白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「まんじゅう大帝国 第一回単独公演「私の番です。たしかにね。」」(2020年10月7日)

2019年9月に新宿シアターモリエールで行われた単独ライブを収録。

まんじゅう大帝国は竹永一希と田中永馬によって2016年に結成されました。結成直後、フリーとして出場した『M-1グランプリ』で三回戦まで勝ち進み、そのネタを目にしたアルコ&ピースに大いなる衝撃を与え、ラジオで話題にされたことで急速に注目を集め始めます。その翌年、竹内が所属していた日芸落研の先輩である高田文夫の推薦により、爆笑問題らが在籍するタイタンに所属。2018年に『ENGEIグランドスラム』へ出演。2020年には竹内が主演を務める映画『実りゆく』が公開されました。まさに今、注目される第七世代の漫才師の一組といっていいでしょう。

先述の通り、本作に収められているのは、既に一年以上前に行われた単独公演の映像になります。どうして、そんなにも前の映像が、今頃になってソフト化されたことにうっすらと疑問を覚えていたのですが、本作リリースと同時期、メンバーの竹内一希が主演を務める映画『実りゆく』が公開されたことで、その謎はあっさりと氷解してしまいました。恐らくはプロモーションの一環なのでしょう。事実、本作のパッケージには、映画の宣伝文句が記載されたシールが大きく貼りついていますし、本作を再生すると、お馴染みのコンテンツリーグのロゴ映像の前に、『実りゆく』の予告映像が流れ始めます。なんとも節操がありませんね。とはいえ、面白い芸人のライブがソフト化されるのであれば、そこにどのような理由があろうとも、一先ずは万々歳であります。

本編には十本の漫才と一本のコントが収録されています。まんじゅう大帝国の漫才といえば、バカとバカがヘンテコな話をしているにも関わらず、まったく軌道修正することなく、延々とバカな話を繰り広げるものですが、本編に収録されているネタも基本的にその方針を崩していません。ポケモンの種類の数のスゴさについて話していた筈なのに、比較対象の方がスゴいため、ポケモンのスゴさが薄れてしまう『ポケモン』、田中の性格を変えるために、血液を入れ替えて、血液型を変えてしまおうと提案する『血液型』、アメリカンジョークのような文脈でまったくジョークになっていない話を始める『アメリカンジョーク』などなど、軽妙な語り口でバカな話が延々と繰り広げられます。

以前のまんじゅう大帝国は、バカバカしい話から更にバカバカしい展開を経て、どんどんバカな方向へと転がっていく漫才を見せていましたが、少なくとも本公演が行われていた時期の彼らは、下手に工夫を凝らさずに、バカ同士の会話をシンプルに見せる方向へとシフトチェンジしているように感じられました。台本としての面白さよりも、バカな人たちを見せたがっているような。この、ネタに対する向き合い方は、何処か古典落語のそれを思わせます。二人がともに落語研究会出身であることが、少なからず影響しているのかもしれません。また、二人ともに声質が良いため、そういったやり取りをいつまでも聴いていられるんですよねえ……。

個人的に印象に残っているのは『冷蔵庫の余りもの』。「冷蔵庫の余りものでパパッと作れたら恰好良い!」という竹内が、冷蔵庫で余っていた大根を使って犬小屋を作った話を始めます。……何を言っているのか分からないかもしれません。私もよく分かりません。ただ、竹内の説明を聞いていると、なんとなく大根から犬小屋を作ることが出来るような気がしてくるんですよね。この現実と虚構の絶妙なバランス感がたまりません。その意味ではオーラスの『スマートスピーカー』も素晴らしかったです。終盤のSF的な展開は、往年の爆笑問題を思わせましたね(知ったかぶり)。

今年で結成五年目、まだまだ若手のまんじゅう大帝国の芸は早くも渋みを帯び始めておりますが、ここからどのような進化を遂げることになるのでしょうか。今から楽しみですね。

・本編【74分】
ポケモン」「血液型」「冷蔵庫の余りもの」「アメリカンジョーク」「落語っぽい」「特技認定」「神社」「コント「お誕生日」」「大根」「西君」「スマートスピーカー