令和時代のお笑い公論

心が腐る、その前に。

「紺野ぶるま10周年記念単独ライブ「新妻、お貸しします。~ぽっきし税抜3000円~」」(2020年3月25日)

このところ何かと話題の松竹芸能に所属しているアラサー女性ピン芸人紺野ぶるまが2019年12月にデビュー10周年を記念して開催した単独ライブの模様を収録。「単独ライブ」の名目になっているが、披露されているネタは過去に賞レースで掛けられているものが多く、実質的にベスト盤の様相を呈している。そういう意向の内容にするのであれば、「ベストライブ」「ベストコントセレクション」のようなタイトルで売り出した方が効果的だったような気がしないでもない。

紺野ぶるまといえば、与えられた言葉を全て「ちんこ」で解いてしまうなぞかけ芸『ちんこなぞかけ』の名手として知られている。こんなアホなパフォーマンスを売りにしている芸人は他にいないので、現時点でおそらく日本一の手練れだろう。本作のエンディングでも披露されているのだが、残念なことに、そこでの「ちんこなぞかけ」の出来はあまり芳しくない。内容が内容なだけに、テレビメディアなどで見る機会は稀少だが、もしも目にすることがあれば、その至極のテクニシャンぶりをこっそりと堪能していただきたい。

この『ちんこなぞかけ』のイメージから、紺野ぶるまは下ネタに特化している芸人として認識されがちだ。事実、彼女自身もそのように自らを売り込んでいて、本作のパッケージも明らかにアダルトビデオのそれをイメージしたデザインになっている。しかし、実際に彼女のコントを観てみると、エロの関わるネタは皆無に等しい。無論、ソフト化を見越して、敢えてエロ傾向のネタを排除しているだけなのかもしれないが、それにしてもゼロはありえない。下ネタはあくまでも世間に名を売るための手法に過ぎない、ということなのだろうか。或いは、単にネタと平場を使い分けているだけなのだろうか。そういえば、同じく下ネタを得意とすることで知られるルシファー吉岡も、ネタの中ではエロを取り入れているにも関わらず、平場でそういった類いのトークを展開しているを見たことがない。下ネタ芸人には、下ネタ芸人なりの「下ネタの矜持」みたいなものがあるのかもしれない。

紺野ぶるまがコントの中で演じている人々は、共通して露骨な性格をしている。とある理由から先生が描いた絵画を自分の名義でコンクールに出品してまんまと賞を取ってしまった弟子の自己プロデュース能力の高さが止まらない『現代アート』、卒業の日に旅立つ生徒たちへ担任教師が自らの「四の五の言わずに働かずに生きていきたい!」という夢をぶっちゃける『先生』、真面目に仕事に取り組んでいる女性の駅員が「かわいすぎる」と言われるたいがためにこの仕事に就いたことを告白する『駅員』などなど……。本来、心の中で留めておいた方が良いであろう感情を、これでもかと余すところなく吐き出している。

その姿は、特定の人たちに対する偏見にまみれたド直球の悪意を撒き散らす、往年のニューヨークの芸風を彷彿とさせるものだ。カタコトの日本語で客を乱暴に占う(?)中国人占い師を演じた『占い』などは、まさにその典型例といえるだろう。だが、特定の人々に対する世間のイメージを代弁するかのように悪意を投げつけるニューヨークに対し、紺野ぶるまのそれは、そんな世間に対する怒りと諦めの感情を帯びているように感じられる。思うに、コンビだからこそボケとツッコミの関係性が構築できるニューヨークとは違い、ピン芸人である紺野ぶるまは当事者を一人で演じる形式を取らなくてはならないためだろう。それ故に、どんなにそれが滑稽で可笑しみに満ち溢れた人物であったとしても、何処か、そんな境遇に至らしめている世間の醜悪さを対比して描いているような、そんな逆説的な意図を感じ取ってしまう。そこまでの計算があるのかどうかは知れないが。

その傾向が顕著に表れているネタが『女優の夢』である。

十二年ぶりに故郷へと帰ってきた一人の女。とある報告をするために“ちいちゃん”を呼び出す。「今度、ドラマに出るんだ」。かつて、「そこらへんの女優さん、比べものにならないから」「東京に行ったら、絶対に大女優になるはずだ」と声をかけてくれた、かつての友人たちの一人に向けた感謝の気持ち。ところが、女が本読みの手伝いを頼み始めたところで、状況は一変する。女が与えられた役柄は、誰にでもこなせるような端役だったのである。そして女は本性を明らかにする。「あのさ……私、東京行ったら、そこまで可愛くなかったみたいなんだけど、どうしてくれる……?」。

内容自体はいわゆる「アマチュアとプロの狭間ギリギリで生きている女性タレントあるある」なのだが、そのフォーマットとして、無責任に自分のことを持ち上げてきた周囲の人間に対する恨み節が使われている点が興味深い。無論、最終的に将来の進路を決めるのは自分自身なので、これを単なる自己責任からの逃避行と見ることもできる。恐らく、このネタの見方としては、それが正解なのだろう。ただ、その判断を歪ませた、勘違いさせた人々にまったく責任がないかというと、必ずしもそうとは言い切れないのではないだろうか。それがどんなにポジティブで前向きな言葉であろうとも。そんなことを、紺野ぶるまはコントで我々に突きつけている……ような、気がしないでもない。

これら本編に加え、本編中では不調だった『ちんこなぞかけ』のリベンジとして、スタッフが考えてきた五十個のお題を制限時間10分以内に全て解く『リベンジちんこなぞかけ』が特典映像として収録されている。リベンジと称してはいるものの、そもそも「五十個のお題を制限時間10分以内に全て解く」という設定に無理があるため、『ちんこなぞかけ』を楽しむというよりも、紺野ぶるまが必死に食らいついている様子を楽しむような映像になってしまっていて、些か不満が残る。そもそも、そんなにじっくりと楽しむ芸ではないのだが、とはいえ、おざなりにされるというのも、それはそれで芳しくはない。そこは丁寧にやってもらいたかった。

・本編【83分】
「結婚」「現代アート」「餅田の家掃除編1」「占い」「餅田の家掃除編2」「先生」「ベビーシッター編1」「駅員」「ベビーシッター編2」「女優の夢」「料理篇」「浮気」「オーディション」「「TimTim PomPom」MV」「ちんこなぞかけ」

・特典映像【14分】
「リベンジちんこなぞかけ」