の高得点を叩き出し(コットンと同点)、ファイナルステージへ駒を進めるも、結果は三位。しかし、それは長らく地下に埋もれていた彼らにとって、初めて日の光が当てられた瞬間だった。本作は、そんなや団にとって、初めての映像作品集である。

本編には八本のコントを収録。一本目にファーストステージで披露された『バーベキュー』、八本目にファイナルステージで披露された『雨』を配置する構成が手堅い。『バーベキュー』は、当時よりも少し早めのテンポで演じられていたような印象を受けたのだが、気のせいだろうか。DVD収録用のベストライブということもあって、少し気分が高揚していたのかもしれない。『雨』は、キングオブコントの時にはあった軒下のセットが設置されていない状態で演じられているため、ずぶ濡れの男が暴走する状況の危うさが少しだけ弱まっていて、少し残念だった。舞台セットがコントに与える影響の重要性について考えさせられる。とはいえ、どちらのコントもやはり、とても面白かった。

『バーベキュー』『雨』以外のコントも秀作揃い。かつて役者を志望していた警官が強盗役を全力で演じる『防犯訓練』、ウエディングプランナーが婚約者の元カレでいちいち引っ掛かる情報を小出しする『ウエディングプランナー』、演者に灰皿を投げつけるタイプの演出家の元に鈍器のような灰皿が用意され……『演劇の稽古』などなど、シンプルで笑えるコントの目白押しだ。ネタの多くは、ロングサイズ伊藤によるアクの強い演技を軸に作られており、そこに天然ボケの空気を醸し出している中嶋がブーストを加える。そんな二人に巻き込まれるツッコミ・本間キッドの悲愴感を覚えないやかましさが絶妙なバランス感を生む。清く正しく正統派のトリオコントといえるだろう。

個人的に印象に残っているのは『街の喧嘩』と『ペンション』。『街の喧嘩』は、「路上で喧嘩を始めた二人の姿がなんだか八百長っぽい」という違和感の理由が、少しずつ明らかになっていく掘り下げ型のコント。中嶋と伊藤のウソ臭い演技と、違和感の理由が明らかになる瞬間のバカバカしさがたまらない。一方の『ペンション』は、自らの死亡フラグに気付いてしまった男が、なんとか生き残ろうと模索する様子を描いたコント。シチュエーションに振り回される本間とアクの強い演技の伊藤、そこにさらっと加わるコミカルな役回りの中嶋……というバランスが絶妙で、非常に面白かった。今回、本編で披露されたネタの中では、これが一番だったかもしれない。

これらコントに加えて、幕間映像として「本間キッドの新居改造計画」を収録。本間の留守中、その新居に中嶋と伊藤がこっそり忍び込んで、豚骨ラーメンを仕込み出したり、収納スペースを増築したり、やりたい放題している様子を撮影したものである。キングオブコント決勝進出後に撮影された映像ということもあって、さぞ良い部屋に引っ越したのだろうと想定しながら観始めたのだが、これが如何にも若手芸人の部屋といった雰囲気のワンルームで、売れない芸人の厳しさをまざまざと感じさせられてしまった。頑張れ。映像そのものについては上々の出来。巧みな編集によって、二人の無邪気なヤバさを強調した内容で、とても楽しかった。……ただ、後になって、や団の三人による副音声コメンタリーを聴いてみると、この幕間映像の中ではまったく触れられていない、とんでもないことがこっそり起きていたことが語られていて、もはや素直に笑いづらい映像になってしまった。また引っ越した方が良いのでは……?

また、特典映像として、番組の企画(おそらくAbemaTVの『芸人代理戦争』)でバイきんぐ・西村瑞樹がや団に書き下ろしたコント『盲腸』も特別収録。本来、ネタ書き担当ではない芸人が書いたコントということで、とんでもなくヒドい内容になっているのではないかと心配していたのだが、これが意外にもしっかり世界観から作り込まれていて、なかなか面白かった。こういうフィクションの発想がある人が、あのクレイジーなバイきんぐのコントをやっているのかと思うと、なにやら味わい深い。

バイきんぐやハリウッドザコシショウ、マツモトクラブなどのように、ベスト盤のリリースをきっかけに、続々と映像作品を世に送り出し続けている芸人も少なくないソニー・ミュージックアーティスツ。や団はその流れに乗るのか、それともこれっきりなのか。とにもかくにも今年のキングオブコントでの活躍に期待したい。

・本編(62分)
「バーベキュー」「防犯訓練」「ウエディングプランナー」「事件現場」「演劇の稽古」「街の喧嘩」「ペンション」「雨」+幕間映像「本間キッドの新居改造計画」

・特典映像(13分)
「盲腸」

・音声特典
「や団による副音声コメンタリー」