いつもお世話になっております。菅家です。
先日、私が利用している質問サービス【mond】におきまして、匿名の方から「『R-1グランプリ』で披露された友田オレのネタについて、詳しい批評を聞きたいです」という旨の問い合わせがありました。ここ数年、複数人の方々から「お前の文章はつまらない」「お前の書く批評は面白くない」などのような貴重なご意見を投げつけていただいたことを受けまして、芸人のネタについてお話させていただく行為からうっすらと身を引いていたのですが、第三者からのご要望となると話は別です。せっかくの機会ですので、じっくりと友田オレのネタについて考えてみたいと思います。
『R-1グランプリ』で披露された友田オレのネタは、ファーストステージでの『風間和彦(以下、『辛い食べ物節』と表記。こっちの方が分かりやすいので)』とファイナルステージでの『ないないなないなない音頭』の二本になりますが、今回の記事では『辛い食べ物節』について振り返ります。ただ、『辛い食べ物節』は現在、友田の演じる演歌歌手“風間和彦”名義による音源が複数の音楽サイトにおいて配信を開始しており、本文で引用して解説しようとすると著作権法に抵触する可能性があります(以前、2700の『右ひじ左ひじ交互に見て』のネタを全文引用して解説した記事を出したところ、同様の指摘を受けて公開停止となったことがあります)。そのため、今回の記事では基本的に解説のみに留めざるを得ないので、メインの歌詞部分については歌詞サイトを参考にしていただけますと幸いです。リンクも貼っておきますね。
それでは始めていきましょう。
まずは、おそらく著作権法に抵触しないであろう、明転から歌唱に入るまでのくだりを文章化して摘出します。『辛い食べ物節』が、いわゆる歌ネタではなくコントとして成立しているのは、この曲に入るまでのフリの部分が大きく影響しているように思います。なんとなく世間的には歌ネタよりもコントの方が作品として優れているかのようなイメージが浸透しているので、その辺りも考慮されているのかもしれません。知らんけど。
(無人の舞台にドラムロール)
司会(声のみ)「第68回全日本演歌大賞を受賞したのは……風間和彦『辛い食べ物節』」
(ファンファーレと拍手に迎えられながら、スポットライトを浴びた風間和彦が登場)
司会「風間さん、見事大賞を受賞されました。今のお気持ちをお聞かせください」
風間「いやー、そうですねえ……。うーん、まあ、デビューしてから42年間、この『辛い食べ物節』一本でやってきましたから。ようやく報われたな、と。そういう気持ちがしております」
司会「なるほど……歌い続けてみるものですね」
風間「(感情の声が漏れ出すように)ああ……ああ……」
司会「それでは早速、歌っていただきましょう。風間和彦さんで『辛い食べ物節』です。どうぞ」
(曲のイントロ)
司会「辛い食べ物への素直な気持ちを歌ったこの曲で、見事大賞を受賞されました。それでは歌っていただきます。風間和彦『辛い食べ物節』」
以上が歌唱に入るまでの導入となります。レコード大賞をモチーフとしたような晴れ舞台で歌を披露するシチュエーションが、丁寧に描かれています。ちょっとした喋りのトーン(「『辛い食べ物節』一本で」の言い回しで笑いが起きている)や喜びのあまりに漏れ出る声(「ああ……ああ……」のくだり)などで笑いが起こっていますが、歌手としての風間和彦のキャラクターやシチュエーションそのものを崩壊させるほどのものではないことから、あくまでも歌ネタへの導入だということが分かりますね。
興味深いのは、うっすらと緊張感を漂わせているシチュエーションであるにもかかわらず、場にそぐわない曲目『辛い食べ物節』が明らかにされた時点では、さほど笑いが起きていなかったこと。R-1後に公開された同ネタのライブ映像(本記事冒頭に貼りつけている動画)では、曲目が発表された時点で観客からクスクス笑いを引き出していたことを考慮すると、おそらく『辛い食べ物節』というタイトルも笑いどころだったのではないかと思われます。でも、R-1決勝の舞台においては、さほどウケなかった。ここに当時の観客たちの友田に対する「お前は面白いのか?」という挑発的な姿勢が伺えます。ルシファー吉岡、吉住、さや香 新山とお笑いファンの間では名の知れた芸人たちがネタを披露した後だからこそ、余計にそういう雰囲気になっていたのかもしれませんね。
ここからは『辛い食べ物節』の歌詞についての話になります。
まずは一番の歌詞ですね。
歌ネタにおいて、一番の歌詞は観客に「このネタはどういうネタなのか」を理解してもらうための基準となります。そのため、誰にでも理解できるような分かりやすさがなくてはいけませんが、ただ分かりやすいだけではいけません。基準である以上、ここでしっかりとネタに対して観客に興味を持ってもらわないと、これ以降のネタをまともに聞いてもらえなくなる可能性があるからです。特に『辛い食べ物節』の場合、全体に笑いをまぶすというよりも、オチの部分で一気に笑いを巻き起こす構成になっているため、ここで観客の心を掴まないと、取り返しのつかないことになってしまいます。
