芸人にとって単独ライブは独壇場である。
自らのやりたい表現を演じ、それを求める観客が集まる場所である。それは一見、芸人にとってやりやすい場であるかのように見えるが、実態はそうとはいえない。何故ならば、観客が求めている以上のものを見せなければ、その評価を格段に下げてしまう危険性もあるからである。そのプレッシャーがどれほどのものか、想像も出来ない。本来、定期的に単独ライブを敢行している芸人こそ、異常なのである。
その意味では、みなみかわの単独ライブ開催に至るまでの事情は、まったくもって異質と言わざるを得ないだろう。単独ライブの開催を決めたのも、会場を決めたのも、日程を決めたのも、すべてみなみかわの妻である南川雅代だったからだ。一蓮托生、二人三脚、夫婦というものはお互いを助け合う関係性であるとされているが、これほどまでに夫の芸人稼業に肩入れする妻というのも珍しい。
だが、みなみかわという芸人のスタンスを思うと、それも仕方のないことだったのかもしれない。かつて、みなみかわがピーマンズスタンダードというコンビとして活動していた時代に、彼らが演じていた『タトゥー』の漫才について思い出さずにいられない。みなみかわが顔にタトゥーを入れようと思っている……という話に端を発した、売れない芸人のテレビに対するこじらせまくった感情をむき出しにしたようなネタで、当時の私はその感情を見事に作品化した漫才にいたく感動した記憶がある。あのネタを否定したというどっかの放送作家にはまったく見（以下自粛）。もし、今まさに売れかけようとしているみなみかわに、当時のねじくれた思想が未だに根深く残っているのだとしたら、背中を押す人間が表れない限りは絶対に売れることはないだろう。
そうして出来上がった今回の単独ライブは、まさに南川夫妻の愛の結晶といえるだろう。そりゃスタッフロールで、氏の所属事務所である「松竹芸能」以上に、南川雅代が社長を務める合同会社「ナンセ」の方が大きく表示されるのも当然というものだ。
それはそうとして、単独ライブの感想である。ネタは以下の通り（タイトルはこちらで勝手につけたものです）。
コント「AED」
映像「オープニング」
漫談「○○芸人になる瞬間」
コント「不祥事」
映像「みなみかわのモノマネクイズ」
コント「番組の打ち合わせ」
映像「コマーシャル」
漫談「楽器」
映像「コマーシャル2」
漫談「番組のカンペ」
映像「みなみかわのモノマネクイズ2」
ショートコント「昭和のコンプライアンスタイム」
映像「コマーシャル3」
漫談「ユニーク投資-1グランプリ」
映像「スタッフロール」
エンドトーク
本公演は全体的にテレビバラエティをテーマにしたネタで構成されている。
芸能人の過去の不祥事を参考にして担当しているタレントに良くない提案をするマネージャーを演じたコントや、有名番組で使われていたというカンペを回収して当時の状況に思いを馳せるスケッチブックネタ、限られた時間だけ昭和のコンプライアンスが許される未来を描いたショートコントなど、芸能界の現状に対してひねくれた目線で切り込んだネタが演じられている。方向性としては、意外とバカリズムに近いのかもしれない。ただ、自らのえげつない実体験を賞レースのフォーマットに置き換えることで、コミカルなパフォーマンスへと昇華していた最後のネタに関しては、カンニング竹山の単独ライブを思わせた。その表現の極端な振り幅から察するに、みなみかわの中でも、自らの芸風を決めかねているのかもしれない。
ちなみに、個人的に一番好きだったのは、先にも書いた不祥事をテーマにしたコント。コンプライアンス上の点から、絶対にテレビでは演じることの出来ないだろうが、不祥事に対する社会のリアクションへの皮肉が込められたような内容で、ブラックジョーク愛好家としてはたまらないものがあった。時に芸人たちが表には出せないようなトークをはみ出してしまう『踏み台TV』の送り手でもあるみなみかわにとって、最も適したコントだったといえるだろう。
あと、「みなみかわのモノマネクイズ」もかなり好きだった。こちらはYouTubeでも公開されているので、気になる方は是非。ちょうど良い性格の悪い角度を見せている。
意外とみなみかわの着眼点とモノマネは相性が良いのではないか、という気がしないでもない。
正直、芸人の単独ライブとしては、やや物足りなさを感じはした。ただ、音楽や映像に対するこだわりや、ネタの一部から滲み出るみなみかわのセンスには確かな魅力が感じられ、次回以降の単独ライブにも期待を寄せずにはいられない内容ではあった。次回、もっとひねくれた、もっとねじくれた、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれることを期待しております。
……次はもっとデカい会場を抑えられるのかな……？
