白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「R-1ぐらんぷり2020」ファイナルステージ感想(2020年3月8日)

マヂカルラブリー 野田クリスタル

「モンスト」。スマホのアプリに「モンスト」が入っていたのでプレイしようとするも、それは「モンモンとするぜ!ストッキング姉さん」という謎のゲームだった。一本目の「もも鉄」と同様、野田が理不尽な設定のゲームを実況プレイする姿を見せるパフォーマンス。但し、シンプルにゲームとしてプレイしていた「もも鉄」とは違い、「モンスト」は脱衣ゲームとしての赴きが強く、プレイヤーの必死さがそのままエロスへの探求心に繋がっているため、その姿により一層の情けなさが滲み出ている。そこが面白い。ストッキング姉さんのイラストが子どもの落書きじみているからこそ、余計にその必死さが笑える。ただ、個人的に一番面白かったのは、なかなかオチの画を出せずにやきもきしていたところ。あれは焦っていたな……。(Aブロックの感想はこちら

 

すゑひろがりず南條

「またぎ ザ・ベストテン」。一本目のシステムをそのままに、有名楽曲の歌詞を曲の途中から昔風の言葉で表現する。一本目と同様、南條の声と表現力が大いに活かされたパフォーマンス。しかし、丁寧に構成が練り上げられていた一本目に比べ、二本目は全体的に散漫な印象を受けた。それぞれの楽曲ごとに見ると確かに面白いのだが、それらの集合体として見ると、あまりきちんとまとまっていないように感じられたのである。まったく違った楽曲でも昔風の言葉に置き換えて世界観を揃えることが出来る芸なのだから、その辺りの工夫は欲しかった。事実、一本目の『ドレミの歌』のくだりでは、それが出来ていたのだから。(Bブロックの感想はこちら

 

・大谷健太

「2コマまんが」。フリップに描かれた2コマまんがに、大谷がめくりながら台詞を当てていく。シンプルにそれだけのネタである。とはいえ、ただイラストだけで成立するものではなく、大谷の喋り方やオチを見せた後の余韻がネタの中で大変に重要な役割を果たしているため、きちんと芸人のパフォーマンスとして成立している。古典的な手法を取り入れていた一本目に対し、こちらはひたすら大谷のセンス先行型。しかも後味がどことなく不穏なものが多く、ただでさえ人のいないスタジオが更なる静寂に包み込まれる瞬間も少なくなかったが(カニのくだりは引かれたのだろうか)、個人的には一本目よりも断然好き。R-1以後、まったく名前を聞かなくなってしまったが、次回大会での活躍も期待しております。(Cブロックの感想はこちら

 

審査の結果、マヂカルラブリー 野田クリスタルの優勝が決定。おめでとう。

「R-1ぐらんぷり2020」Cブロック感想(2020年3月8日)

ヒューマン中村
「妖精の声」。セントニア王国の妖精が精神に直接語り掛けてきて、受信料を請求しようとする。ファンタジックな世界観に受信料を掛け合わせるギャップのある設定がとても面白い。漫画や小説ではたまに見かける手法だが、コントではまだまだ未知数のジャンルである。受信料にエコーを効かせる音ボケや、『爆笑セントニア名人寄席』に対する「ちょっと見たいな…」というリアクション、受信料を支払わない場合の「精神にいらんことを言い続ける」で畳み掛けられるボケなど、全体的にソツがない作りでとても良かったのだが、そのソツのなさが故に、ちょっと記憶に残りにくいコントになってしまっていたようにも思う。ギャップで笑いを取る手堅い設定があるからこそ、更に飛躍的なボケやフレーズがあったら、もうちょっと楽しめたかもしれない。

 

・おいでやす小田
「おどしの口調」。組に入ったばかりの若い連中に借金を回収するときのおどしの口調をレェェェェェェェクチャー。「ラ行の時だけ巻き舌になる」というバカバカしい設定に目を奪われそうになるが、ネタの構成そのものは非常に手堅い。「コラ!」「オラ!」といった基本形に始まり、上級者向けの「殺したろかコラ!」でネタのシステムを理解させ、質問形式でシステムの密度を高め、更にメタ的な視点によるフレーズも見せることで、このシンプルなボケの面白さを存分に引き出しておいて、最後の実践編でキレイに落とす。なかなかに綿密だ。「根こそぎいけ」「それはどつけ」など、印象的なフレーズも残せている。ただ、延々と「ラ行の時だけ巻き舌になる」というあまりにもシンプルなボケを引っ張り続けるコントなので、最初のボケがハマらなかった客は最後までまったく面白いと感じられないという、非常に危険性の高いネタでもあるように思う。実際、当時の私はあんまりハマらなかった。今改めて見るとちゃんと面白い。

