白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「東京03 第25回単独公演「寄り添って割り食って」」香川公演(2023年6月11日)

香川県東京03が来るというので、観に行こうと思う。

東京03による生の舞台を鑑賞するのは、2019年の公演『人間味風』以来のこととなる。この公演の直後、新型コロナウイルスの感染状況が悪化し、ありとあらゆる舞台公演を観に行くことが出来なくなってしまったためである。それから、およそ三年半の月日が流れた。これ以降、私は一度も芸人の舞台を鑑賞していない*1。舞台公演そのものは再び開催されるようになってはいたのだが、私自身の心情として、まだまだ不用意な行動を取ることは出来ないと判断していたからだ。

しかし、2023年になって、感染対策の緩和が囁かれるようになった今、そろそろ動き出しても良いのではないかという風潮が高まるようになってきた。無論、油断は禁物である。五類感染症に移行したからといって、コロナウイルスの威力が失われたわけではない。とはいえ、そろそろ自分も、コロナ禍以前の行動に戻っても良いのではないか、という気持ちに揺り動かされるようになったのである。あくまでも、あくまでも油断は禁物だが。

というわけで、チケット(二枚)を無事に購入した私は、公演当日を迎えるまで心ここにあらずの日々を過ごすことになったのである。

公演当日の6月11日、午前11時起床。

昨日、新型コロナウイルスのワクチン接種を終えたこともあって、酒を飲まずに就寝したはずなのだが、目覚めはあまり芳しくない。注射針を刺した左腕を触ると、まだほんのり痛みが残っている。実際に針を刺した位置よりも、少し下のあたりが痛むから不思議だ。ワクチンが身体にどのような影響を及ぼしているのか、まったく知識がないので、まったく理由が分からない。それでも、痛みが残っていると、ワクチンが効いているような感覚を覚えるので、悪い気はしない。

遅めの朝食としてカップラーメンを食べる。ごつ盛りのワンタン醤油ラーメン。オモコロチャンネルを見ている影響で、ごつ盛りを食べると、自動的に出演者の原宿氏のことを思い出すようになってしまった(動画内でたびたび原宿氏がネタとして取り上げているのである)。今後、ごつ盛りについて、より強烈な印象を残す人物が現れるとは思えないので、きっと私は死ぬまで「ごつ盛り=原宿」の方程式に捉われ続けることだろう。それが不幸だとは思わないが。

食後、身支度を済ませて、午後2時に妻とともに自宅を愛車で出発。国道11号線を東へと進行する。途中、丸亀市にあるコメダ珈琲店に立ち寄り、昼食。私はブラックコーヒーとミックスサンド、妻はカフェインレスアイスコーヒーとフィッシュフライバーガー、共有用のポテトバスケットを注文、食す。2,700円也。昼食としてはやや高い。

食後、再び東へと向かう。途中、スーパーマーケットへ立ち寄り、併設するATMで金銭を下ろす。

午後5時20分ごろ、本日の目的地であるレクザムホール(香川県県民ホール)に到着。最寄りの立体駐車場がやや高めの料金設定だったので、少し会場から離れたところにある有料駐車場に車を停める。1時間100円は有り難い。車を降り、会場に向かって道路沿いを少し歩いていると、途中、レクザムホールの搬入口に向かって手を振っている集団に出くわす。同日、同じ会場の大ホールの方で、「めざましクラシックス」のイベントが開催されていたようなので、それの出演者か誰かがいたのだろう。一瞬、意識が逸れるが、本日の私の目的はそちらにはないので、再び会場に向かって歩みを進める。

午後5時25分、レクザムホールの一階に入る。さほど広くない空間に大勢の人が詰め込まれている。目的の小ホールは二階にあるので、エスカレーターで上の階へと上がる。二階に上がると、本日の目的である公演のフライヤーが掲示されているのを目にする。「東京03 第25回単独公演「寄り添って割り食って」」。吉田ユニ氏が手掛けたデザインは、何度見ても感心させられる。

一度、トイレに入って用を済ませてから、ロビーへと移動する。今回、チケットはイープラスの電子チケットを利用。電子チケットを利用するのはこれが初めてだったので、大いに戸惑っていたのだが、スタッフに画面を見せて無事に通してもらう。

ロビーに入ると、物販の行列が目に飛び込んでくる。東京03の単独公演に出向くのはおよそ三年ぶりのことになるが、物販の行列は今も昔も変わらず、凄まじいものである。ご多分に漏れず、私も最後尾に並ぶ。ただ、この時点で既に開演20分前だったので、きっと自分まで順番は回ってこないだろうな……と、思っていたのだが、あっという間に自分の順番になったので驚いた。そのスピードの理由はすぐに明らかになった。「タオルと、パンフレットと……あと、キャンバスポーチ」と注文をかけると、スタッフが即座に「6200円になります」と暗算で正確な値段を叩き出し、すぐさま商品を取りに行ったのである。その優秀な振る舞いにうっかり見とれてしまった。とっとと財布から銭を出せ。

