白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

2020年8月の入荷予定

05「小林賢太郎演劇作品『うるう』

どうも菅家です。好きな文房具は分度器です。

いよいよ夏も本番ということですが、相変わらず不要不急の外出を控えているため、何処にも出掛けられずにやきもきしております。外出できない夏に何の意味があるというのでしょうか。もはや我々に残された選択肢は、冷房がガンガンに利いた部屋に閉じこもって、アイス食いながら毛布被って『スーパードンキーコング』をプレイするしかありません。……ありません。それ以外は認めません。ただソフトは『スーパーメトロイド』に代替可能です。目指せ100パーセント攻略。お盆休みはこれで決まりだぜ。

そんな夏真っ盛りな八月に、季節外れの風が吹き抜けるかのようにリリースされるのが、小林賢太郎の一人芝居を収録した本作であります。四年に一度、うるう年にだけ開催されていた、彼にとっても思い入れのある公演が遂にソフト化される運びとなりました。本来であれば、コントユニット・カジャラの舞台公演に加え、パラリンピックの閉会式の演出と、小林にとって大変に多忙な年になっていたであろう2020年。そんな特別な年だからこそ、本作のリリースを決断したのかもしれないことを思うと、ちょっとだけ居たたまれないものがあります。知らんけど。正直、お笑いの舞台とはちょっと違うのだけれど、まあ、興味がありましたらば。

あと、アマゾンプライムビデオで配信されている『HITOSHI MATSUMOTO Presents FREEZE』が、8月12日にリリースされる予定です。普通にボビー・オロゴンが出演しているのですが、その辺りは別に問題無いのでしょうか(既に釈放されているそうなのだけれど、彼は今どこで何をしているのだろう?)。あ、そういえば8月21日、『ドキュメンタル』の最新回も配信されるんでしたっけ。まだ出演者は発表されていませんが、誰が出るんだろう?

「R-1ぐらんぷり2020」Aブロック感想(2020年3月8日)

メルヘン須長

SNS事件簿」。科捜研の女こと沢口靖子が、若者たちの潜むSNSの世界で多発している事件の捜査に乗り出す。いわゆる“SNSあるある”としてパッケージされているネタだが、肝心の内容を見ると、その多くは女性にまつわるあるあるネタSNS風のシチュエーションに置き換えているだけで、悪い意味でのテーマとのズレを感じさせる。それでもネタのクオリティ次第ではどうにか成立させられたような気もするが、ツッコミの切り口は古臭いし、言葉選びも面白味に欠けるし、かといって傍若無人な振る舞いがエンタメになるほど狂気に踏み込めてもいない。その上、時代の傾向を読み取る感覚も不足している。この御時世に、何の捻りも加えずに、「女性声優はブス」などというツッコミでどれだけの数の人間が笑うと思っていたのだろうか。否、これが許された時代であっても、そんなにウケるような切り口ではないが。全体の構成がしっかり組まれているだけに、余計にこの中身の古臭さが浮き彫りになってしまっていた。唯一、オチでぶち込まれた「質問箱をやっている人はバカ」に関しては、その身も蓋もない発言が笑いに昇華させられたように思う。このレベルのツッコミがもっと散りばめられていれば……。

 

守谷日和

「アリバイの証明」。とある事件の重要参考人が、身の潔白を証明するために当時の状況を説明するのだが、その口調が何故か落語家っぽい。「取調室」というシリアスなシチュエーションと「落語家」の軽妙でコミカルな語り口のギャップだけで作り込まれたコント。余計なボケは一切加えられておらず、徹底して骨太に描かれている。江戸っ子口調に始まり、『時うどん』、肘まで垂れた肉汁、羽織のようにシャツを脱いで戸を叩く……と、視覚と聴覚を少しずつ刺激していく展開も見事。一本槍でも絶対に飽きさせないぞ、という気概が感じられる。そして実際に飽きない。飽きさせない。この怒涛の流れの中で、少しだけ残ってしまっていた違和感をオチに利用する構成も上手い。ただ、あまりにも上手くパッケージされてしまったことで、全体的に小さくまとまってしまったような印象も。もっと破壊的な要素が欲しかったかもしれない。

 

