白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

タイムマシーン3号『カツアゲ』の話。


私は怒っている。主にタイムマシーン3号に対して怒っている。

タイムマシーン3号が『爆笑オンエアバトル』ないし『オンバト+』について、その王者としての立場から、番組のシステムについて茶化したような態度を取っていることに、本当に怒っている。番組の放送が終了して十二年が経過した今、「あの番組の観客で評価されるのは容易いことだ」とでもいうような態度を取り続けていることに、心の底から怒っている。それが、彼らがテレビに出るために、敢えて取っている態度であることを前提に理解した上で怒っている。

そもそも『オンバト』という番組に対し、良くない感情を抱いている芸人が少なからず存在していることは認識している。だが、そういった芸人たちの主張の根底には、番組内で適切な評価を受けなかったことに対する不満がある。芸のことなど知らない一般の観客によって、特に上から目線に居丈高に、時に具体的な根拠もないままに、一方的に審査される腹立たしさは理解できる。

だが、先程も申し上げたように、タイムマシーン3号の場合、番組内で高い評価を受けていたことを前提に「あの番組の観客から評価されるのは容易いことだ」と過去のエピソードとして笑い話にしている。これは先の芸人たちと些か事情が変わってくる。タイムマシーン3号はあくまでも審査している観客のことを手玉に取っているように話しているが、そこでオンエアされたネタを全国の視聴者が観ていることを忘れている。目の前の観客よりもずっと多くの視聴者が彼らのネタを観て、面白いと思っていたのである。それなのに、ネタ以外のところで観客にアピールしていただの、自分たちの主張のないネタを演じていただの、どうして当時の観客と視聴者が楽しんだ記憶を易々と裏切るようなことを言えるのか。当時の観客や視聴者は全員滅んだとでも思っているのだろうか。しかし、なによりも私が腹を立てているのは、タイムマシーン3号が『オンバト』での自らの対する評価を軽んじることで、自身の芸を蔑んでいることに無自覚であることだ。

断言するが、タイムマシーン3号は天才である。2000年にコンビを結成し、その三年後から『爆笑オンエアバトル』に出場している。同年、『M-1グランプリ2003』において、準決勝進出。更に二年後、『M-1グランプリ2005』にて決勝進出を果たしている。東京出身で非吉本所属のコンビでありながら、結成五年目にしてM-1決勝の舞台を踏んでいるのである。当時、彼らとともに並び称されていた、磁石・三拍子・流れ星といった面々が叶えられなかったことを、タイムマシーン3号は達成しているのである。誇るべきことである。漫才の技術力、テーマの大衆性、分かりやすく面白いエンターテインメント性については、ここで説明するまでもないだろう。それほどに、誇るべき実力のあるコンビが、テレビに出るために自らの出自ともいうべき番組を腐してほしくないのである。それは結果的に、自らの歴史を腐すことになる。胸を張ってほしい。

そんなタイムマシーン3号が、漫才ではなくコントに力を入れていた時期があった。2016年には『キングオブコント』で決勝進出を果たし、並み居る強豪を抑えてファイナルステージに進出している。この時、彼らが演じたコントが『カツアゲ』だ。不良学生(山本浩司)が如何にも気弱そうな学生(関太)からお金を巻き上げようと、隠し持っているだろう小銭を見つけるためにジャンプさせるのだが、飛ぶたびに学生の身体から小銭が湧き出てくる。

「小銭を所持しているかどうか確認するためにジャンプさせる」という古典的ともいうべきシチュエーションの一部分を、極端に過剰に描くことで笑いに変えているコントである。いわばデフォルメの笑いとでもいうのだろうか。そのインパクトのある設定は、下手すれば出落ちで終わってしまいかねないものだが、このテーマを大きくずらすことなく、最後まで走り切ってしまっているところに、彼らの芸人としての胆力の強さを感じさせられる。会話のテンポ、小銭が出るリズム、隙のない展開で、小銭が溢れ出るたびに否が応でも笑ってしまう。シンプルだからこそ確かな技量を感じ取れる一本だ。これだけのネタを成立させられるのだから、あんまり卑屈にならないでほしい。マジで。

ベストシーンは股間から出てくるモノ。