物販で購入したグッズをカバンに詰め込み、そそくさと会場内へ。時刻は開演五分前の午後5時55分。席は会場全体の真ん中あたり。近くもないが遠くもない。席に座って、隣の席の妻と軽めの談笑。ちょうどいい。すべてがちょうどいい。完璧な状況だ。

予定より少し遅れた午後6時5分、開演。

大竹涼太(大竹マネージャー)のピアノ演奏によるオープニング映像を経て、一本目のコントが始まる。面白い。いつも通りといえばいつも通りだが、ベースとなっている部分に独自性があるため、これまでとはまた違った味わいを生み出している。コントが終わると、今度は角田歌唱によるオープニングテーマが始まる。ギター弾き語りで熱唱しているのに、なんかひねくれたメッセージがこれまたたまらない。

最高の盛り上がりを見せたところで、二本目のコントへ。じっくりと状況を見せて、確実に大きな笑いを引っ張り出す、時間を贅沢に使った単独ならではのネタだ。……と、ここで自らの身体の異変に気付く。なんとなく全身が冷たい感覚に包まれている。悪寒だ。確かに、開演前までは会場内は熱気に包まれていたのに、今は空調がきいているのか、うっすらと涼しくはなっている。だが、何かがおかしい。昨日のワクチンによる副反応だろうか。

なんとなく不安を覚えながらも、二本目のコントが終わる。愉快な幕間映像を挟み、三本目のコントへ。ちょっとした台詞がどんでん返しを生み出す一撃必殺のネタだ。ここで身体の異変が明確になる。便意だ。便意が押し寄せている。公演前にトイレに行っているはずなのに、どうしてここにきて便意が。なんでだよ。三年ぶりに単独公演を観に来てるんだぞ。コロナの自粛期間を経て、やっとこの日を迎えたんだぞ。なのにどうして、今になって便意が来るんだ。最悪だ。いや、でも、これはもう仕方がない。生理現象は仕方がない。今はただ、東京03や他のお客さんにとって、迷惑にならないタイミングで離席することだけを考えなくては。

そうこうしているうちに三本目のコントが終わる。ここで便意が一旦落ち着いたので、もしかしたら行けるかも……と思ったのだが、幕間映像を見ているうちに明確な腹痛が押し寄せてきたので、そそくさと離席。客席からロビーへと舞い戻り、トイレへと駆け足で飛び込んだ。便座を上げ、ズボンを下ろし、座った瞬間に排出。マズい。ただの便じゃない。下痢だ。ただの便であれば、出し切ったところで速やかに席へと戻れば大丈夫だが、下痢の場合、再度の腹痛に襲われる可能性がある。一度の離席は仕方がないが、二度目の離席は自分にとって有り得ない。なんとしてでも、ここで全ての出し切らなくてはならない。……というわけで、しばし籠る。一瞬、気張り過ぎて、ちょっと頭がクラッとなる。

それなりに落ち着いたところで、再び客席へ。コント中だったので、入口前で幕間映像が始まるまで待機する。幕間映像が始まると同時に、席に戻る。妻が心配そうに見ていたので「お腹が痛くなった」と小声で説明する。その後は、体調を気にしながら、コントと幕間映像を鑑賞する。下痢のおかげで体力が尽きかけていたが、なんとか最後まで楽しむことが出来た。ちなみに、後で妻に聞いたところによると、どうやらトイレにこもっている間に、コントを一本飛ばしてしまったらしい。ソフト化を待つしかないか……。

エンディングトークでは、11年ぶりの香川公演だったこと、当時は半分も埋まらなかったこと*2、最後のコントで豊本が使っている小道具に対するこだわりの話などをしていた。

午後8時半、終演。公演後、グッズ購入者を対象としたお見送り会が開催される予定だったのだが*3、体調が芳しくなかった私は不参加。妻と共に車に乗り込み、会場を後にした。途中、吉野家に立ち寄り、スタミナ超特盛丼を食べる。丼に、ご飯と卵がセットでついてきて、驚きながら食べる。ルパン三世のように、メシで体力を回復するのだ。

午後10時帰宅。お疲れさまでした。

*1:『うるう』はジャンルとしては演劇にあたるので除外している。

*2:2012年の公演『後手中の後手』のこと。ただ、当時の彼らに人気がなかったわけではなく、兵庫・広島・岡山でも公演が予定されていたため、観客が分散してしまったことが原因だったのではないかと推測される。ちなみに私は香川公演を鑑賞している。

*3:コロナ禍以前は握手会を行っていたのだが、打ち合わせの結果、お見送り会というカタチを取ることに決定したらしい