 

ワタリ119

「超高速フリップネタ」。レスキューはスピードが命であることを消防士時代に学んだワタリが、R-1の持ち時間180秒に対して119枚も用意されたフリップを駆使した超高速フリップネタを披露する。ネタが始まるまでに要した74秒のフリで全てが完結しているようなパフォーマンス。とにかく高速でネタをする姿を見せることを目的としているので、内容はそれほど重要ではないのである。とはいえ、それなりに面白くなければ、ネタとして成立しないため、そこそこにはきちんと作られている。特に「箸誤射」「1位地球」のくだりは良かった。ただ、全体を通して、敢えて荒っぽく作っているわけではなさそうな、ただただシンプルに粗さが感じられるネタが散見されたことが気になった。例えば、八代隊長の住所を言ってしまうくだりとか、乗りたい車ランキングにおける「屈折車」という見慣れないワードだとか、分厚い防災ブック=フリップ大量消費としてしまうくだりの説明の無さとか、もうちょっと突き詰めることが出来たように思う。それが却って、このネタが作家によるものではないことを証明しているのだが(当時、そういう疑惑があがっていたのである。もっとも、その辺りに配慮のない作家が手掛けた可能性もあるわけだが)。時間が余ったからギャグをするという無鉄砲な振る舞いを含め、総じて面白いと感じられたパフォーマンスだっただけに、そのあたりの仔細の部分はちょっと気になってしまった。

 

大谷健太(復活ステージ1位)

「早く言います」。イラストで描かれている内容を早口言葉で表現する。不条理なイラストを早口言葉で表現、そのイラストからもたらされるモヤモヤ感を明確にすることで笑いが生み出される仕組みのパフォーマンス。個人的には、かつてイラストと回文を組み合わせたパフォーマンで話題になった“レム色”というコンビのことを思い出した。笑いの取り方としては古典的でもはや堅実とすらいえる手法だが、イラストに登場したキャラクターたちが終盤で一気に混ざり合う構成が功を奏したように思う。個人的には特に「あたたかかたつむり」絡みの畳み掛けが面白かった。オチに「バスガス爆発せず」をチョイスするところも好き。

 

審査の結果、大谷健太がファイナルステージに進出。

「キングオブコント2020」ファイナリスト決定!

うるとらブギーズ(2)
空気階段(2)
ザ・ギース(4)
GAG(4)
ジャルジャル(4)
ジャングルポケット(4)
【初】滝音
【初】ニッポンの社長
【初】ニューヨーク
【初】ロングコートダディ

どうも、すが家です。最近気になる漫才師はキュウです。

昨年一昨年とファイナリストをシークレットにしやがっていたキングオブコントが、三年ぶりにファイナリストを発表してくれやがりました。この三年間は一体なんだったのかという気持ちがどうしても噴き上がってきますが、とはいえ、どうにか正気を取り戻してくれたことに安心するばかりであります。まったく。

とりあえず顔ぶれを見てみましょう。まずは昨年大会のファイナリスト組から、うるとらブギーズ空気階段GAGジャルジャルの四組が連続出場。昨年大会二位のうるとらブギーズ、三位のジャルジャルは優勝候補といえるのではないでしょうか。ザ・ギースは2018年大会以来二年ぶりの決勝進出。昨年大会で準々決勝敗退という苦汁を飲まされただけに、ここは雪辱を果たしたいところ。ジャングルポケットは2017年大会以来三年ぶりの決勝進出。四度目の正直となるか。

初の決勝進出は、滝音ニッポンの社長、ニューヨーク、ロングコートダディの四組。いずれもお笑い好きであれば一度は名前を聞いたことがあるだろう実力派ばかり。特にロングコートダディは『千原ジュニアの座王』で笑い飯・西田に続く勝数をあげている堂前のコンビなだけに、期待せずにはいられませんね(漫才はM-1予選で見たことがあるけれど)。

以下、ファイナリストのデータなどを。

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「R-1ぐらんぷり2020」Bブロック感想(2020年3月8日)

