午前6時半、起床。
むくりと起き上がり、トイレへ直行する。室内で検尿。一度、大きめのプラスチック容器に排尿し、それから提出用の試験管状になっているプラスチック容器へ移す。大きめのプラスチック容器はビーカー状になっているので、小さめのプラスチック容器にも注ぎやすい。人間の英知を感じずにはいられない。
ヒゲを剃り、服を着替え、荷物の用意をする。胃カメラを飲むので朝食は抜きである(検査前日の午後9時以降は何も食べてはいけない。水もコップ半分程度まで許されている。午前7時以降は完全絶食)。主な荷物は以下の通り。
・書類(漏らさずチェック)
・検便(検査当日までの一週間以内に採取、冷蔵庫に保存)
・検尿(検査当日に採取する)
・健康保険証(いずれマイナンバーカードに置き換えられる未来が来るのか?)
・財布(人間ドックの代金を支払うため)
これらをトートバッグに入れる。忘れ物があると不安なので、書類は基本的に送られてきたものを全て持っていく。本来なら、これにお薬手帳があると良いのだが、今回はうっかり忘れてしまった。私の場合、大した薬は飲んでいないので、さほど気にするところではないのだが(血圧と尿酸値を下げる薬)、薬の質によっては必要かもしれないので、なるべく忘れない方が良い。
ちなみに、検便も検尿も専用キットが送られてくるのだが、検便用のキット(便が水に浸かることを防ぐための用紙と採取専用器具)は少し頼りないので、採取の際には注意が必要である。紙は大便の重みで簡単に沈んでしまうので、折り畳んだトイレットペーパーを下に敷いた上に、用紙を設置すると良い。ただ、トイレットペーパーを重ね過ぎると、今後はトイレの詰まりを巻き起こす可能性があるので、これまた注意が必要である。丁度良いヤツないのか。
午前7時、自宅を出発。胃カメラを飲むときに鎮静剤を使用する予定なので、妻の車で送ってもらう(鎮静剤を使用した場合、その日は車・バイクの運転はしてはいけないことになっている)。朝食を抜いているので、車窓から見えるファーストフード店がやけに恋しい。
午前7時40分ごろ、病院に到着。妻を見送って、建物に入る。やけに洗練された雰囲気に、ちょっとだけ物怖じする。聞くところによると、ここ最近になって建物を改築したらしい。綺麗な病院はどことなく未来的な空気に包まれていて、あたかも自分がタイムスリップしたかのような気分になる。検便を持ち歩いている場合じゃない。
人間ドックの受付は建物の三階にあるというので、エレベーターで移動。着いた先に、人間ドックを受ける人用の番号札が差し込まれたクリアファイルが配置されていたので、これを回収する。専用のラウンジ(!?)で待機しながら、番号札と共に差し込まれていた問診票に鉛筆(ゴルフのスコア表を書き込む緑色のアレ)で記入し、同じく差し込まれていた「必要な書類一覧表」を確認。持参した書類と照らし合わせてクリアファイルに挟み込み、受付の準備を済ませる。
午前8時10分ごろ、番号で呼ばれる。受付には二人の女性が待機しており、右側の女性は必要な書類が揃っているかどうかの確認、左側の女性は書類の処理を担当しているようだった。機能的である。まずは右側の女性に書類を確認してもらう。検便を入れたパックに採取時刻を記入し忘れていたので、慌てて鉛筆で書き込む。他人に自分の便を見られるほどに恥ずかしいことはない。続けて左の列へ。先に並んでいた老人がちょっと手間取っているのを、自分も数十年後にはああいう感じになるのだろうか……と思いながら、じっと眺める。この視点が昨今のインターネットには欠けている。どいつもこいつもいずれはジジイとババアになるんじゃよ。
受付を済ませて、更衣室へ。検査着に着替えて、受付であてがわれた番号のロッカーに服と荷物を入れる。ロッカーは4つの数字を入れるダイヤル式になっているのだが、数字がやけに小さくで見づらい。これはお年寄りには使いづらいだろうなあ……と思っていたら、先程の老人が受付の女性を連れて来て、ロッカーの使用法を教わっていた。ことによると、インターネットどころか現代社会から、老人の視点が失われ始めているのかもしれない。
着替えを済ませて待合室へ。ここから立て続けに検査を受けたので、以下にまとめ。
・身長・体重・腹囲(身長と体重を一度に計れる機械、ちょっと欲しい)
・血圧・血液検査(血圧は普段より低めに表示された。うれしい)
・視力・聴力(視力が上下左右のボタンスイッチ方式に。これもコロナ禍の影響?)
・問診(人と対峙する唯一の検査なのでちょっとドキドキする)
・心電図(何を計っているのかピンとこない)
・胸部レントゲン(一階へ移動。息を吸ったり吐いたり)
これらの検査を終えて、最後は胃カメラ。胃カメラの検査は二階で行うということだったので、エレベーターで移動。専用口で受付を済ませて、しばらく待機していると、名前を呼ばれる。個室へ移動。
本人かどうかを確認されながら、胃の中の泡を消すための薬を飲まされる(肝油ドロップのような味がした)。水分補給用の点滴を受けながら、治療室へ。喉に麻酔スプレーを吹きかけられてから(苦い。しびれる)、診療ベッドの上で横になる。口にマウスピースをハメて、点滴に鎮静剤の注射が加えられる。そして遂に胃カメラが口の中に……というところで、気を失う。これほど簡単に気を失ってしまうとは、人間とはなんとヤワな生き物だろうか。
気が付くと検査は終了。そのまま、検査を終えた人々がベッドに寝かしつけられている休憩所へ移動し、彼らと同じ様にベッドで横になる。そしてまたしても記憶を失う。看護師に起こされると、もう周りには誰もいない。ロンリー。起き上がり、エレベーターで三階へ。先程の待合室に出てくるも、やはり誰もいない。ロンリー。更衣室で検査着を脱ぎ、服に着替える。受付で検査の代金を支払い、病院を後にする。時刻は午前11時50分ごろ。妻に連絡し、迎えに来てもらい、帰宅したのであった。おしまい。
検査の結果は三週間後に明らかになるそう。精密検査がありませんように……。