そのことを踏まえた上で一番の歌詞を見てみましょう。ここでは世の中に存在するすべての人たちのことが“辛い食べ物”を軸に歌われています。“辛い食べ物”に対する認識は人それぞれに違う。当たり前のことではありますが、だからこそ忘れてられてしまいがちな視点の歌詞といえるでしょう。一番の歌詞は、そんな大局的な視点が感じられる言葉の後に、【俺は苦手で嫌い】と身も蓋もない個人の主張へと一気に落とし込んでしまうギャップが笑いどころとなっています。ただ「嫌い」なだけではなく、「苦手で嫌い」というところが良いですね。先の「決して得意じゃない(=苦手)人」の部分がフリとして効いています。シンプルで分かりやすく、それでいて強めの主張がなんだかバカバカしい、基準としては絶妙なラインを突いているといえるでしょう。
また、この一番の歌詞における前半の大局的視点の部分が、【俺は苦手で嫌い】という主張を絶対に相手へ伝えようという強い意志によるフリであることも見逃せません。辛い食べ物が好きな人がいることも知っているし、辛い食べ物が嫌いな人がいることも知っているし、辛い食べ物が好きだけど苦手な人がいることも知っている。そういった人たちが存在しているということは、ちゃんと理解している。でも、【俺は苦手で嫌い】なんだよ……と、そういった人たちとの差別化を図っているわけですね。これを踏まえて、この後の三番の歌詞を見ると、より一層の味わい深さが出てくるのではないかと思います。いやあ、良い基準だなあ。
続いて、二番の歌詞を見てみましょう。
二番の歌詞は、一番の歌詞における【辛い食べ物は好きだけど決して得意じゃない人】を補填するものになっています。【得意じゃない】とはどういうことなのか、具体例を提示するわけですね。内容としては一番の歌詞と大差ないように見えますが、実際の映像では風間和彦が【体が熱くなる人】【顔が赤くなる人】の歌詞に合わせた動きを見せているため、むしろ一番よりも笑いどころが多くなっています。ネタのシステムが明かされた後なので、観客は歌詞の内容と所作のギャップで笑える状態になっているわけですね。一番の基準からさりげなく段階を踏む繊細な技巧、これはなかなか渋い遣り口ですよ。
二番の注目ポイントは、一番の歌詞における【俺は苦手で嫌い】という歌詞の【苦手】の部分を説明するパートでありながら、【体が熱くなる】【顔が赤くなる】などの身体的な理由を挙げずに、【俺は家に帰りたくなる】と明らかに【嫌い】と直結している感情を挙げているところにあります。要するに「【苦手で嫌い】って言ってたけど、単純に【嫌い】なだけ」というボケが炸裂しているわけですね。ただ、この部分については、観客にもあんまり伝わっていないのではないか、という気もします。というのも、私も歌詞を読み返してみて、ようやく気付くことが出来た次第で……。どうなんですかね。みんな、この意図を読み取った上で、笑っていたのでしょうか。なんか【俺は家に帰りたくなる】というフレーズで笑っちゃってたんじゃないかって気がするんですけどねえ(もちろん、その可能性を踏まえた上で、このフレーズを選んだのだろうと思いますが)。
最後に全体のオチとなる三番の歌詞です。
三番は語りが中心。風間和彦に対して、「この店の辛い食べ物なら風間さんでも食べられます」と言ってのける輩の喋りが再現されています。この部分に関しては、もうシンプルにあるあるネタですね。特定の食べ物が苦手だと言っている人に対して、「本当の〇〇を食べたことがないから」とかなんとか言って、相手の苦手な食べ物を好きにさせることで人生の経験値を重ねようとするような恩着せがましい人をターゲットとした、かなり典型的なあるあるネタです。もはやベタな切り口のネタと言い切ってしまってもいいのかもしれません。
ただ、フリとなる語り部分がベタだからこそ、一番のオチを彷彿とさせるオチのフレーズが、まるで伏線回収のように煌びやかに輝くわけですね。この直前に【風間さんも この味は絶対好きって言うと思います】という一文を入れることで、一番のオチがそのまま再登場するのではないかと観客の視線を逸らしているところも、またポイントが高いです。重ねてくるかと思いきや、少しひねりを加えることで、まったく別のニュアンスにすり替えてしまう……なんともドラマチックな構成ですね。『MOTHER2』みたいですね。……違いますね。とにもかくにも鮮やかなオチであります。
この三番の歌詞を踏まえた上で、これまでの歌詞を振り返ってみると、この歌が三番の歌詞に登場する人物に対して「俺は辛い物が苦手で嫌い」であると丁寧に段階を踏んで伝えるために作られた曲であるように思えてきますね。そして、その丁寧に段階を踏んでいる工程そのものが、風間和彦という人物が辛い食べ物のことを本当に苦手で嫌い(というか嫌い)だと思っていることを、歌詞の内容よりも強く証明しているわけです。いいですねえ。根深い怒りを感じさせますね。なのに、ベラボーにバカバカしいですね。正直、リアルタイムで見ているときはあんまりピンとこなかったのですが、こうして紐解いてみると、なかなかに興味深いネタでした。やっぱりちゃんと解体しないとダメだな。
こちらからは以上です。