白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

「ツギクル芸人グランプリ2023」(2023年7月8日放送)

司会は爆笑問題、進行は永島優美(フジテレビアナウンサー)。

審査員は、渡辺正行増田英彦秋元真夏、元祖爆笑王(放送作家)、三浦伸介(日本テレビ放送網)、舟橋政宏(テレビ朝日)、浜田諒介(TBSテレビ)、小比類巻将範(テレビ東京)、日置祐貴(フジテレビ)。ここに会場の観客による一般審査を加えた、全10票による結果で競い合う。

ちなみに今大会は第4回大会。歴代王者には、ザ・マミィ(第1回大会)、金の国(第2回大会)、ストレッチーズ(第3回大会)がいる。

【Aブロック】
インテイク「漫才:犬派猫派」
さんだる「コント:わんこそば」
ツンツクツン万博「コント:天国への階段」
さすらいラビー「漫才:初詣」
三日月マンハッタン「漫才:どっちが大事なの?」

ネタの精度という点ではインテイクが頭一つ抜けていた感。犬派・猫派に対するボヤキが発動するきっかけを明確にしているので、不快感が残らないように努めているところが如何にも現代的である。その点では、さすらいラビーはキャラクターの気持ち悪さに特化し過ぎていて、メリハリが感じられにくかったように思う。ただ、キャラクターの気持ち悪さに対するこだわりの強さに、将来性も感じられる。しばらく粘っていたら、一気に爆発しそうな気がしてならない。この二組に比べると、三日月マンハッタンはやや安定志向。とはいえ、「○○と××、どっちが大事なの?」というワンパターンな質問を軸とした攻めの構成、仲嶺の沖縄訛りが滲むツッコミの塩梅の良さに、いぶし銀の風格を感じた。個人的に一番好きだったのは、ここかもしれない。

コント勢はどちらもナンセンス傾向強め。「わんこそば」と「告白」を掛け合わせたさんだるは、設定のインパクトは強いものの、感動路線でしっとりとエンディングを迎える構成は割とオーソドックスな味わい。対して、ツンツクツン万博は、「天国への階段を上る」というシチュエーションに、「階段を下りたくなるシチュエーションあるある」というワンテーマを掛け合わせたコントで、バカバカしさという意味ではこちらの方が上。また『ミュージックステーション』『笑っていいとも』『M-1グランプリ』という番組のチョイスが、テレビ好き・お笑い好きのツボを的確に突いていたのも良かった。実はとんでもなく計算高いコンビなのではないか。

審査の結果は、ツンツクツン万博(5票)、さすらいラビー(3票)、インテイク(2票)で、ツンツクツン万博がAブロックを勝ち上がる。

【Bブロック】
群青団地「コント:オンラインゲーム」
TCクラクション「漫才:練習をしよう」
ファイヤーサンダー「コント:日本代表」
ママタルト「漫才:うどん屋の店長」
ひつじねいり「漫才:たこやきの焼きかた」

「練習しよう」という漫才の導入部分をメタの視点から切り取って、新しいフォーマットを構築したTCクラクションは、同じパターンの繰り返しという意味では、Aブロックの三日月マンハッタンと少し被っているように見えてしまったのが惜しいところ。テーマそのものはとても面白かった。ボケとツッコミの発想が飛び抜けた漫才コントで勝負に打って出たママタルトは、檜原の声が明らかに不調で、中盤からリズムが崩れていたのが残念。それでも、ボケの発想力という意味では、ここがピカイチだったように思う。敢えて関西色を強調することで、今では誰もやらないような古典的大阪漫才をパロディ的に再現、一風変わった角度の笑いを生み出したひつじねいりは、もはや反則と言ってしまってもいいような気がする。また、松村の存在感と表現力は、かつてのハライチを思い出させるものがあった。昨年、ツッコミ先攻タイプのウエストランドM-1を制したことを思うと、今年のファイナリストはもしかすると……?

ファイヤーサンダーのコントは見事としか言いようがない。モノマネ芸人という専門性の高い芸人の視点を取り入れた魅力的な設定もさることながら、二転三転する展開も素晴らしい。終盤の展開も、モノマネ芸人だからこそ成立するものだし、アドリブがきかないオチもリアリティがあって良かった。ただ、このBブロックに関しては、群青団地の現代性に満ち溢れた舞台設定が、あまりにも素晴らしすぎた。あまりそぐわない状況で恋愛模様を描いているという意味では、Aブロックのさんだると被っているといえなくもないのだが、オンラインゲーム特有の所作の再現度が高すぎて、そのギャップから生じるバカバカしさは段違い。色んな意味で若い芸人だからこそ成し得たパフォーマンスに、ちょっと揺さぶられるものがあった。自分も年を取ったなあ……。

審査の結果は、ひつじねいり(4票)、ママタルト(4票)、TCクラクション(1票)、ファイヤーサンダー(1票)。ひつじねいりとママタルトが同票となったが、この場合は一般審査員による評価を優先するということで、ひつじねいりがBブロックを勝ち上がる。……え? なんで? 決選投票で良くない?

