白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

沈む太陽の真っ赤な夕焼けのように『SAYONARAシティボーイズ』は。

今年の4月から、文化放送で『SAYONARAシティボーイズ』という番組のレギュラー放送が開始されている。大竹まこと、きたろう、斉木しげるの三人によるコントユニット・シティボーイズにとって、初めての冠番組である。

番組はコントとトークで構成されている。前半パートでは、番組用の書き下ろしラジオコントが三人によって演じられ、後半パートでは、三人がそれぞれ日記を持ち寄り各々が最近思ったこと・感じたことを発表し合っている。メンバー全員が古希を迎えていることもあり、コントにせよ、トークにせよ、些か爺むさいところがあるものの、番組を成立させようと奮闘する大竹まこと、自分の主張について語ろうとするもポンコツ過ぎて上手くまとまらないきたろう、特に何も考えていないけれど何かを喋ろうとはしている斉木しげる三者三様の個性は変わらず健在で、毎回たまらなく面白い。

シティボーイズは劇団『表現劇場』のメンバーだった三人によって1979年に結成された。1983年、とんねるずウッチャンナンチャンらを輩出したオーディション番組『お笑いスター誕生!!』において、グランプリを獲得。その名が世間に知られるきっかけを掴む。同年、単独でのコントライブイベントを開始。以後、タイトル、演出家、ゲスト出演者を入れ替えながら、長年にわたって定期公演を打ち続けていたが、“シティボーイズ ファイナル part.1”と銘打った2015年の公演『燃えるゴミ』を最後に、ユニット単独でのライブ活動を終了する。その理由は“加齢”。「キレのあるツッコミ」「今という時代を切り取る感性」の衰えを観客へ見せることに抵抗を感じ、コメディアンとしての引退を決意したのである。

ところが、それから7年後の2023年2月、特別番組『SAYONARAシティボーイズ』が放送され、状況は一変する。加齢による衰えに不安を感じていた彼らが、この特番への出演をきっかけに「この年齢でもラジオコントなら出来るのではないか?」と考え直し始めたのである。画して同年4月、番組のレギュラー放送が開始されることとなった。サブタイトルは“シティボーイズ ファイナル part.2”。シティボーイズのファイナルに向けて、新たな形態でのコントが幕を開けたのであった。

シティボーイズのコントの魅力を語るのは難しい。時事ネタへの取り組み、ナンセンスな笑いの探求、いとうせいこう中村有志などといったゲストたちと巻き起こす化学反応……などなど、部分的なところをつまみ上げればキリがないが、その本質は、掴みどころのないバカバカしさにあるように思う。「後には何も残らない、何も残さない」を自称する彼らの舞台は、どれほど深刻なテーマに取り組んでいようとも、テーマに付随する問題について考えさせられるものではない。むしろ、その深刻さに対して、バカで対抗しようという姿勢が感じ取られる。その意味では、シティボーイズ爆笑問題の先駆け的な存在といえるのかもしれない。

『SAYONARAシティボーイズ』で演じられているコントは、その当時の「粗相のないコント」に比べて、ちょっと辛口な内容になっているように思う。時事ネタにはより鋭利に切り込んでいるし、三人のやり取りから現代社会に流れているうっすらと不穏な空気が感じ取られる(働く老人の設定が多い!)。シティボーイズのコントが、ただ笑えるだけのものではなくなっている。その姿勢の変化は、笑いに対して規制が求められる現代において、最前線には立っていない自分たちの立場だからこそ出来ることはなんだろう……と考えた末に導き出した結論なのだろうか。

数々の伝説的な舞台を打ち出し、数多くの芸人たちに大きな影響を与えてきたシティボーイズのコントが令和の時代に復活したことは、もっと広く知られていいし、もっと大きく話題になるべきだろう。もとい、彼らが現役のコント師として活動しているうちに、彼らのコントを聴きそびれてしまう後悔をしてもらいたくはない。哀しくも、さんさんとコント界を照らしていた巨星は、遠くない未来に沈んでしまうことは間違いないのだから。

なお、『SAYONARAシティボーイズ』の過去放送は、Audibleで聴くことが出来るので、気になる方は是非に。