白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「R-1グランプリ2021」(2021年3月7日)

【司会者】
霜降り明星粗品せいや
広瀬アリス

【審査員】
陣内智則
友近
ホリ
古坂大魔王
野田クリスタルマヂカルラブリー
川島明麒麟
ハリウッドザコシショウ
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 ※現在【Finalステージ】かが屋 賀屋まで

【1stステージ】

マツモトクラブ(敗者復活)
六回目の決勝進出(うち五回が敗者復活)。『告白』。幼馴染みの”イクヨ”に近所の公園へ呼び出された男が愛の告白を受けるのだが、それは全て男が一人でやっていた「まさかに備えての練習」で、その様子を不審に思っていた近隣住民が通報、警官から職務質問を受けることに。前半の「愛の告白を受ける妄想パート」と後半の「警官から職務質問を受ける現実パート」、それぞれまったく違ったシチュエーションであるにもかかわらず、男の言動が殆ど同じものになってしまう奇妙なかみ合わせを主軸としたコント。フォーマットとしてはアンジャッシュの『すれ違いコント』に近い。結果、男の「まさかに備えての練習」が、愛の告白ではなく職務質問で見事に活用される展開がたまらない。小道具のペットボトルも後半の展開にきちんと活かされていて、非常に完成度が高い。「イクヨ」の名前が「行くよ」に繋がるオチも鮮やかだ。ただ、この形式のコントは、どうしても後半の流れが答え合わせのような展開になってしまうので、更に観客を驚かせるような展開が、もう一つあっても良かったような気もする。

ZAZY
初の決勝進出。『二人の一年』。男女交際のシチュエーションをベースに、ナンセンスギャグ漫画を展開させていくパフォーマンス。内容に一貫性がなく、それぞれに独立したネタとなっているが、季節を重ねるごとに内容は右肩上がりにアヴァンギャルド化。ただ鼻孔が広い女性に惚れただけだった男が、最終的には身体を地図記号発電所にしてしまう。これだけを見るとまったく意味が分からない。だが、春から夏、秋から冬へと展開させることで、この一見すると意味の分からないギャグを当たり前のものとして受け入れられるようになってしまう。この短時間で観客にZAZYの笑いを学習させ、このムチャクチャな設定を本ネタのフリにしてしまう。ここに確かな計算が見られる。また、それぞれの季節が終わるたびに、ツッコミ役の第三者が更に別の第三者からツッコミを入れられるという重層構造で成立した畳み掛けの構成を採用することで、笑いどころの密度を上げている点も無視できない。個人的には、これといって特徴のなさそうな老人のイラストの口元に注目して、「一歯(いっし)!」とツッコミを入れていたのには笑った。これがなければ、インパクトは残るものの満足感に欠けるネタになっていたことだろう。そして最後は、それぞれの季節で奏でられたリズムと、それぞれの季節のオチに使われていたワード「なんそれ!」を集約させた大団円的パフォーマンス。ただナンセンスなだけでは観客が満足できないだろうことを予測していなければ、こんなオチには出来なかっただろう。徹底的に緻密に計算された悪ふざけである。お見事。

土屋

初の決勝進出。『自転車競技部』。高校三年、最後のインターハイで初の全国制覇を目指し、力を振り絞りながら走っている部員の口調が何故か田原俊彦みたいになってしまう。とにかく設定が良い。素晴らしく下らない。下らないけれど、ちょっとだけ共感できる絶妙な塩梅が良い。確かに、疲れがピークに達してしまうと、田原俊彦のような力の抜けた声になってしまうような気がする。この僅かな共感が、下らない設定に微かなリアリティを生み出す。そこが良い。この設定を活かしきっている構成も良い。だんだんと喋り口調が不安定になっていき、いよいよ聞き取りにくいと感じ始めたところで、ネタばらし的に「あれ?あれ、なんか、さっきから俺の喋り方が……田原俊彦みたいになってる」と口にする、この導入のバカバカしさ。ここを丁寧に描いているからこそ、田原俊彦になっていることへの困惑、田原俊彦になっていることへの嫌悪、田原俊彦に挫けそうになる自分への憤怒(ここでしれっと「たのきんトリオ」を出すのもまた下らない)、足の痛みをやわらげてくれている田原俊彦への感謝……と、その後のバカバカしい展開を観客がスッと受け入れやすくなる。また田原俊彦の口調を演じる土屋のトーンが絶妙なのだ。これで本当に田原俊彦にそっくりだったら、ここまで面白くはならないだろう。あくまでも、自転車競技部の部員が田原俊彦になってしまっている、というレベルだから面白い。正直、三分といわず、二十分ぐらい見続けていたかった。良かったなあ。

