白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

「ラランド単独ライブ「爆爆」」(2024年6月2日)

ラランド単独ライブ「爆爆」を配信で観る。

ラランドは上智大学の同級生で同じお笑いサークルに所属していたサーヤとニシダによって2014年に結成された。『M-1グランプリ2019』において“ベストアマチュア賞”を獲得したことから注目を集めるようになり、翌年にはレギュラーの冠番組『ラランド・ツキの兎』の放送を開始するなど、飛躍的な活躍を見せ始める。2021年には、サーヤ代表取締役社長とした個人事務所「レモンジャム」を設立、現在に至るまで大手芸能事務所に属せずに独自の道を歩み続けている。今回の配信は、2023年5月に東京・大阪・福岡の三都市で開催された後に、6月1日・2日に日経ホールで行われた東京凱旋公演より、6月2日夜公演の模様を撮影したものである。

正直なところ、私の中でラランドに対する評価はあまり高くない。むしろ、どちらかといえば、苦手の部類に入る。かといって、ネタがつまらない、と感じているわけではない。ただ、芸人としての評価よりも、「仕事と芸人の二足の草鞋」「個人事務所の設立」「古典的な女性芸能人としての振る舞いを否定」「芸人に限らない様々なジャンルのパフォーマンスへの進出」などのような、サーヤの“お笑い第七世代”的な立ち回りばかりが評価されているコンビ……という認識が強く、その印象が改善されないまま現在に至っているだけの話である。とはいえ、世間のラランドに対する評価が年を重ねるごとに向上しているところを見ると、自分の認識が誤っている可能性も否定できない。今回の配信は、それを確認するという意味で鑑賞させていただいた。

舞台上で演じられたネタは、オープニングアクトを除いて全七本。そのうちの一本は、酔っ払った状態のサーヤにネタを書かせた企画性の高いものなので、実質的には六本といえるだろう。全体を通して、「アイドルのサプライズ発表」「セクシーな家庭教師」「学生同士のウブな恋愛」などといったオーソドックスなシチュエーションに対して、意外性のある要素を掛け合わせるフォーマットのネタがメインとなっている。この“意外性のあるもの”がネタの肝となっているわけだが、そのキレ味がどうも良くない。シチュエーションとは正反対の位置にあるシンプルなものを取り込んでいるだけで、かえってベタな印象を与える。無論、ベタならベタなりに、そこから更なる展開を繰り広げる方法もあるのだが、そういった工夫も見られない。大喜利イベントでちょっとだけウケた回答と同じラインの回答を連続して出しているかのように、薄めの意外性を最後まで引き伸ばしたまま、ただただネタが終わっていく。はっきり言ってしまうと、詰めが甘い。もっと掘り下げていけば金脈があるかもしれない設定なのに、意外性の発見だけで満足してしまっているように感じられてしまった。

ただ、ちゃんと面白かったネタもあった。身分を隠して庶民のフリをして街に降りてきた王子(ニシダ)が庶民の娘(サーヤ)に恋をする『ミュージカル』は、かなり面白かった。ディズニーアニメを思わせる楽曲と二人の歌唱力がもたらすリアリティと、その王道ラインから外れるバカバカしさのバランスが絶妙(しかしミュージカルの定義からは逸脱しない、むしろだからこそ笑いが増幅する)。特にネタの終盤、少し違和感を残したニシダの発言に対して、サーヤがきちんとメスを入れてくれていたのは、痒いところに手が届いたかのような爽快感を覚えた。良かったといえば、『デスゲーム』も良かった。『デスゲーム』をテーマにしたコントは少なくないし、設定自体はさほど新しいものではないのだが、終盤でデスゲームのスタッフがてんやわんやになってしまうくだりでのサーヤの自由奔放な所作に、ちょっとだけ惹かれるものがあった。東京03の角田のように、余白多めの台本でアドリブが活かされる状況の方が映えるタイプなのかもしれない。

とはいえ、それでもネタに対する印象があまり芳しくないのは、企画映像のクオリティがあまりにも高すぎたためだろう。仕事と称してニシダをエジプトに行かせて現地でバラシにする「爆裂遠い地域でバラシ」、ニシダに仕掛け人の女性を接近させてラブホテルへと誘導させる「爆萎えラブホドッキリ」、いずれも単独ライブの幕間映像とは思えないクオリティで、異常に面白かった。否、厳密にいえば、面白過ぎた。単独ライブの幕間映像は、あくまでも舞台で演じられるネタの添え物に過ぎない。それなのに、今回の配信では、幕間映像が完全にネタを食ってしまっている。これでは元も子もない。……逆にいえば、二人の才能は舞台に収まらないところに至っている、ともいえるのかもしれないが。

(余談:今回の単独ライブに対する不満って、要するに「爆裂遠い地域でバラシ」におけるネタバラシの場面で映像を終了させているような感覚なんですよね。でも「~バラシ」の面白さって、ネタバラシの後のニシダの動きがむしろメインじゃないですか。当然のことながら、騙されたことに気付いた瞬間の面白さもあるんですけれど、無駄に自由時間が出来てしまったニシダが何処に向かって何を撮影してきたのか、ここに映像としての潤いがあるわけで。そういうのが本編のコントにも欲しかったなあ……と、個人的には思うわけです。以上、余談でした)

以上が私の感想である。以前から、ラランドのことを好きで二人のことを追いかけている人には笑えたのかもしれない(それはファンとして盲目的に観ている……という意味ではなく、二人に対する解像度の問題で)が、あまり興味を抱いていなかった私には物足りなかった。ことによると、ネタの裏に込められたメッセージのようなものがあるのかもしれないけれど(ここまで配慮しないと誰かに注意されそうな気がしてならない)、それでも笑いを生み出すという意味では、精度を感じさせてくれるような内容ではなかった。ただ、10年目という節目をきっかけに、ネタが進化する可能性もゼロではないと思うので、次の公演もあればチェックしてみたい。……なんか、ただ配信を見ていたヤツの物言いにしては、あまりにも偉そうになってしまったな。まあいいか。一応、配信料払っているんだから、これぐらい言わせてくれ。

以下、セットリスト(ネタバレになるかもしれないので注意)。

オープニングアクト「爆弾処理」
コント「サプライズ発表」
コント「家庭教師」
漫才「人生相談」
 VTR「爆裂遠い地域でバラシ」
コント「デスゲーム」
 VTR+ネタ「サーヤが爆酔いで書いたネタ」
 VTR「爆萎えラブホドッキリ」
コント「ミュージカル」
コント「卒業」

一部タイトルはこちらで勝手につけました。「こういうの書くな!」というご意見ございましたら、コメント欄に宜しくお願いします。