太田プロ所属のお笑いコンビ、トップリードの傑作選である。
あまりにもシンプルなタイトルからは、コントの演じ手としての意地とプライドが感じられる。事実、本編には、彼らの代表作だけが厳選して収録されている。幕間映像は一切無い。実に潔い。“トップリード”名義の作品は、本作の他に2011年11月に開催された単独ライブを収録した『単独ライブ 二日坊主』が存在する。この二枚だけである。本作のリリース後、トップリードは「オンバト+」初代チャンピオンに輝き、「キングオブコント」で二度の決勝進出を果たしている。それなりの功績だ。そのことを思うと、この本数はあまりにも少なすぎやしないか。売り上げが芳しくなかったのかもしれないが、もっとソフトがリリースされても良かったのではないか……と今更ながらに思う。
本編には七本のコントを収録。本作はお手ごろな価格で若手芸人のネタを楽しめるシリーズ【笑魂(Short Contents)】の一作としてリリースされたため、ボリュームはやや控えめだ。とはいえ、ここは敢えて、「少数精鋭」という言葉を使わせていただきたい。なにせ、本編を再生し始めて、いきなり始まるコントが『狭いラーメン屋』である。文字通り、新妻が店長を務める“狭いラーメン屋”を訪れた和賀が、その店ならではの特殊な調理法を目の当たりにする様子を描いている。通常のコントのように、当事者同士がボケとツッコミの関係性にあるのではなく、コントの舞台が持つ特異性が結果的に二人をボケとツッコミの関係にしてしまう。とはいえ、決して非現実的とまではいかない、ギリギリ現実味のある設定なので、シチュエーションを無理矢理に作り上げているような印象は与えない。バランスの整った、素晴らしいコントである。
この他のコントも名作揃い。新妻の新宅への引っ越しのお手伝いを終えた和賀が雑談中に衝撃の事実を知ることとなる『引っ越しのお手伝い』、恋人と別れた悲しさから友人の新妻とベロベロになるまで酔っ払った和賀が翌日に己が犯した過ちに気付かされる『二日酔い』、トイレの前でコンパの作戦を打ち合わせる二人に秘められた想いとは?『コンパのトイレタイム』などなど……いずれのネタも巧みな構成がとても魅力的だ。芸能の世界において、決して目立つ見た目をしているとはいえない二人だが、だからこそ、それぞれの魅力を存分に引き出せる台本を適切に作り上げている。
これら傑作コントの中でも、突出して素晴らしいネタが『雨の建設予定地』と『先行く男』である。『雨の建設予定地』は『狭いラーメン屋』と同様、特異なシチュエーションが結果としてボケとツッコミの関係を作り上げているコントだ。雨の建設予定地を確認にやってきた二人が、傘とお土産で手元が塞がっている中でぐちゃぐちゃになりながら打ち合わせを重ねていく様子はとても滑稽で、しかし、その何処か見覚えのある混乱した状態に、共感を覚えずにはいられない。片や『先行く男』は、新妻演じるせっかちな男が、あまりにもせっかち過ぎて未来を予測していくという、他のコントとは一転してSF色の強いネタだ。とはいえ、あくまで舞台は日常的な風景で、いわゆる「すこしふしぎ」な魅力に満ち溢れている。当たり前のことのように平然と未来を先読みする新妻と、そんな新妻の言動に戸惑いを隠せない和賀のやり取りは、シチュエーションはまったく違っているものの、これまた『狭いラーメン屋』における、その状態を当たり前に感じている者(新妻)とその状態に始めて遭遇して驚きを隠せない者(和賀)の差異ある関係性を思わせる。その姿勢からは、異常を異常と突き放さない優しさが垣間見える。
これら本編に加えて、特典映像としてコント『雨男』と本編に収録されているコント『二日酔い』のオチの後の流れを撮影した『二日酔い おまけ』を収録。『雨男』は超が付くほどの“雨男”なアメミヤ(新妻)が、友達とキャンプに出掛けるのを楽しみにしている様子を描いたコント。基本的には笑えるのだが、雨が降っている状態がデフォルトなアメミヤの不遇な扱いがあまりにも哀しく、本編に収録されているネタに比べて作品性が強い。純粋にネタとしても勘当させられるのだが、和賀の「俺、こいつとは一生、一緒にいようって」という台詞は、今となっては非常に重い。もはや舞台に戻ることはなかったとしても、そうし続けてくれるのだろうか。
最後に改めて。勿体無い。
◆本編【39分】
「狭いラーメン屋」「ヨクルトおばさん」「引っ越しのお手伝い」「二日酔い」「雨の建設予定地」「先行く男」「コンパのトイレタイム」
◆特典映像【11分】
「雨男」「二日酔い おまけ」