・SAKURAI

「どうしても伝えたいこと」。「どうしても伝えたいこと」と称しておきながら、知っても知らなくてもどうでもいいようなことを歌う……というお笑いの基本のような設定に、「複数の謎のワードを提示して、最後に答え合わせをする」という構成を組み込んだネタ。「なぞかけ」の仕組みに「ナンセンス」のオチを用いたような内容は、形態はまったく違っているものの、オリエンタルラジオの『武勇伝』を彷彿とさせる。このようなネタは、一見すると、ただただ独立した一言ネタを羅列しているだけのように思われるかもしれないが、それぞれのネタの役割がまったく異なっているため、少しでも順番を変えてしまうと、大変なことになってしまう。その点、SAKURAIのネタはよく出来ていた。「身体洗う順番」でネタのシステムを説明、「燃えるゴミ」「ビーチバレー」で少しだけ有用に思えなくもない情報を続けざまに出し、じっくりと惹きつけてから「徳川十五代将軍」で一気にナンセンスの底へと突き落とす。そしてさらっと「米米CLUB」を歌い上げ、軽やかに引き戻したと見せかけて、最後は「モロヘイヤ」で再びナンセンスの底へと引きずり込む。見事な駆け引きである。ただ一点、気になるところがあるとすれば、「徳川十五代将軍」の配置だろうか。盛り上げるだけ盛り上げておいて、一気に爆発させる威力を持っていた「徳川十五代将軍」を果たして大オチじゃなくて良かったのだろう。大オチの「モロヘイヤ」もかなり良い切り口ではあるのだが、インパクト度合いでは「徳川」の方が勝っていたような……。この辺り、結局は単なる結果論になってしまうので、決して断言は出来ないのだが。何かがちょっと違っていれば、また違った結果が見られたのではないかという気がするのである。

 

マヂカルラブリー 野田クリスタル

「もも鉄」。違法な方法でダウンロードしたゲーム「桃鉄」をプレイしてみると、それは「桃鉄」ではなく「太ももが鉄のように硬い男 てつじ」こと「もも鉄」だった。ナンセンスな世界観のゲームに対して、野田がツッコミを入れつつプレイし続けるパフォーマンス。しかし、「太ももが鉄のように硬い」という設定こそボケのようだが、「もも鉄」そのものにはボケの要素が組み込まれていないため、例えば陣内智則のコントのような創作物としての印象を与えない。そこで表現されているのは、YouTubeニコニコ動画のような動画サイトで公開されている、ゲームをプレイしている人たちの映像や音声を組み込んだ“ゲーム実況動画”そのものだ。当然のことながら、ゲームの設定、進行予定、ゲームの進行に合わせて的確に発せられる野田の台詞も、きちんと笑いを巻き起こすために事前に計算して決めているのだろうが、実際に舞台上でプレイすることで、あのドキュメンタリー的な面白さが忠実に再現されている。そして視聴者は野田と同じ目線になる。だからこそ、あのゲームの理不尽さに、野田の苦闘ぶりに、笑うのである。実によく出来ている。恐ろしい。

 

審査の結果、野田クリスタルがファイナルステージに進出。

芸人Blu-ray史

どうも、すがやです。好きなスシローの軍艦は「たらマヨ」です。

特に理由はないのですが、「芸人のBlu-rayリリースの歴史を一回振り返ってみてもいいのではないだろうか」と思い立ったので、年表を作ってみました。あくまでも芸人のソフト限定なので、『さまぁ~ず×さまぁ~ず』や『アメトーーク』、或いは『小林賢太郎テレビ』や『ドキュメンタル』のような番組のソフトは除外します。芸人名義のライブ、映像のソフト化に限定します。

大した情報量ではありませんが、興味があれば。

続きを読む

「第41回ABCお笑いグランプリ」(2020年7月12日)

オープニングアクト
エンペラー「漫才:女に生まれ変わりたい」(第40代目王者)
霜降り明星「漫才:シンデレラ」(第38代目王者)
ミルクボーイ「漫才:俺」(第32回決勝進出)

【Aブロック】
世間知らズ「漫才:横顔が恰好良い」
チェリー大作戦「コント:テスト中に…」
からし蓮根「漫才:囚人」
☆オズワルド「漫才:ランドセルか地蔵か」

【Bブロック】
ベルサイユ「ピン芸:男と女は夢芝居」
カベポスター「漫才:ストリートミュージシャン
コウテイ「漫才:田舎に住みたい」
そいつどいつ「コント:すっぴん」

