白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

ルシファー吉岡「Gentlemen」(2018年6月27日)

Gentlemen [DVD]

Gentlemen [DVD]

  • 発売日: 2018/06/27
  • メディア: DVD
 

日本一のピン芸を決定する『R-1ぐらんぷり』において五度の決勝進出を果たしている四十歳の中年芸人、ルシファー吉岡の自選ベスト盤。数あるネタの中から十本のコントをセレクション、スタジオで収録されている。

ルシファー吉岡といえば、いわゆる「下ネタ」をテーマにしたコントで知られている。本作でも、雨が降ろうと槍が降ろうと物干し竿に下着が掛けられるまでベランダの張り込みを続けるパンティ泥棒たちを描いた『張り込み』、同期の準教授に「人に気付かれないうちに血を吸う蚊のように、さり気なく女性のケツを触れないものか?」と生物学的見地からの意見を求める『KKS』、OLの透けブラを見たいがために気象予報士の勉強をしている男が友人に裏切られる『資格の勉強』など、猥褻な設定のコントが多く演じられている。ポリティカル・コレクトネスが叫ばれる昨今、ルシファー吉岡のコントはまさに時代と逆行していると言わざるを得ない。

だが、彼のネタからは、下ネタ特有の緊張感はさほど感じられない。恐らく、ルシファーがコントで描こうとしているものが、猥褻そのものではなく、猥褻に対して情熱を注いでいる人間の愚直な姿だからなのだろう。彼はそういった人々のことを笑いのネタにはしているが、とはいえ、否定もしていない。それはある種の人間賛歌だ。だからこそ、社会の授業で教わる歴史上の事件に対して感情移入してしまう生徒たちに困惑する『大化の改新』、「アラブの石油王」を進路に選んだ暴走族の不良生徒をやんわりと受け入れながらも軌道修正を図る『進路指導』のような、下ネタを取り入れていないコントを生み出すことが出来るのだろう。下ネタかそうでないかは、究極的には関係無いのである。

そんなルシファー吉岡のコントが堪能できる本作の中でも、とりわけ見事だったのが『セクハラ』。舞台はオフィス。ルシファー演じる課長が、部下である女性社員を呼び出して、「課長からセクハラを受けていると周囲の男性社員に漏らしている」件について疑問を投げかける。何故ならば、課長はその女性社員にセクハラ行為を働いた記憶がなかったからだ。一体、彼女は自分のどのような言動をセクハラとして受け取られたのか。その一つ一つを確認してみると、思いもよらなかった事実が判明する。なんと彼女は、課長が部下たちを前に口にした「精が出るねー」という発言を、卑猥な表現だと勘違いしていたのである。日常的に使われるようなごくごく当たり前な言葉が取りようによっては淫靡に聞こえなくもない、この日本語のややこしさを、下らなさと上手さの絶妙なバランス感で演じ切る素晴らしさ。しかも、その勘違いを、単なる女性社員の愚鈍さによるものではないことを示すオチも秀逸。ただただ面白かった。

些か、台詞での表現に頼り過ぎている側面はあるものの、どのコントもハズレなし。ベスト盤と呼ぶに相応しいラインナップである。そろそろ第二弾も戴きたい。

・本編【69分】
大化の改新」「張り込み」「KKS」「資格の勉強」「隣人を愛せ」「セクハラ」「Shopping Channel」「進路指導」「Process」「お前だ!!」