令和時代のお笑い公論

心が腐る、その前に。

「小林賢太郎コント公演 カジャラ #3 「働けど働けど」」(2019年2月20日)

 2018年2月から4月にかけて全国六か所で上演された舞台を収録。

カジャラ(KAJALLA)は小林賢太郎が作・演出を手掛けているコント集団である。年に一度のペースで新作のコントライブを開催している。出演者は、小林賢太郎、辻本耕志、竹井亮介の固定メンバーに、複数のゲストが加わる形式を採用。第一回公演『大人たるもの』には片桐仁安井順平、第二回公演『裸の王様』には久ヶ沢徹菅原永二がそれぞれゲストとして出演している。本作のゲストには、今や名バイプレーヤーとして広く親しまれている野間口徹、劇団「動物電気」旗揚げメンバーの小林健一が起用されている。

『大人たるもの』『裸の王様』はコントライブとしては些か堅く、良くも悪くも教育的な内容に落ち着いてしまったような印象を与えられた。だが、過去二公演でようやく「カジャラのコント」の感覚を掴むことが出来たのか、本作はコントライブとしてしっかりと振り切れたつくりになっている。その傾向は、オープニングコント『タイムカード』の時点で既に表れている。仕事を終え、タイムカードを手にした会社員たちが、タイムレコーダーから吹き付ける強風に煽られながら立ち向かっていく様は、僅かなメッセージ性とそれを凌駕するバカバカしさに満ち溢れていた。コントにおけるメッセージ性と笑いのバランスは、これぐらいの塩梅が丁度良い。

タイトルにもあるように、本作のメインテーマは「労働」である。就職、作業、仕事場など、労働の関わる設定のコントが多く演じられている。残業している同僚を横目にダラダラと雑談を繰り広げるサラリーマンたちを描いた『グリーングリーン』は、小林が多分に影響を受けているシティボーイズからの影響を多分に感じさせられるコント。陽気な五人のサラリーマンがリズミカルに取り止めのない会話をする様が大変に心地良い。笑いはリズムであると改めて気付かされる。

シリコンバレーの企業に入るため面接にやってきたピーター少年を待ち構えていた入社試験とは?『シリコンバレー』は、カジャラの公演ではお馴染みとなっているワンシチュエーションコント集の一つ。今回の公演で設けられた設定は「面接」。以後、透明人間によるお笑いコンビがオーディションにやって来た!『透明人間ズ』、就職面接会場に突如として現れた可愛いフェアリーちゃんは人と企業を繋ぐキューピット♪『就職フェアリー』、未知の言語を有する宇宙生物が通訳を引き連れて就職面接を受けに来た『エルガゼスタ星人』と続く。手堅いシチュエーションだからなのか、かなり突飛なキャラクターが暴れ回るコントが主。面接という徹底的に現実と直結した設定だからこそ、そのギャップがたまらなく面白い。

何にも掛かっていない言葉を連呼し続ける親分の旅立ちを見送る子分たちのコント『シャレにならない親分』は、文字通り「ダジャレを言いそうなトーンで“シャレ”にならないナンセンスな言葉を言い続ける」という日本語崩壊ネタ。親分と子分の関係性が多少は「労働」を感じさせなくもないが、このコントはシンプルに、演者としての小林健一をフィーチャーしたものと捉えるべきだろう。謎の力強さと強引な説得力で圧倒する姿は、奇妙なカリスマ性を帯びていた(だからこそ、その役割を担わされることになる、野間口徹の平凡さもまた味わい深い)。対して、四人の演者によるナレーションに合わせて小林賢太郎がパントマイムを披露する『一握の砂』は、クリエイターとしての小林の心情を切り出したかのようなパフォーマンス。タイトルの「働けど働けど」とリンクする部分もあり、実質的な表題作といえるのかもしれない。笑いとシリアスの塩梅が絶妙で、だからこそオチの一言がストンと胸に落ちる。

宅飲みを敢行する三人の男たちが他愛のない話を延々と続ける『オマール海老』は本作随一のバカコント。辻本・小林・野間口の三人が、狭い部屋の中で取り留めない雑談を繰り広げているだけの内容で、たまらなく特別じゃない日常の風景を想起させる。でも、明らかに非日常的な要素も盛り込まれていて、その絶妙な匙加減がとても愛おしい。ひょっとすると、本作に収録されているネタの中で、個人的には一番好きなコントかもしれない。オチのバカバカしさも秀逸だ。

そしてオーラスのコント『倉田は働く』が幕を開ける。無職で労働意欲の欠片もない男・倉田ナメロウは、ある日ふと漏らした一言が偶然にも呪文となって魔術が発動、「お金」の存在しない世界へと迷い込んでしまう。その世界ではお金は通用しない。品物は物々交換で手に入れなくてはならない。その世界で出会ったコンビニ店員と謎の気功師、気合の入ったうどん屋たちと交流を深めることで、倉田は「お金」と「労働」について考えを改め始める。……と、あらすじだけを書くと、なんとも説教臭い雰囲気が漂っているが、いい意味で粗い展開とクセの強いキャラクターたちの存在が、コントとしての体裁を保たせている。名作と呼ぶには至らないが、今後の展開に幾許かの期待を抱けるネタだったのではないだろうか。

そして、この本作で抱かせた期待は、次回の公演『怪獣たちの宴』で確かに叶えられることになるのだが……それはまた、別のお話しである。

・本編【113分】
「前説」「タイムカード」「グリーングリーン」「面接1「シリコンバレー」」「面接2「透明人間ズ」」「面接3「就職フェアリー」」「面接4「エルガゼスタ星人」」「シャレにならない親分」「一握の砂」「オマール海老」「倉田は働く」