【Cブロック】
フタリシズカ「コント:アイドルオーディション」
滝音「漫才:織田信長
ビスケットブラザーズ「コント:エロい友達のお母さん」
さや香「漫才:うんちく」

【ファイナルステージ】
オズワルド「漫才:想像の子ども」
コウテイ「コント:大怪盗ロゼロ」
フタリシズカ「コント:テレパシー転校生」

ABEMAでの配信を視聴。デビュー10年以内の芸人を対象とした賞レースということで、M-1やR-1、KOCに比べて芸が未熟な芸人が多く、だからこそ未来のある大会なんだなあと改めて感じさせられた。ファイナルステージに進出した三組は言うまでもなく、どのコンビも素晴らしかった。特にオズワルドは、良くも悪くも狂い散らかしているところを確認できたことが嬉しかったな。

予選落ち組では、テスト中にもかかわらず生徒の誰かが歌い始めたのだがマスクのせいで誰の仕業か分からないチェリー大作戦、彼氏の前ですっぴんを見せることにためらう女が延々と躊躇し続けるそいつどいつ、なんだかエロい友達のお母さんの正体がどんどん明らかになっていくビスケットブラザーズの三組が面白かった。とりわけチェリー大作戦のコントは今の時代ならではの設定で、見事の一言。平場も強そうな雰囲気が感じ取られたので、今後の活躍にも期待したい。それ以外では、唯一のピン芸であるベルサイユが衝撃的。完全に自身のスタイルをパッケージ化していて、時代が時代なら、もっとハマッていたのではないかという気もする。下手に消費されることなく、あのショー形式の芸を極めてもらいたい。

漫才組は台本重視とパッション重視が混ぜこぜになっていて、その中で突出していたオズワルドとコウテイがファイナルステージに進んだ印象。カベポスターも滝音も、面白いんだけれど何かが足りないような気もする。ここからの紆余曲折に注目したい。その意味では、さや香の漫才はなんだったんだろうか。肯定も否定もしないが、あれは一体なんだったんだろうか……。

先行き未確定の『鴨川等間隔』


相変わらずYouTubeばかり見ている。諸般の事情で日常が慌ただしく、精神的に余裕を持てないからだ。若いころは、それでも自分が面白い楽しいと感じられる作品を積極的に受信し、そのみなぎるパワーを自分のエネルギーに変えることが出来ていたのだが、近年は得体の知れない作品を再生する意欲も体力も衰えてしまって、結果的に、魚を三枚に下して銀色のヤツを飲み干すような当たり障りのない映像で心を癒している。そして、あんな風に綺麗に魚を捌けたら、もっと人生が楽しくなっていたのだろうか、などとミュージシャンの華麗な演奏を眺めている中学生のような感想を抱き始めている。「いつだって今が常にスタートライン」とPerfumeが歌っていたように、今からでも遅くはない筈だ……という気持ちが芽生えたり萎んだりしながら、また日々は過ぎていく。人生に残された時間を思えば、こんなに無駄遣いしている場合ではない筈なのだが。

そんな最中、YouTubeのオススメ動画として、岡崎体育『鴨川等間隔』のプロモーションビデオが流れてきた。2016年に公開された『MUSIC VIDEO』のプロモーションビデオでブレイクを果たした岡崎体育だが、最近はあまり名前を見かけなくなってきた。私が見かけないだけで、彼は彼なりに頑張っているのだろう。『鴨川等間隔』は2013年に発表された岡崎のアルバム『FICTIONAL ZODIAC』の収録曲で、このプロモーションビデオも同年に公開されている。このアルバムには『スペツナズ』や『エクレア』も収録されているそうで、今となっては入手困難なのだが、ひょっとしたら名盤だったのかもしれない。漠然と過ぎていく日々の景色に対する不安と苛立ちに似たような感情を重ねて綴ったような歌詞は、今の自分には無性に刺さるものがあった。

ただ、当時の岡崎はまだ若かった。今の私はもうそんなには若くない。このモラトリアムにも似た感覚の先に何が待ち受けているのか、なんとも不安で仕方ない。

「小林賢太郎コント公演 カジャラ #3 「働けど働けど」」(2019年2月20日)

