2018年10月から11月にかけて全国11都市を巡るツアーを展開した独演会より、11月17日に横浜にぎわい座で行われた公演の模様を収録。作・演出はナイツ、構成は小川康弘・鏑木将宜・吾郷大介。ライブ・ビューイングが行われた日の公演なので、その時に使われた映像がそのままソフト化されているのではないかと思われる。お手軽だ。ちなみに、当時ゲストとして登場している、「昔昔亭A太郎」「キンタロー。」「かが屋」によるパフォーマンスは未収録。様々なジャンルの芸人たちによるパフォーマンスが楽しめてこそのナイツ独演会であるような気もするが、そこは何かしらかの事情があるのだろう。
本編を再生すると、まずは開演前の横浜にぎわい座の様子が映し出される。幕の下がっている舞台には、【本日の公演は契約上の問題が発生した為中止とさせていただきます】と書かれたメッセージボードが。説明するまでもなく、当時話題となった沢田研二の公演中止に絡めた時事ネタだ。ライブツアー中に起きた出来事をこうしてネタにしてしまえるところに、彼らの芸人としての身軽さを感じずにいられない。そこへ、もはやナイツ独演会ではお馴染み、シャープでホットなハイヤングこと漫談家の中津川弦が司会として登場。なんとも掴みどころのない不思議な空気の前説で、会場を良くも悪くも一つにまとめてみせる。この唯一無二の魅力、歌手で俳優の方のゲンさんにもきっと負けてない。多分。
そして独演会の幕が開く。
最初の漫才は『2018年をヤホーで調べました』。2018年を彩った事件の数々を、ナイツの二人が次々に漫才のネタへと昇華する。近年、時事を取り扱った漫才師といえば、爆笑問題の一強という状況が続いていたが(続けてますだおかだ、ロケット団といったところか)、今やナイツの漫才はその対抗と成り得るレベルへと駆け上がってきているように思う。相撲協会の揉め事を漫才協会に絡め、関ジャニ∞のメンバー脱退の真相をジェスチャーで語り、話題の人物のイニシャルにKが多い“イニシャルKの法則”が昨年に引き続いて今年も検証される。素知らぬ顔で毒を撒き散らす、寄席芸人の本領をまざまざと見せつけたパフォーマンスだった。
次に披露された漫才は、自己紹介ギャグを考えてきたという塙が、どこかで聞いたことのあるフレーズばかりを口にする『インクロスバッグ』。しかし、この漫才の肝は、その後に繰り出される「○○入ってるよ!」「え? ××入ってました?」というやり取り。丁寧に織り込まれた言葉遊びと随所に挟み込まれる悪意がたまらない。更に、夢オチのシステムを逆手に取った『夢寝落』、サッカーのユニフォームに身を包んだ塙がワールドカップをおバカに振り返る『ノブユキ・ハナワ』と、バカバカしいネタが続く。
と、ここで企画のコーナー。塙と中津川弦が舞台に登場し、これから始まるパフォーマンスについての説明が始まる。二年前に亡くなったマセキ芸能社の柵木会長の「母親が演歌歌手だった土屋も演歌歌手にして売れさせたかった」という意志を受けて、これから土屋がオリジナルの曲を披露するのだという。なんだそりゃ。説明を終えた二人は舞台から姿を消し、代わりに現れたのはマイクを手にした着物姿の土屋。地味で目立たず世界に紛れて生きている自身の境遇をカメレオンに例えたオリジナルソング『変色龍』を歌い上げる。なんだこりゃ。会場内を練り歩き、観客と握手する土屋。なんなんだこれは……。
突如として挟み込まれた謎の歌のコーナーが終わると、再び漫才が始まる。まずは、アイドルの名前が覚えられないという塙が、土屋に協力してもらいながらアイドルの名前を思い出そうとする『クイズ』。このネタがどうしてクイズというタイトルなのかは、実際に観てみないと分からないだろう。なかなかに絶妙な捻りを加えているように思う。続いて、某ドラマのヒットを受けて、ナイツの漫才にボーイズラブの要素を加えてみようと試みる『ラブ』は、結果として他の漫才師のスタイルに似通ってしまう……そんな、お笑いフリーク大好物な漫才。否、確かな技術があってこそ、成し得る技である。しかと見よ。
中津川弦による軽妙なトークを挟んで、オーラスで披露されたのはなんとコント! 塙が出演していたドラマ『警視庁・捜査一課長』をモチーフに、浅草東洋館で起きた殺人事件を解決する漫才協会副会長を塙が見事に(?)演じる『そうさ副会長』である。被害者は浅草を中心に活動しているベテラン芸人たち。そして、調査の結果、明らかにされてしまう不穏な実話の数々。いつものナイツの師匠イジりに、かなり強めのスパイスを加えた、天下御免の悪ふざけ時間だった。まったく、もう。
これら本編に加えて、特典として『Documentary of ナイツ独演会「ワッショイ」でない事だけは確か』を収録。ライブツアーの舞台裏が収録されているのだが、ゲストの人数があまりにも多すぎるために、かなり豪華な面々が名前を連ねているにもかかわらず、とても勿体無い使い方をしている。中川家、ますだおかだ、オードリー、サンドウィッチマン、かもめんたる、さらば青春の光……これほどの面々が一瞬しか映っていない。にゃんこスターに至っては背中しか映っていない。とはいえ、よしもと、松竹、ナベプロ、ケイダッシュ、太田プロ、サンミュージックなどなどの事務所の垣根を超えて、この短時間の映像に収まっているのは脅威の一言。一見の価値があるかもしれない。
・本編【84分】
「2018年をヤホーで調べました」「インクロスバック」「夢寝落」「ノブユキ・ハナワ」「変色龍」「ゲーム」「ラブ」「そうさ副会長」・特典映像【15分】
「Documentary of ナイツ独演会「ワッショイ」でない事だけは確か」