白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

「THE SECOND ~漫才トーナメント~」一回戦第二試合(スピードワゴンvs三四郎)

第二試合はスピードワゴン三四郎の対戦である。

先攻はスピードワゴン

ホリプロコムに所属する漫才師で、小沢一敬井戸田潤によって1998年に結成された。『M-1グランプリ』に初めて敗者復活戦システムが導入された2002年に、史上初のワイルドカードとして決勝進出を果たしたコンビとして知られている。創生期のM-1を代表する一組といってもいいだろう。近年では、事務所の枠組みを超越した複数の漫才師によるネタライブ『東京センターマイク』(2013年~)を主催するなど、新しい世代の漫才の発展に尽力している。

ネタは『四季折々の恋』。

春には春の恋、夏には夏の恋、季節に合った恋愛をしてこそ一人前の男だということに気が付いた小沢が、疑問視する井戸田を尻目に四季折々の恋模様を見せつける。

トレンディドラマを思わせるクサいストーリーを展開する小沢の一人コントに対し、井戸田が観客や視聴者と同じ目線からツッコミを入れるスタイルの漫才。とはいえ、霜降り明星マヂカルラブリーの漫才のように、それぞれまったく別の世界に立っているわけではなく、ひとくだりごとに小沢がきちんと定位置へと引き戻されるところに、往年の漫才師としての味わいを感じる。その際に、井戸田が「大至急」と声をかけるところが、また良い。もはや彼らの漫才において定番のツッコミだが、内向的な小沢のボケに対するキレの良い口調の井戸田として、的確な言い回しであることに改めて気付かされた。

終盤、一人コントの世界で小沢と恋人が破局を迎えようとしているところに、井戸田が妄想世界の壁を超えて入り込んでしまうくだりに関しては、あまりにも予測できる展開でやや興覚め。しかし、「女優と結婚」「ハンバーグ師匠」と井戸田が芸能人生の中で築き上げてきたものを反映したボケが炸裂し、最後までしっかりと右肩上がりにしていたところは流石といったところだろう。

M-1に出場していた時期の脂は抜けてしまった感が否めないし、随所に挟み込まれるボケの中身は割と当時のクオリティから上がっていないようにも感じられたが(「きのこがあります」のくだりは他の漫才でも見た記憶がある)、今の年齢のスピードワゴンの現在地を示すことは出来ていたのではないだろうか、とは思う。

後攻は三四郎

マセキ芸能社に所属する漫才師で、小宮浩信相田周二によって2005年に結成された。深夜バラエティ番組『ゴッドタン』への出演をきっかけに小宮の人気に火がついて、漫才師として認知されるよりも先にバラエティタレントとして知られるようになった、異例の売れ方を見せているコンビである。『M-1グランプリ』には【次男坊】名義で活動していた2006年から出場、2016年から2018年にかけての三年間において準決勝進出を果たしているが、決勝進出の経験はない。

ネタは『占い師』。

「占い師に憧れている」という相田が、占い師になって小宮の未来を予測する。

基本的なフォーマットは漫才コント。支離滅裂な未来を予測する相田に対して、小宮が感情を爆発させながらツッコミを入れ続ける。

正直なところ、相田のボケそのものに関しては、さほど面白いものではない。デリバリーのように登場、水晶ではなく梅水晶、ユーキャンで占い師の資格を取った……などなど、シンプルでひねりのないものが主。もしも、これだけで構成された漫才だったなら、彼らが決勝の舞台に立つことはなかっただろう。

しかし、おそらくはこれらのレベルの低いボケは、意図的に組み込まれたものに過ぎない。彼らが本当に見せようとしていたのは、中盤から後半にかけて繰り出された芸能ネタの方だろう。それも、ただの芸能ネタではない。三四郎というコンビのことを、知っていれば知っているほどツボに入るラインの芸能ネタである。例えば、出川哲朗のくだりなどは、出川も彼らも同じマセキ芸能社という事務所に所属しているという前提の知識がなければ、そこまで大きな笑いには繋がっていかなかったのではないだろうか。おそらく、お笑いマニアを中心に集められた客層であることを認識した上で、彼らのツボにハマるであろうボケを作り込んできたのである。恐るべき戦略性である。

事実、一介のお笑いファンである私も、終盤の畳み掛けで転がるように笑ってしまった。「審査員はダウ90000の皆さん」「三位は佐久間宣行」まではどうにかこうにか踏みとどまったが、唐突な「キングオブコメディ」には完全に刺された。この大舞台でその名を堂々と言い切る覚悟、あえて具体的には言及しないバランス感、かつて同じライブに出演していた彼らの名前を三四郎がこの大舞台で出すことの意味……などなど、色々な感情が自分の中でごちゃごちゃになってしまって、気付けば大声を出して笑っていた。M-1のようにネタの作品性が求められる大会であれば、このようなネタが認められることはなかっただろう。その意味では、彼らはこの新しい大会に最も相応しいネタを見せつけていた、といえるのかもしれない。

結果は、スピードワゴンが257点、三四郎が278点で、三四郎の勝利。良い意味でも悪い意味でもベテランの味わい深い漫才を披露していたスピードワゴンを、完全に捨て身のモードで大舞台を乗り切った三四郎が見事に下した。