 2018年2月から4月にかけて全国六か所で上演された舞台を収録。

カジャラ(KAJALLA)は小林賢太郎が作・演出を手掛けているコント集団である。年に一度のペースで新作のコントライブを開催している。出演者は、小林賢太郎、辻本耕志、竹井亮介の固定メンバーに、複数のゲストが加わる形式を採用。第一回公演『大人たるもの』には片桐仁安井順平、第二回公演『裸の王様』には久ヶ沢徹菅原永二がそれぞれゲストとして出演している。本作のゲストには、今や名バイプレーヤーとして広く親しまれている野間口徹、劇団「動物電気」旗揚げメンバーの小林健一が起用されている。

『大人たるもの』『裸の王様』はコントライブとしては些か堅く、良くも悪くも教育的な内容に落ち着いてしまったような印象を与えられた。だが、過去二公演でようやく「カジャラのコント」の感覚を掴むことが出来たのか、本作はコントライブとしてしっかりと振り切れたつくりになっている。その傾向は、オープニングコント『タイムカード』の時点で既に表れている。仕事を終え、タイムカードを手にした会社員たちが、タイムレコーダーから吹き付ける強風に煽られながら立ち向かっていく様は、僅かなメッセージ性とそれを凌駕するバカバカしさに満ち溢れていた。コントにおけるメッセージ性と笑いのバランスは、これぐらいの塩梅が丁度良い。

タイトルにもあるように、本作のメインテーマは「労働」である。就職、作業、仕事場など、労働の関わる設定のコントが多く演じられている。残業している同僚を横目にダラダラと雑談を繰り広げるサラリーマンたちを描いた『グリーングリーン』は、小林が多分に影響を受けているシティボーイズからの影響を多分に感じさせられるコント。陽気な五人のサラリーマンがリズミカルに取り止めのない会話をする様が大変に心地良い。笑いはリズムであると改めて気付かされる。

シリコンバレーの企業に入るため面接にやってきたピーター少年を待ち構えていた入社試験とは?『シリコンバレー』は、カジャラの公演ではお馴染みとなっているワンシチュエーションコント集の一つ。今回の公演で設けられた設定は「面接」。以後、透明人間によるお笑いコンビがオーディションにやって来た!『透明人間ズ』、就職面接会場に突如として現れた可愛いフェアリーちゃんは人と企業を繋ぐキューピット♪『就職フェアリー』、未知の言語を有する宇宙生物が通訳を引き連れて就職面接を受けに来た『エルガゼスタ星人』と続く。手堅いシチュエーションだからなのか、かなり突飛なキャラクターが暴れ回るコントが主。面接という徹底的に現実と直結した設定だからこそ、そのギャップがたまらなく面白い。

何にも掛かっていない言葉を連呼し続ける親分の旅立ちを見送る子分たちのコント『シャレにならない親分』は、文字通り「ダジャレを言いそうなトーンで“シャレ”にならないナンセンスな言葉を言い続ける」という日本語崩壊ネタ。親分と子分の関係性が多少は「労働」を感じさせなくもないが、このコントはシンプルに、演者としての小林健一をフィーチャーしたものと捉えるべきだろう。謎の力強さと強引な説得力で圧倒する姿は、奇妙なカリスマ性を帯びていた(だからこそ、その役割を担わされることになる、野間口徹の平凡さもまた味わい深い)。対して、四人の演者によるナレーションに合わせて小林賢太郎がパントマイムを披露する『一握の砂』は、クリエイターとしての小林の心情を切り出したかのようなパフォーマンス。タイトルの「働けど働けど」とリンクする部分もあり、実質的な表題作といえるのかもしれない。笑いとシリアスの塩梅が絶妙で、だからこそオチの一言がストンと胸に落ちる。

宅飲みを敢行する三人の男たちが他愛のない話を延々と続ける『オマール海老』は本作随一のバカコント。辻本・小林・野間口の三人が、狭い部屋の中で取り留めない雑談を繰り広げているだけの内容で、たまらなく特別じゃない日常の風景を想起させる。でも、明らかに非日常的な要素も盛り込まれていて、その絶妙な匙加減がとても愛おしい。ひょっとすると、本作に収録されているネタの中で、個人的には一番好きなコントかもしれない。オチのバカバカしさも秀逸だ。

