白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「笑い飯の漫才天国~結成20+1周年記念ツアー~」(2022年6月29日)

2021年7月から2022年1月にかけて全国12か所で開催されたライブツアーより、2021年12月の大阪公演と2022年1月の東京追加公演の模様をセレクトして収録。ちなみに、笑い飯が単独名義のDVD作品をリリースするのは、2011年9月・10月に二ヶ月連続でリリースされた『笑い飯「ご飯」~漫才コンプリート~』『笑い飯「パン」~笑いの新境地~』以来、およそ11年ぶりとなる。

本編は、笑い飯の漫才を収録した「漫才パート」と、各公演にゲストとして出演していた芸人たちが参加する「コーナーパート」に分かれている。

「漫才パート」に収録されているネタは全七本。但し、そのうち三本は前半パートと後半パートでくっきり分けられているため、事実上は十本のネタが収められているというべきなのかもしれない。そのうち二本は、過去にM-1決勝の舞台で演じられた『鳥人2021』と『ハッピーバースデー』。『ハッピーバースデー』はほぼほぼ原本と同じ内容だったように思えたが(きちんと比較していないので、記憶だけで書いている)、『鳥人2021』は遊び要素が格段に増えていて、まったく違った味わいのネタに昇華されていた。まさか、あの奇奇怪怪なる鳥人という存在が、子どもの喚きに押し負けてしまう瞬間を見られるとは。

鳥人2021』と『ハッピーバースデー』以外のネタはほぼ初見。いずれもベラボーに面白かった。新しい靴を買ったことに気付かれて良い気分になろうとする『靴買ったん?』。満席の定食屋で席を譲ってくれるおじさんの優しさに触れる『天使みたいな人』。みんなが知っている某物置のCMを会議中に発案した人の恰好良いドラマを演じるために、その前にヘボ提案を出した人を演じてもらおうとする『物置のCM』。今も何処かで起きていそうなちょっとした日常のやり取りが、これまでに見たこともないバカバカしい方向へと広がっていく様は、まさに笑い飯の本領発揮といったところ。

特に笑ったのは『ぞうさんの歌』。誰もが知っている童謡『ぞうさん』の歌詞について、哲夫が持論を展開する。曰く「前半のパートは人間の視点なのに、後半のパートは象の視点で返事していて、これでは「人間のお母さんの鼻も長いのかな?」と子どもが勘違いしてしまうかもしれない」とのこと。そこで、前半パートを歌う人(人間視点)と、後半パート(象視点)を歌う人で分けたいので、その練習がしたいというのである。というわけで、人間のパートを哲夫が、象のパートを西田が歌うことになるのだが、ここで西田が象のパートを歌うことについて難色を示すのである。どうも話を聞いてみると、自分が象のパートを歌わされることについて、何かが引っ掛かっているらしい……。

哲夫の提案が既にボケとして成立している最中、そのネタに入ろうとする前に、西田が変なところで引っ掛かってしまって話が進まない状況がとにかく下らない。どちらも正しくない。どちらもヘンテコ。でも、まったく共感できないわけでもないな、という絶妙なバランス感がたまらない。話の流れで、哲夫が西田よりも象に見えると思ったことがある人物の名前を出すくだりは、腹が爆発するんじゃないかというぐらいに笑った。どうしてその人物の名前が出てくるのか。でも、ちょっとだけ、分からなくもないあたりが絶妙なのだ。しかも、この漫才が恐ろしいのは、話がここで終わらずに、ちゃんと童謡の『ぞうさん』を歌うところにある。この歌い始めるまでのくだりだけで成立するのに、きちんと『ぞうさん』も歌うのである。で、しっかりと、面白いのである。笑い飯というコンビの自由さとバカバカしさが大爆発した、とんでもない漫才だった。こういうネタはテレビだとなかなか出来ないだろうなあ……。

「コーナーパート」には、大阪公演ゲストの中川家博多華丸・大吉が参加する「体力ゲームステッカーチャレンジ」と、東京追加公演ゲストのとろサーモン南海キャンディーズ銀シャリが参加する「フリップ使い切り大喜利」を収録。博多大吉の運動神経の無さ、笑い飯・西田の大喜利パフォーマンス能力の高さをそれぞれ確認できる内容になっている。というか、久しぶりに勝負事らしからぬ、遊びの意味合いが強い大喜利を観ることが出来たのが、ちょっと嬉しかった。フリップは何枚使ってもいいし、おちんちんも何本使っても構わないのである。

これらの本編映像に加えて、特典としてドキュメンタリー「笑い飯が浅草・東洋館の寄席に初めて出演する日」を収録。2022年3月31日に笑い飯が東洋館の寄席に初めて出演、出番前に浅草を散策する様子から実際の漫才まで、しっかりと映像として収められている。ちなみに、東洋館で二人が演じたネタは、『割り込みを注意する~蚊~ハエの出てくる昔話』。なんだかちょっと懐かしいチョイス。ネタの後は、ナイツとの対談をじっくりと。M-1、漫才の方向性、賞レースの審査員として気になっていること、注目の若手漫才師など、かなり渋い内容の話を展開していた。こういう話が好きな人は、見てみても良いかもしれない。

・本編【140分】
■漫才
「靴買ったん?~輪投げ」「ぞうさんの歌」「オリジナルの童話~天使みたいな人」「鳥人2021」「1回千円のUFOキャッチャー~品種改良」「ハッピーバースデー」「物置のCM」

■コーナー
「体力ゲームステッカーチャレンジ」(博多 華丸・大吉/中川家
「フリップ使い切り大喜利」(とろサーモン/南海キャンディーズ/銀シャリ

・特典映像【54分】
笑い飯が浅草・東洋館の寄席に初めて出演する日」(対談ゲスト:ナイツ)