ルシファー吉岡

「缶コーヒー」。休憩室の机の上に置いていた飲みかけの缶コーヒーが、同僚の若い女性が飲んでいた缶コーヒーと見分けがつかなくなってしまい、どうしたものだろうかと考え込んでいると、同僚の方から「どっちでもいい」と言われ、困惑するおじさんのコント。基本的には、間接キスを過剰に意識しているおじさんの振る舞いがベースとなっている。おじさんがおじさんであることに自覚的であるが故に、ズレた思考を巡らせる様がたまらなく面白い。「昆虫とか食べれる人?」から始まる遠回しな自虐展開もたまらないが、“間接キス”という言葉を、恥じらいからか直接的に表現できないために、身体の動きでどうにか分からせようとするコミカルな姿が素晴らしかった。あのヒジとヒザをくっつける動きのバカバカしさ。終盤、「その三倍もったいないって思ってる!」という本音が飛び出してからの、オチも良い。ある意味、同僚に対する好意を露わにしてしまった後の、あのオチは捉えようによってはエモいかもしれない。全体的によく出来ているように思うのだが、シチュエーションの説明に力を入れ過ぎていて、エンジンがかかるまでに少し時間が掛かってしまっていたようにも感じられた。そこはコント芸人としての矜持があったのだろう、とは思うけれども。

 

・ななまがり森下
「コント「乳首かくせない男」」。乳首を隠したいのに何故か隠せない男が、ひたすら乳首を隠そうと奮闘する。「乳首かくしたい」というフリに対して「乳首かくせない」というオチが多種多様な手法で延々と繰り返されるパフォーマンス。同じ失敗が繰り返されることでベタな笑いが構築されているが、一方で、貝殻のブラやマグネットシールの使い方を見ると大喜利的な面白さも含まれている。虫眼鏡を取り出すくだりは、それまでの流れに対する裏切りの意味もあって、たまらなく面白かった。更に、乳首を隠すための所作や、オチの度に繰り出される「キャー!」という悲鳴から滲み出る、森下直人という人間の肉体的表現力の笑い。これらの要素が複合的に絡み合って、ななまがり森下にしか作り得ない小さな世界が出来上がっていく。だからこそ、笑わせる対象は狭く、響く層にしか届かないという難点はあるのだが。

 

パーパーほしのディスコ

かくしごと」。彼女のかくしごとを追求したら浮気していたことを告白されたのだが、追及していたかくしごとはまったくの別件で……。男性が女性に振り回される、パーパーのコントではお馴染みの構成をそのまま取り入れた一人コント。浮気された被害者という立場でありながら、彼女のことを何の償いも禊ぎもなく奥歯を噛み締めながら許してしまう姿はまさしくパーパーのコントそのものだ。ただ、如何せん、状況も彼女の態度もほしのが説明しなくてはならないため、パーパーのコントの時よりも台詞や展開にキレがない。女性に振り回される側でありながらも、絶妙な台詞回しの面白さで悲観的に思わせないところに、ほしのディスコの真骨頂があると思うのだが、今回の一人コントではその要素があまりにも不足している。加えて、そんなほしのを振り回す立場である、相方のあいなぷぅの不在がやはり痛い。あの何を考えているのか知れないあいなぷぅが居てこそ、ほしのの振り回されている姿がたまらなく可笑しくなるからだ。あいなぷぅが居れば、終盤の「あなたは何故ウソをつかない……?」のくだりも、もっとウケたのではないだろうか。

 

すゑひろがりず南條
「今昔またぎ」。舞台中央に備え付けられた「今/昔」と書かれた看板を横切るたびに、喋り方や動きが昔風のものへと変化する。今の喋り方と昔風の喋り方のギャップを軸としたパフォーマンスである。徹底的に分かりやすさを追求したのか、『サザエさん』『グリコ』『ドレミの歌』などのような陳腐で新鮮味に欠けるテーマが主。また、ネタの構成にしても、基本形から崩し方、用いられる台詞の選別、組み合わせに至るまで、まるで見本のように的確でつまらない。しかし、それらを凌駕するほどに、南條の「昔風の喋り」の持つ表現力で笑わせられてしまう。コンビとしての活動によるところも大きいのだろうが、生来の声質の良さが多分に有利に働いているのだろう。とりわけ『ドレミの歌』の中盤のくだりはたまらなかった。『ドレミの歌』という楽しい楽曲の中で繰り広げられる合戦の風景という最高のギャップ。センスや玄人ウケを完全に捨てた、キャラ芸人としてのプライドを感じさせられる一幕であった。無論、それでも、通常のすゑひろがりずの漫才の方が、間違いなく面白いのだが。

 