そしてオーラスのコント『倉田は働く』が幕を開ける。無職で労働意欲の欠片もない男・倉田ナメロウは、ある日ふと漏らした一言が偶然にも呪文となって魔術が発動、「お金」の存在しない世界へと迷い込んでしまう。その世界ではお金は通用しない。品物は物々交換で手に入れなくてはならない。その世界で出会ったコンビニ店員と謎の気功師、気合の入ったうどん屋たちと交流を深めることで、倉田は「お金」と「労働」について考えを改め始める。……と、あらすじだけを書くと、なんとも説教臭い雰囲気が漂っているが、いい意味で粗い展開とクセの強いキャラクターたちの存在が、コントとしての体裁を保たせている。名作と呼ぶには至らないが、今後の展開に幾許かの期待を抱けるネタだったのではないだろうか。

そして、この本作で抱かせた期待は、次回の公演『怪獣たちの宴』で確かに叶えられることになるのだが……それはまた、別のお話しである。

・本編【113分】
「前説」「タイムカード」「グリーングリーン」「面接1「シリコンバレー」」「面接2「透明人間ズ」」「面接3「就職フェアリー」」「面接4「エルガゼスタ星人」」「シャレにならない親分」「一握の砂」「オマール海老」「倉田は働く」

「紺野ぶるま10周年記念単独ライブ「新妻、お貸しします。~ぽっきし税抜3000円~」」(2020年3月25日)

このところ何かと話題の松竹芸能に所属しているアラサー女性ピン芸人紺野ぶるまが2019年12月にデビュー10周年を記念して開催した単独ライブの模様を収録。「単独ライブ」の名目になっているが、披露されているネタは過去に賞レースで掛けられているものが多く、実質的にベスト盤の様相を呈している。そういう意向の内容にするのであれば、「ベストライブ」「ベストコントセレクション」のようなタイトルで売り出した方が効果的だったような気がしないでもない。

紺野ぶるまといえば、与えられた言葉を全て「ちんこ」で解いてしまうなぞかけ芸『ちんこなぞかけ』の名手として知られている。こんなアホなパフォーマンスを売りにしている芸人は他にいないので、現時点でおそらく日本一の手練れだろう。本作のエンディングでも披露されているのだが、残念なことに、そこでの「ちんこなぞかけ」の出来はあまり芳しくない。内容が内容なだけに、テレビメディアなどで見る機会は稀少だが、もしも目にすることがあれば、その至極のテクニシャンぶりをこっそりと堪能していただきたい。

この『ちんこなぞかけ』のイメージから、紺野ぶるまは下ネタに特化している芸人として認識されがちだ。事実、彼女自身もそのように自らを売り込んでいて、本作のパッケージも明らかにアダルトビデオのそれをイメージしたデザインになっている。しかし、実際に彼女のコントを観てみると、エロの関わるネタは皆無に等しい。無論、ソフト化を見越して、敢えてエロ傾向のネタを排除しているだけなのかもしれないが、それにしてもゼロはありえない。下ネタはあくまでも世間に名を売るための手法に過ぎない、ということなのだろうか。或いは、単にネタと平場を使い分けているだけなのだろうか。そういえば、同じく下ネタを得意とすることで知られるルシファー吉岡も、ネタの中ではエロを取り入れているにも関わらず、平場でそういった類いのトークを展開しているを見たことがない。下ネタ芸人には、下ネタ芸人なりの「下ネタの矜持」みたいなものがあるのかもしれない。

紺野ぶるまがコントの中で演じている人々は、共通して露骨な性格をしている。とある理由から先生が描いた絵画を自分の名義でコンクールに出品してまんまと賞を取ってしまった弟子の自己プロデュース能力の高さが止まらない『現代アート』、卒業の日に旅立つ生徒たちへ担任教師が自らの「四の五の言わずに働かずに生きていきたい!」という夢をぶっちゃける『先生』、真面目に仕事に取り組んでいる女性の駅員が「かわいすぎる」と言われるたいがためにこの仕事に就いたことを告白する『駅員』などなど……。本来、心の中で留めておいた方が良いであろう感情を、これでもかと余すところなく吐き出している。

