白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ロングコートダディ単独ライブ「じごくトニック」」(2021年12月8日)

2021年7月6日(大阪・なんばグランド花月)・16日(東京・草月ホール)に行われた東阪ツアーより、大阪公演の模様を収録。構成に、津村アキヨシ、足立良信。

ロングコートダディは堂前透と兎によって2009年に結成された。二人はともにNSC大阪校31期生にあたり、同期にはりんたろー。(EXIT)、セルライトスパ、インディアンス、ネルソンズ、ダイタクなどがいる。2012年にコンビを解散しているが、翌年に再結成、現在に至る。2020年に『キングオブコント』で初の決勝進出、2021年に『M-1グランプリ』で初の決勝進出を果たしている。ニッポンの社長セルライトスパとともに「関西コント保安協会」というイベントを開催しており、同メンバーによる同名のコント番組が2021年7月に朝日放送テレビで放送されている。

キングオブコント」「M-1グランプリ」ともに堂前の発想と兎の空気感を武器にしたネタを演じていた二人だが、単独ライブでもその魅力を惜しげもなく発揮している。犬を拾ってきた息子に対して父親が独特な言語表現でもって叱りつける『厳格お父さん』、先輩に送るプレゼントのセンスの無さが思わぬ事態を生み出してしまう『時をかける兵藤』、呼び出されたランプの精に対する願い事がなんか気持ち悪い『ランプの精』、甲子園を目指している四番ピッチャーに起きてしまった悲劇とは『魔物』など、大喜利力と演技力が適度に混ざり合ったコントの目白押し。その中でも『カットステーキランチ』は非常に味わい深いコントだった。バイト仲間の二人がファミレスで会話をしている様子を演じているのだが、兎が演じるちょっと独特の感性の男が他のバイト仲間からうっすらと距離を置かれている雰囲気がほんのりとリアルで、なんともたまらなかった。創作物としての愚者をあからさまに演じるのではない、あの実在感。そしてあのオチ。面白かったな。

オーラスのコント『じごくトニック』も良いネタだった。堂前演じる小説家の男がピストルで自殺すると、そこに兎演じる死に神がやってきて、死後の世界への案内を始める。閻魔大王が死者の行き先を決めることを辞めてしまった今、死者自身が何をすべきか選ばせてもらえる。男が選ぶのか、「天国」か、それとも「地獄」か、或いは「何になれるかな?ドキドキ!なんでも転生!」か。『M-1グランプリ2021』決勝で演じていたネタを彷彿とさせる設定だが、シチュエーションの重さは段違い。だが、だからこそ、そこに明確に組み込まれているメッセージがしっかりと突き刺さる。特に今、コンビの解散が急増する年末を経た今、このメッセージは余計に刺さりやすいのかもしれない。これを堂前が書いたっていうのが、またちょっとたまらない。

ちなみに、チャプターには明記されていないが、オープニング映像を含めた幕間映像も全て収録されている。明記されていないところに意図があるかもしれないので、その詳細は伏せるが、個人的には「○本と中○が近づいたら○ユ○○の漫才が聞こえてくる動画」があまりにもバカバカしくて、もう笑わずにはいられなかった。千鳥のDVDに何故かネゴシックスのネタが収録されていたときに感じたような、絶妙に可笑しい内輪ネタ感。良いねえ。

これら本編映像に加えて、特典として、東京公演でのみ演じられたコント『ヤンキー大敗』、過去の単独ライブの幕間映像に使われていた「兎、笑う」「宣材写真」「五分五分相撲」を収録。『ヤンキー大敗』は特典映像ではあるもののコントとしてもかなり上出来で、「その設定でこの展開にするのか!」という衝撃の大きいネタだった。一発勝負の感も強いが、何かしらかの番組でやってみてもらいたい。ありがちな設定が、あのくだりを挟み込むだけで、こんなにも簡単に一変してしまうとは……。

・本編(100分)
「厳格お父さん」「時をかける兵藤」「カットステーキランチ」「ランプの精」「脱がせてもらっている時間は時間に含まれていないと思っていたでござる」「魔物」「じごくトニック」

・特典映像(18分)
「ヤンキー大敗」(東京公演限定コント)
「兎、笑う」(単独ライブ「とけるミッドナイト」より)
「宣材写真」(単独ライブ「たゆたうアンノウン」より)
「五分五分相撲」(単独ライブ「ピンクタイムトリップ」より)