白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

「R-1ぐらんぷり2020」Aブロック感想(2020年3月8日)

メルヘン須長

SNS事件簿」。科捜研の女こと沢口靖子が、若者たちの潜むSNSの世界で多発している事件の捜査に乗り出す。いわゆる“SNSあるある”としてパッケージされているネタだが、肝心の内容を見ると、その多くは女性にまつわるあるあるネタSNS風のシチュエーションに置き換えているだけで、悪い意味でのテーマとのズレを感じさせる。それでもネタのクオリティ次第ではどうにか成立させられたような気もするが、ツッコミの切り口は古臭いし、言葉選びも面白味に欠けるし、かといって傍若無人な振る舞いがエンタメになるほど狂気に踏み込めてもいない。その上、時代の傾向を読み取る感覚も不足している。この御時世に、何の捻りも加えずに、「女性声優はブス」などというツッコミでどれだけの数の人間が笑うと思っていたのだろうか。否、これが許された時代であっても、そんなにウケるような切り口ではないが。全体の構成がしっかり組まれているだけに、余計にこの中身の古臭さが浮き彫りになってしまっていた。唯一、オチでぶち込まれた「質問箱をやっている人はバカ」に関しては、その身も蓋もない発言が笑いに昇華させられたように思う。このレベルのツッコミがもっと散りばめられていれば……。

 

守谷日和

「アリバイの証明」。とある事件の重要参考人が、身の潔白を証明するために当時の状況を説明するのだが、その口調が何故か落語家っぽい。「取調室」というシリアスなシチュエーションと「落語家」の軽妙でコミカルな語り口のギャップだけで作り込まれたコント。余計なボケは一切加えられておらず、徹底して骨太に描かれている。江戸っ子口調に始まり、『時うどん』、肘まで垂れた肉汁、羽織のようにシャツを脱いで戸を叩く……と、視覚と聴覚を少しずつ刺激していく展開も見事。一本槍でも絶対に飽きさせないぞ、という気概が感じられる。そして実際に飽きない。飽きさせない。この怒涛の流れの中で、少しだけ残ってしまっていた違和感をオチに利用する構成も上手い。ただ、あまりにも上手くパッケージされてしまったことで、全体的に小さくまとまってしまったような印象も。もっと破壊的な要素が欲しかったかもしれない。

 

・SAKURAI

「どうしても伝えたいこと」。「どうしても伝えたいこと」と称しておきながら、知っても知らなくてもどうでもいいようなことを歌う……というお笑いの基本のような設定に、「複数の謎のワードを提示して、最後に答え合わせをする」という構成を組み込んだネタ。「なぞかけ」の仕組みに「ナンセンス」のオチを用いたような内容は、形態はまったく違っているものの、オリエンタルラジオの『武勇伝』を彷彿とさせる。このようなネタは、一見すると、ただただ独立した一言ネタを羅列しているだけのように思われるかもしれないが、それぞれのネタの役割がまったく異なっているため、少しでも順番を変えてしまうと、大変なことになってしまう。その点、SAKURAIのネタはよく出来ていた。「身体洗う順番」でネタのシステムを説明、「燃えるゴミ」「ビーチバレー」で少しだけ有用に思えなくもない情報を続けざまに出し、じっくりと惹きつけてから「徳川十五代将軍」で一気にナンセンスの底へと突き落とす。そしてさらっと「米米CLUB」を歌い上げ、軽やかに引き戻したと見せかけて、最後は「モロヘイヤ」で再びナンセンスの底へと引きずり込む。見事な駆け引きである。ただ一点、気になるところがあるとすれば、「徳川十五代将軍」の配置だろうか。盛り上げるだけ盛り上げておいて、一気に爆発させる威力を持っていた「徳川十五代将軍」を果たして大オチじゃなくて良かったのだろう。大オチの「モロヘイヤ」もかなり良い切り口ではあるのだが、インパクト度合いでは「徳川」の方が勝っていたような……。この辺り、結局は単なる結果論になってしまうので、決して断言は出来ないのだが。何かがちょっと違っていれば、また違った結果が見られたのではないかという気がするのである。

 

マヂカルラブリー 野田クリスタル

「もも鉄」。違法な方法でダウンロードしたゲーム「桃鉄」をプレイしてみると、それは「桃鉄」ではなく「太ももが鉄のように硬い男 てつじ」こと「もも鉄」だった。ナンセンスな世界観のゲームに対して、野田がツッコミを入れつつプレイし続けるパフォーマンス。しかし、「太ももが鉄のように硬い」という設定こそボケのようだが、「もも鉄」そのものにはボケの要素が組み込まれていないため、例えば陣内智則のコントのような創作物としての印象を与えない。そこで表現されているのは、YouTubeニコニコ動画のような動画サイトで公開されている、ゲームをプレイしている人たちの映像や音声を組み込んだ“ゲーム実況動画”そのものだ。当然のことながら、ゲームの設定、進行予定、ゲームの進行に合わせて的確に発せられる野田の台詞も、きちんと笑いを巻き起こすために事前に計算して決めているのだろうが、実際に舞台上でプレイすることで、あのドキュメンタリー的な面白さが忠実に再現されている。そして視聴者は野田と同じ目線になる。だからこそ、あのゲームの理不尽さに、野田の苦闘ぶりに、笑うのである。実によく出来ている。恐ろしい。

 

審査の結果、野田クリスタルがファイナルステージに進出。