白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

1996年の玉置浩二『メロディー』は、もはや「大好きなあの歌」そのものになっているのではないだろうか

自分の人生において、初めて「これは自分の所有物である」と認識した音楽アルバムは、玉置浩二の『CAFÉ JAPAN』(1996年)である。父親がドライブ中に聴いていたCDを、半ば強引に奪い取ったのである。

当時の玉置は、このアルバムにも収録されているシングル『田園』で大ヒット中。シンガーソングライターとして脂がのり切っている時代だった。その才能は本作でも大爆発。かつて恋人同士だった男女のカラッとした再会を思わせる『ヘイ!ヘイ!』、素晴らしいお祭りの情景が人生賛歌のように光り輝く『SPECIAL』、エロティックなサウンドと歌詞がベッドシーンを想起させる『Honeybee』など、まったく異なったベクトルの楽曲を軽快に歌い上げている様は、まさしく“天才”としか言いようがなかった。

特に当時の私が好きだった曲は『フラッグ』。油まみれになって働いている労働者の暮らしを描写しながら、【自由のフラッグ】を目指している姿を、重厚なのにポップなサウンドで表現した楽曲である。思うに、まだ労働というものについて実感がなかった幼少期だからこそ、こういうハードな世界観に強い魅力を感じていたのだろう。今でも好きな楽曲ではあるのだが。

若かりし時代の思い出を、その頃の自分にとって大事にしていた楽曲の記憶とともに思い返す『メロディー』が、アルバムの幕を下ろす役割を担っているのも良い。

【いまもまだ 大好きな あの歌は 聞こえてるよ】という歌詞は、すべてのミュージシャンがリスナーにとってそうでありたいと目指しているところだろう。この名盤に相応しいラストナンバーである。