森本サイダー
初の決勝進出。『ラブ・レボリューション』。コント『ラブ・レボリューション』を披露した芸人が、観客のビミョーな反応を受けて「お笑い観に来たんじゃないのかよ!」と激高、観客が「面白い」「つまらない」以外の感想を抱いたであろう要素をフリップで列挙しながら指摘し始める。ネタの構成そのものはテクニカルなのだが、あくまでも先の退屈なコントを面白いネタだと信じ切って演じている芸人が怒りにまかせて観客に訴えかけているという設定を重視しているところに、芸人としてのこだわりを感じる。だからこそネタに奥行きが生まれている。ただ、その設定を重視するが故に、終盤の嘆きの演技に時間を割き過ぎてしまっていた点については、失敗だった気がしないでもない。それほどまでの中盤のフリップのくだりが面白かったからだ。正直、嘆いている間、この状況をより面白くシャープに切り取ってくれるような一言が繰り出されるのではないかと期待してしまった。無論、嘆きの演技に集中するのも、一つの正解だとは思うのだが、満点を取りに行くならばそちらではなかった。

吉住
初の決勝進出。「THE W 2020」女王。『祠』。村のはずれにある祠に住み付いている化け物と交流を持つようになってしまった少女の一大事。基本的なストーリーは想定の範囲内。ただ、随所に見られる、吉住が演じる少女の人間としての傲慢さが感じ取られる台詞回しが、このありきたりなストーリーにうんざりするほど後味の悪い可笑しみを残している(村長からの糾弾を感情で隠し通すくだりのろくでなし感が最高)。とはいえ、とはいえ、この面白さを表現するには、あまりにも時間が足りなさすぎる。観客にも、前半と後半のギャップの面白さぐらいしか、伝わっていなかったのではないだろうか。それでもR-1にかけてきたあたり、余程の思い入れがあるのだろう。月末にリリースされるベスト盤『せっかくだもの。』に『祠』の長尺バージョンが収録されているらしいので、そちらを楽しみにしたい。きっと、より本質が掴める。

寺田寛明
初の決勝進出。『月がきれいですね』。夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と日本語で訳したように、様々な英文・英単語を独自に翻訳していく。英語の直訳からかろうじて想起されるシチュエーションを日本語訳に置き換えるスタイルのフリップネタである。手法としては、悲しい感情が生じるシチュエーションを様々な角度から引き出していく、いつもここからの『悲しいとき』に近い。ネタのシステムとしてはかなり正攻法で、余程のミスがないかぎりは適度にウケを取れるネタだと思うのだが、かなり序盤で構成を失敗している(「月が綺麗ですね」→「昼間は月を見られませんね」と来れば、また月に絡めた言葉が出てくるのだろうと待ち構えていたところに「燃えるごみは明日なんですね」は完全に肩透かし。せめて「燃えるごみは月曜なんですね」と月に絡めたワードをもってきてほしかった)上に、続くワードが伝わりにくかった(「8切りで上がっちゃいけないんですね」は説明がないと何の話か分からないし説明されてもUNOの地方ルールのことだと理解し辛い(※追記:大富豪のローカルルールだと指摘を受けました。結果的に、どんだけ理解し辛いくだいなのかがより補強されることに))ため、かなり厳しいスタートを切る羽目に。「ソフトクリーム」「部品が4つ」「弱いwi-fi」とちゃんとウケるフレーズも用意されていただけに、序盤の失敗が悔やまれる。ただ、ネタの後の、平場での立ち回りがちょっと面白かったので、その方面でハネる可能性もあるのでは。未来は僕らの手の中!

かが屋 賀屋
初の決勝進出。『駆け込み乗車』。駆け込み乗車に失敗した男に巻き起こる様々な悲劇。ストーリーそのものはとてもシンプル。良くも悪くも無駄がない。ただ、その描写に対するこだわりが、あまりにも尋常じゃない。スマホの向こうで怒鳴り散らしている上司の声に対する顔の動き、鞄の中に入れたコーヒーを取り出す直前のちょっと喉を触る仕草、姿勢を変えたときにだけはっきりと開いてしまうズボンの切れ目、あらゆる観客に伝わる視覚情報が研ぎ澄まされている。やや、それらの情報を見せるために、強引に作られたようなくだりも見受けられたが(イヤホンのくだりはストーリー的には不要だが、分かりやすいボケをクッションとして挟んだという意味ではあって良い)……それでも、やはりよく出来ている。これらの悲劇の後で、あのスマートなオチを迎えるところも良い。そこが駅のホームであることを忘れさせるほどの熱演を見せたからこそ、一人コントという手法であったからこそ、成立するオチである。もしも賀屋が、かが屋というコンビの片割れではなく、一介のピン芸人であったとしたら、イッセー尾形の再来といわれていたのではあるまいか。

