「シアター・コントロニカ『回廊とデコイ』」を有料配信で観る。
シアター・コントロニカとは、2020年に芸能活動からの引退を表明した小林賢太郎が、note株式会社が運営するウェブサイト「note」において2023年に開設した架空の劇場(アカウント)である。小林の手掛けるコントが、文章・音声・映像などのような様々な形で公開されている。
本作は、そんなシアター・コントロニカで公開されているショートフィルムと、2024年4月に神奈川芸術劇場で上演された配信コント公演『回廊』の映像を掛け合わせた、短編映画である。2023年11月から2024年3月にかけて全国の映画館で上映され、2024年4月から5月にかけて有料配信が行われた。視聴代は、本物の映画のチケットを模した紙の状態で送られてくる、“オンラインシアター特別鑑賞券”が4,000円。これに合わせて、実際の劇場でも売られていた映画のパンフレット2,000円を購入し、計6,000円の出費となった。配信チケットとしては割高だが、本作がソフト化されるかどうかも読めない状況だったので(なにせ映像の多くは既にシアター・コントロニカで有料配信されているのだ)、購入に踏み切った次第である。
『回廊とデコイ』は、旅をする男の姿を描いた『もの思う男』を中心に、ショートフィルム『映画鑑賞』『くしゃみ』『玉と婦人』『ミワケガツカナイ』『永久機関』、および舞台コント『タイムトラベル』『ダブルブッキング』『そばをください』『回廊』で構成されている。
ショートフィルムは『小林賢太郎テレビ』*1で披露されていたような、シンプルな発想による映像コントという印象を残すもの。軽妙な会話のやり取りと奇妙な非日常的日常がもたらす歪みの可笑しみ。どこからどう見ても小林賢太郎の映像作品である。ただ、テレビという誰でも視聴することが出来る媒体で見る映像と、視聴者がわざわざお金を払ってまで見ようとする映像とで、同じようなクオリティであっていいものだろうか、とも思った。有料の映像作品にしては、浅すぎるというか軽すぎるというか。その中では、映像コントとエロティシズムの融合を目指した『玉と婦人』は、他の映像には感じられなかった独特の人間味に溢れていて、なかなか楽しめた。もっとも、それにしたって、役者の仕事が良かっただけではないか、というような気もするのだが。
……などのように、ショートフィルムに対して、やや厳しめな印象を抱いてしまうのは、対する舞台コントがしっかりと面白かったからなのかもしれない。完全にKAJALLA*2の流れを引き継いだ内容になっており、分かりやすくてバカバカしいのにきっちりしっかり面白い。特に気に入ったのは、ソファで横になっていた男が、三時間の睡眠時間を、三時間前の過去からタイムスリップしてきたのだと勘違いする『タイムトラベル』。着想からの転換がたまらなく好きだった。また、観客を入れている状態での映像をベースに、無観客状態で撮影された映像を組み合わせることで、固定カメラでは押さえ切れない臨場感のある映像を生み出していた点も新鮮だった。『そばをください』のダイナミックな映像は一見の価値がある。
……と、なにやら分かったような言葉を並べて立てているが、このジャンルに興味を抱かせるきっかけを作ってくれた男の創作物に久しぶりに触れてみての感想なんて、「うわーっ、相変わらずの小林賢太郎だなあ」でしかないのである。今の私にはそれしか言えない。言いたくない。なので本文もここで強制的に終了する。ソフト化されたら君たちも観たらいい。観なくてもいいけど。