審査の結果、すゑひろがりず南條がファイナルステージに進出。

ヒマなので第七世代の年齢表を作ってみた

【1980】
サイトウナオキゾフィー

【1983】
1018:田辺智加(ぼる塾)
1109:松陰寺太勇(ぺこぱ)

1984
0128:布川ひろき(トム・ブラウン)
1217:上田航平ゾフィー
1229:みちお(トム・ブラウン)

【1985】
0811:友保隼平(金属バット)

【1986】
0301:屋敷裕政(ニューヨーク)
0303:篠栗たかし(エイトブリッジ)
0306:りんたろー。(EXIT)
0306:小林圭輔(金属バット)
0413:昂生(ミキ)
0514:嶋佐和也(ニューヨーク)

【1987】
0513:鈴木もぐら(空気階段
0611:山田しょうこ(はなしょー)
0612:菊田竜大ハナコ
0716:シュウペイ(ぺこぱ)

【1988】
0416:酒寄希望(ぼる塾)
0722:亜生(ミキ)
1010:福田麻貴(3時のヒロイン

【1989】
0530:岡部大(ハナコ

【1990】
0709:別府ともひこ(エイトブリッジ)
0722:水川かたまり(空気階段
1024:よしこ(ガンバレルーヤ
1101:ゆりやんレトリィバァ
1116:宮下兼史鷹(宮下草薙

【1991】
0511:兼近大樹(EXIT)
0601:酒井尚(ザ・マミィ)
0823:草薙航基(宮下草薙
0920:秋山寛貴ハナコ

【1992】
0610:かなで(3時のヒロイン
0612:安部紀克(納言)
0825:前田裕太(ティモンディ)
0910:林田洋平(ザ・マミィ)
0913:せいや霜降り明星
1008:高岸宏行(ティモンディ)

【1993】
0107:粗品霜降り明星
0124:薄幸(納言)
0219:賀屋壮也(かが屋
0330:田中永真(まんじゅう大帝国)
0516:加賀翔(かが屋
0524:杵渕はな(はなしょー)
0830:まひるガンバレルーヤ
1126:フワちゃん

【1994】
0201:ショーゴ東京ホテイソン
0427:竹内一希(まんじゅう大帝国)
1007:あんり(ぼる塾)
1117:ゆめっち(3時のヒロイン

【1995】
0128:きりやはるか(ぼる塾)
0324:たける東京ホテイソン

【1996】
0913:石橋遼大四千頭身

【1997】
0206:後藤拓実四千頭身
0320:都築拓紀四千頭身

どうも、すが家です。好きな部位はせせりです。

ふとしたスキマ時間が生じてしまったので、なんとなしに第七世代と呼ばれている芸人たちの年齢表をこしらえてみました。いずれも実際に“第七世代の芸人”として過去にテレビ番組に出演していた実績のあるユニットとなっています。以前に粗品が「令和元年の時点で二十代じゃなければ第七世代とは認めない」と話していましたが、その考え方を反映すると、かなりの数の芸人が第七世代ではないことになってしまいますね。ゾフィーやトム・ブラウン、金属バットあたりは完全にアウトとして、ミキもちょっと怪しいぞ。

しかし、こうして並べてみると、意外なところが同世代であることに気付かされます。ぼる塾の田辺さんとぺこぱの松陰寺が同い年なのはちょっと驚きました。あと、はなしょーの山田とぺこぱのシュウペイが同い年なのも意外です。……単純に、ぺこぱのイメージが、実年齢に見合っていないだけなのかもしれませんが。二人ともビジュアルに対する意識が高いからな。それから、四千頭身の若さに、改めて驚かされますね。圧倒的な早売れ!

2020年9月の入荷予定

09「NON STYLE LIVE Re:争論~リソウロン~
16「トータルテンボス全国漫才ツアー2019「CHATSUMI」
26「流れ星 単独ライブ 星幻想

どうも、すが家です。好きな色は橙色です。

このところは相変わらずの無気力生活を続けておりまして、このままだと死ぬまで惰性で生きていくことになるのではないだろうか……などと、自分自身を客観的に心配している次第であります。まるで自分の身体が自分の支配下にないような感覚。その模様はイッセー尾形の名作コント『脳コントロール』のようであります。動け身体、その人差し指に神経を研ぎ澄まし、デッキの再生ボタンを押すのだ! ……あーっ、またYouTubeを再生しているよ。いつまでHDDに去年のバラエティ番組を詰め込んでいるつもりなんだ。見ろ! もうとっくに最終回を放送し終えた筈の『ゲゲゲの鬼太郎』が、未だに高画質で未再生のままだぞ! ……かくして今日もYouTubeを見ているわけであります。困ったもんですね。

