白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「コント集団 カジャラ 第四回公演「怪獣たちの宴」」(2019年12月25日)

2019年2月から4月にかけて全国十か所で行われた公演を収録。

カジャラ(KAJALLA)とは、小林賢太郎が作・演出を手掛けるコント集団の名称である。出演者は、小林賢太郎、辻本耕志、竹井亮介の固定メンバーに、複数のゲストが加わるシステムを採用していた。第一回公演『大人たるもの』には片桐仁安井順平、第二回公演『裸の王様』には久ヶ沢徹菅原永二、第三回公演『働けど働けど』には野間口徹小林健一が、それぞれ出演している。第四回となる本公演では、第三回公演から引き続いての参加となった小林健一、『R-1ぐらんぷり』で二年連続優勝の経験を持つなだぎ武溜口佑太朗ラブレターズ)や伊藤修子らが在籍する「劇団 拙者ムニエル」旗揚げメンバーの一人である加藤啓がゲストとして招かれている。

否が応でも目を引くのは、なだぎ武の存在である。過去を紐解けば、元「ピテカンバブー」の西田征史、『電波少年』のとある企画で「五択の安田」と呼ばれていた安田ユーシ、「フラミンゴ」の辻本耕志、元「アクシャン」の安井順平など、小林が演出を手掛ける舞台にお笑い畑出身の演者が上がること自体は、決して珍しいことではない。だが、既にオリジナルの芸で一定の評価を獲得している、それも大手芸能事務所で知られる吉本興業に所属する芸人の参加は異例中の異例。洗練された舞台作りに定評がある小林賢太郎の演出と、過剰に機敏な動きで爆笑をかっさらうなだぎ武の表現力は、どのような化学反応を見せるのか。

オープニングを飾るコントは『カジャラさん』。実在しない遊び“カジャラさん”を楽しもうとしている六人の男たちが、それぞれの出生地ごとに微妙に違っているローカルルールをすり合わせていく。実在しないもののリアリティを現実味と虚構の絶妙なバランスで描き上げるスタイルは、小林賢太郎が得意とする手法そのもの。そこに日本の実在する地名を掛け合わせることで、ラーメンズ時代の代表作である『日本語学校』のような土着的味わいが感じられるネタに仕上げている。この時点で、既になだぎ武の機敏な表現力が大爆発。和歌山出身者を演じる辻本とまったく同じ動きをしながらも、その滑らかでキレのある仕草がたまらなく可笑しい。

これ以降も愉快なコントが続く。「面白い人間になりたい!」と焼肉屋で会社の同僚に相談を持ちかけている男が、隣のテーブルの男たちの愉快なやり取りを羨望の眼差しで見つめる『焼肉屋』。近所の小学生から“在宅超人スウェットマン”と呼ばれている引きこもりの男が、ファンだという学生からの質問に対して次々に答えを出していく『在宅超人スウェットマン』。宴会に踊り子さんを発注したはずが、何故かメキシカン漫談のロドリコさんが来てしまって……『メキシカン漫談』。それぞれの演者の魅力に特化したコントが次から次へと押し寄せてくる。

その中でも異彩を放っていたのが、『プレゼンテーション』と『怪獣たちの宴』。多重人格についてのプレゼンテーションを控えている男が、自身の中に存在するもう一つの人格に翻弄される『プレゼンテーション』は、主人公である小林賢太郎ともう一つの人格であるなだぎ武の一騎打ち。小林の動きをなだぎが、なだぎの動きを小林が、それぞれモノマネし合う姿は、パフォーマーとしての実力を真正面からぶつけ合ったタイマン勝負の様相を呈していた。また、「本来の実力を持つ自分A」と「本来の実力を出し切れないB」についての話は、小林が舞台に上がる人間としての信条を反映しているようで、そんな自分のことを、なだぎ演じるもう一つの自分が追求する様に、私小説めいたものを感じさせられた。無論、そんな苦悩する自分を見せるというパフォーマンス、なのかもしれないが。

一方、表題作でもあり、本編のオーラスとして演じられた『怪獣たちの宴』は、ファンタジー色の強いコント。六人の男たちが酒を飲み交わしながら、それぞれの思い出話を繰り広げる。加藤はお祭りで見かけた恐い教師の話、辻本は学校で目にした怖い出来事の話、小林は近所に住んでいた漫画やカルト雑誌や洋楽に詳しい“カルチャー兄貴”の話……それぞれの話の方向性はまったく違っているのだが、そこには必ず「アレ」の存在が。果たして「アレ」とはなんなのか……。物語だけを抽出すると陳腐かもしれないが、ちょっとした小道具や細かい仕掛け、揺るぎない演出によって丁寧に紡ぎ出された結末に、まんまと感動させられてしまった。全体を通してみると、まだまだ多少の粗は感じられたが、コントユニットとしてのカジャラの一つの到達点を思わせる公演だったように思う。

この翌年、2020年5月から7月にかけて、同じ六人のメンバーによる第五回公演『無関心の旅人』が上演される予定だったのだが、新型コロナウィルスの流行に伴い、全公演が開催中止となる。同年11月、小林が表舞台からの引退を表明。カジャラはその全てを見せ切ることなく、その活動を休止することになってしまった。改めて、無念でならない。

・本編【124分】
「カジャラさん」「焼肉屋」「在宅超人スウェットマン」「フランケン/お父様!?/ポセイドン/二宮金次郎アメリカン兄弟」「地球よ」「ニンゲン」「プレゼンテーション」「メキシカン漫談」「怪獣たちの宴」