【Cブロック】
ゼンモンキー「コント:テント」
徳原旅行「コント:人生半分損してる」
まんじゅう大帝国「漫才:マナー違反を注意」
パンプキンポテトフライ「漫才:女の子が部屋に来る」
ナイチンゲールダンス「漫才:セレクトショップ

以前にネタを観たときは、掛け合いの心地良さに対して漫才の面白さが見合っていなかったように思えたまんじゅう大帝国。その当時に比べて、今回のネタは漫才の面白さがそれなりに追いついてきたように感じられた。この調子で、どんどん掛け合いの深みへと誘ってもらいたい。不条理なボケを脱力したツッコミの軽妙さが包み込むパンプキンポテトフライは、より練り上げられた構成のネタを掛けてきたように感じた。ガラ入れのくだりはかなり好き。ボケもツッコミも正統派で、ポスト・キングコングの路線を意識しているように思えたナイチンゲールダンスは、深くもなければ浅くもない……けれど、新しさはきちんと提示したネタで、未来への道筋を明確に見据えた漫才を披露していた。ちゃんと売れようとしているし、ちゃんと売れるのだろう。

ゼンモンキーのコントは、以前に『ネタパレ』でも観たことのあるネタ。終盤、店員が次々にテントに食われていく展開は、ビジュアル面のインパクトという点では圧倒的なのだが、コントの構成だけで見ると、もうひとひねり欲しいように思う。この演出力に、ネタの深みが加われば、もっととんでもないコントを生み出すことが出来るだろう。ひねくれた人間の感情をそのままコントに昇華したような徳原旅行のネタは、どうしても彼と同じ事務所の先輩であるバカリズムのネタと比較してしまう。方向性が近いだけに、表現の面において明確な切り分けがほしい。オチはけっこう好み。性格が実に宜しくない。

審査の結果は、ゼンモンキー(5票)、ナイチンゲールダンス(5票)。ゼンモンキーとナイチンゲールダンスが同票となったが、一般審査員による評価を優先するということで、ナイチンゲールダンスがCブロックを勝ち上がる。

【ファイナルステージ】
ナイチンゲールダンス「漫才:ハンバーグ屋さん」
ツンツクツン万博「コント:ピッツァマン」
ひつじねいり「漫才:キス」

分かりやすいけれど新鮮味に溢れる言葉遊びとダイナミックな動作で確実に笑いをもぎ取るナイチンゲールダンスは、やっぱり売れるまでの道筋を明確に捉えている。だからこそ、いずれバカに見つかって、大いに嫌われることになりそうである。頑張ってほしい(皮肉ではなく)。

“ピッツァマン”というヘンテコなキャラクターのパフォーマンスが支持を集め、スターダムを駆け上がっていく様を描いたツンツクツン万博は、コントというよりはドラマ。『だが、情熱はある』というタイトルは、むしろこういった芸人にこそ相応しいような気がしないでもない(ドラマは一回も見てない)。ちゃんとピッツァマンのパフォーマンスが一つのネタとして完成されているからこそ、より深みを感じさせられる。バカバカしいキャラクターのバックヤードを匂わせることで笑いを生み出している……という意味では、Bブロックにおけるファイヤーサンダーのネタに通じるところも。しかし、そういう類いのネタを演じるにしては、若いよなあ。いや、若いからこそ、こういうネタを真っ直ぐに演じられるのか。

今大会の大トリを飾ったひつじねいりは、松村の関西色強めのキャラクターを維持させながら、予選では匂わせる程度だった細田のダウナーな雰囲気を更に強調した漫才で勝負。結果、独自性の強いテーマの掛け合いを、二人のキャラクターを活かした上で繰り広げていて、ちゃんと完成された個性的な漫才を構築していた。過去に、M-1の予選動画を何度か観たことがあるコンビなのだが、ここまで面白いネタをやっていた記憶がないので、ちょっと驚いてしまった。マジで今年のM-1、あるのでは。

審査の結果は、ナイチンゲールダンス(7票)、ひつじねいり(2票)、ツンツクツン万博(1票)。ナイチンゲールダンスが四代目王者に決定!

総評。若手芸人のネタって、本当に面白いものですね。こちらからは以上です。