そんな不埒な状態で迎える九月にリリースされるのは、ゼロ年代を代表する漫才師三組の最新作であります。

一枚目は『M-1グランプリ2008』王者、NON STYLEが2019年夏に敢行した単独ツアーの模様を収録した作。全国八か所で行われたライブより、東京DX公演の模様を収録しております。……デラックス公演? お馴染みの漫才は言うまでもなく、コントも演じられているようです。また、結成20周年記念ボックス版には、ツアーのメイキング映像を収録したディスクが付いてくるとのこと。ファンなら必須!といったところでしょうか。

二枚目は『M-1グランプリ2007』において、惜しくもサンドウィッチマンに敗れてしまった実力派・トータルテンボスが2019年秋に敢行した単独ツアーの模様を収録した作品。全国十七か所で行われたライブより、なんばグランド花月での公演を収録しているとのことです。ノンスタが東京公演、トーテンが大阪公演をそれぞれ収録しているというのは、なんだか面白いですね。お馴染み「今日のいたずら」も勿論収録。年に一度のお楽しみ!といったところですかね。

三枚目は流れ星の単独です。お察しの通り、先の二組の解説で、もう力尽きてしまいました。体力が無くて申し訳ありません。此方も昨年の公演を収録しているとのことです。よろしくです。

此方からは以上であります。漫才濃度の高い秋ですね。

わだかまりを抱いて生きる人に響け「かつて天才だった俺たちへ」

「天才なんて言葉は努力しなかった人間の言い訳に過ぎない」。二十代半ばの頃、子どもの頃から他者と深い関係性を築き上げることを怠ってきた私にとって、数少ない友人と呼べる男がそんなことを口にしていた。何処かの誰かが漏らした戯言の受け売りだったのかもしれないが、この言葉は妙に私の記録回路に貼り付いて、未だに剥がれずにへばり付いている。今、その友人は、仕事の傍らエッチなイラストを描いて暮らしている。プロとしては仕事していないようだが、Twitterでは十七万人近い数のフォロワーを抱えていて、その界隈では結構な有名人らしい。正直なところ、彼の描くイラストは私の嗜好とはそれほど合わないのだが、そこまでの評価を獲得するまでの道のりを思うと、尊敬せざるを得ない。

一方の私はというと、どうだろう。コンテンツリーグというお笑い芸人を専門としたDVDレーベルが発行するフリーペーパーにおいて、五年間に渡って続けてきたコラム連載を終了し、もう一年半が経とうとしている。それで満足してしまったわけではない。だが、だからといって、何かをしようという意欲も湧き上がらない。膨張した自己顕示欲を連載期間中に培われた周囲の信頼で消化し続けるような毎日。これでいいのか。それでいいのか。別にいいのか。これでいいのか。少しずつ、しかし確実に、自らの才能に見切りをつけようとする日々。

そんな最中、Twitterのタイムライン上に、若きヒップホップグループ・Creepy Nutsの新曲が流れてきた。『かつて天才だった俺たちへ』。なんとなしに再生してみる。そこでは今までに何度も聴いたことのあるメッセージが歌われていた。あー、知ってる知ってる、この感じ。幾つになっても夢が叶うとかなんとかいうやつじゃん。私の心のシニカルな部分がそんな嘲笑の声をあげる。だが、何故だろうか、気が付けば一日に何度も何度も何度も何度も、この曲を聴き直している。

それはきっと、この曲が「夢を諦めた瞬間」から始まっているからだろう。【苦手だとか怖いとか気付かなければ 俺だってボールと友達になれた】【破り捨てた落書きや似合わないと言われた髪型 うろ覚えの下手くそな歌が 世界を変えたかも】。それらの歌詞が、いちいち私の心へ鍼灸師の針のように刺さっていく。ああ、そうだそうだ、確かにそうだ。ネットを通じて、世間を知って、自らの実力に見切りをつけて、背伸びをする努力から目を逸らしてきた。だからこそ、この導入に共感せずにいられない。おかげで、その後の言葉もずっと、刺さりまくってしょうがない。【くたばり損ねた冥土からCome back 草葉の陰からゴンフィンガー】。おかげさまで多少は立ち上がる気持ちにさせてくれたような気がする。

まったくもって音楽は有り難い。