・kento fukaya
初の決勝進出。『triple flip story』。三台のフリップを用いて、多種多様なネタを繰り広げる。フリップを駆使して、「三コマ漫画」「あるあるネタ」「ベスト3」などの多様な形態のネタを、三段オチで披露するパフォーマンスである。それぞれのネタは独立しているのだが、ネタ同士を繋ぐときに僅かな共通項を提示することで、一貫性のあるネタであるように見せている。この演出力の高さには驚いた。ネタの精度もそれなりに高かったのだが、とりわけ男女の出会いを描いた三コマ漫画には感動した。右端のフリップに女子高生、左端のフリップに男子高生、真ん中のフリップをオチにすることで、平面的なフリップに立体感をもたらしている。で、そのオチが”立体交差点”……これは凄い。見事としか言いようがない。オチでもう少し爆発していれば、ZAZYの感性重視のネタの後でなければ……。

・高田ぽる子
初の決勝進出。『乳首を買いに』。おじいちゃんの乳首が取れてしまったので、新しい乳首を買いに行く。定期的に登場するイノセント系女性芸人タイプ。個人的にはテレビに出始めた頃のだいたひかるを思い出した。乳首が取れたおじいちゃんのために専門店へと買いに行く設定そのものは、そこそこ王道のナンセンス。サイズや色を決める展開も妥当。ただ、乳首代を稼ぐために吹き始めたリコーダーが、異常に上手かったのには完全に意表を突かれた。むしろ、ここまでの脱力感溢れる展開は、この巧み過ぎる演奏力のギャップを生み出すためのフリだったのではないかというほどに笑ってしまった。楽器の演奏力を漫才・コントに取り入れたネタは既に数多く存在しているが、それらの中でもトップクラスのバカバカしさだったように思う。他のネタはどうなっているのだろうか。

ゆりやんレトリィバァ
五回目の決勝進出。「THE W 2017」女王。『ちゃうねん!』。仕事をバリバリにこなしている会社員が、指示したことをやらない後輩社員の態度を見て、その心の声を代弁しながら「ちゃうねん!」とツッコミを入れていく。親近感の持てるシチュエーションで観客の意識を集中させ、テレビのニュース番組へのツッコミへと流れていく導入が非常に丁寧。行動にリアリティを持たせながら、しかし、対話の成立しえない相手へとツッコミの対象を上手くシフトチェンジしている。ここから更に手にしているリモコンへツッコミを向ける流れも上手い。観客が考える隙を与えることなく、狂気の縁へと誘導してみせている。ここから観葉植物への怒涛のマシンガンツッコミが炸裂。ここでようやく観客はネタのシステムを完全に理解することになる。だからこそ、このくだりは面白い。このネタのシステムが分かったからこそ、それまでと比べて異様に長くてしつこいツッコミが面白い。また、ここでしつこくやっていたからこそ、この後のロッカーのくだりが爆発的に面白くなる。一度、えもんかけを挟んでからのロッカー、からの突然の観葉植物。たまらない。ここで、それまで一人相撲を繰り広げてきたゆりやん発信ではない、観客も想定外のボケをかましてくる。……と、デタラメに「ちゃうねん!」と言い続けているようでいて、実はメチャメチャ構成が練り上げられている。まさに一人ジャルジャル。その単純さが故に好みは分かれるところだろうが、いやはやスゴかった。

【Finalステージ】

かが屋 賀屋
『おなら』。恋人が帰った後の部屋で、それまで我慢していたおならを連発してしまった彼女。ところが、自宅の鍵を忘れてしまった恋人が戻ってきてしまったため、慌てて消臭スプレーを撒き散らすことに。すると、その消臭スプレーの匂いに気付いた恋人は、それが自分の体臭がキツいからだと勘違いし始めて……。一本目がスラップスティック(どたばた喜劇)だとすれば、二本目はハートフルコメディ。他愛のない嘘がとんでもない勘違いを呼び起こしてしまう……という定番の設定を、とてつもなく日常的なシチュエーションで描き上げている。一本目ほど笑いどころは多くないが、あの時間設定の中で紡がれた物語としては二本目の方が優秀かもしれない。敢えて、なんだろうな。

ゆりやんレトリィバァ
『インタビュー』。

・ZAZY
『たけのこ』。