その姿は、特定の人たちに対する偏見にまみれたド直球の悪意を撒き散らす、往年のニューヨークの芸風を彷彿とさせるものだ。カタコトの日本語で客を乱暴に占う(?)中国人占い師を演じた『占い』などは、まさにその典型例といえるだろう。だが、特定の人々に対する世間のイメージを代弁するかのように悪意を投げつけるニューヨークに対し、紺野ぶるまのそれは、そんな世間に対する怒りと諦めの感情を帯びているように感じられる。思うに、コンビだからこそボケとツッコミの関係性が構築できるニューヨークとは違い、ピン芸人である紺野ぶるまは当事者を一人で演じる形式を取らなくてはならないためだろう。それ故に、どんなにそれが滑稽で可笑しみに満ち溢れた人物であったとしても、何処か、そんな境遇に至らしめている世間の醜悪さを対比して描いているような、そんな逆説的な意図を感じ取ってしまう。そこまでの計算があるのかどうかは知れないが。

その傾向が顕著に表れているネタが『女優の夢』である。

十二年ぶりに故郷へと帰ってきた一人の女。とある報告をするために“ちいちゃん”を呼び出す。「今度、ドラマに出るんだ」。かつて、「そこらへんの女優さん、比べものにならないから」「東京に行ったら、絶対に大女優になるはずだ」と声をかけてくれた、かつての友人たちの一人に向けた感謝の気持ち。ところが、女が本読みの手伝いを頼み始めたところで、状況は一変する。女が与えられた役柄は、誰にでもこなせるような端役だったのである。そして女は本性を明らかにする。「あのさ……私、東京行ったら、そこまで可愛くなかったみたいなんだけど、どうしてくれる……?」。

内容自体はいわゆる「アマチュアとプロの狭間ギリギリで生きている女性タレントあるある」なのだが、そのフォーマットとして、無責任に自分のことを持ち上げてきた周囲の人間に対する恨み節が使われている点が興味深い。無論、最終的に将来の進路を決めるのは自分自身なので、これを単なる自己責任からの逃避行と見ることもできる。恐らく、このネタの見方としては、それが正解なのだろう。ただ、その判断を歪ませた、勘違いさせた人々にまったく責任がないかというと、必ずしもそうとは言い切れないのではないだろうか。それがどんなにポジティブで前向きな言葉であろうとも。そんなことを、紺野ぶるまはコントで我々に突きつけている……ような、気がしないでもない。

これら本編に加え、本編中では不調だった『ちんこなぞかけ』のリベンジとして、スタッフが考えてきた五十個のお題を制限時間10分以内に全て解く『リベンジちんこなぞかけ』が特典映像として収録されている。リベンジと称してはいるものの、そもそも「五十個のお題を制限時間10分以内に全て解く」という設定に無理があるため、『ちんこなぞかけ』を楽しむというよりも、紺野ぶるまが必死に食らいついている様子を楽しむような映像になってしまっていて、些か不満が残る。そもそも、そんなにじっくりと楽しむ芸ではないのだが、とはいえ、おざなりにされるというのも、それはそれで芳しくはない。そこは丁寧にやってもらいたかった。

・本編【83分】
「結婚」「現代アート」「餅田の家掃除編1」「占い」「餅田の家掃除編2」「先生」「ベビーシッター編1」「駅員」「ベビーシッター編2」「女優の夢」「料理篇」「浮気」「オーディション」「「TimTim PomPom」MV」「ちんこなぞかけ」

・特典映像【14分】
「リベンジちんこなぞかけ」

 

2020年7月の入荷予定

29「2020年度版 漫才 爆笑問題のツーショット

どうも菅家です。人生のバイブルは松本零士『聖凡人伝』です。

気が付けば、もう七月ですよ御同輩!と肩を組みたくなる季節になって参りましたが、なにせソーシャル・ディスタンスの世の中で御座いますので、右も左も猫も杓子もソシャデソシャデで御座いまして、あたしゃ思わず何処かで誰かに課金しそうになっている今日この頃であります。とはいえ、不景気な世の中で御座いましょう? そうそう財布の紐も緩められないってんで、もうガッチンガッチンに結び目を締めに締めて、いざという時に取り出せなくなっちゃったもんだから、最近はすっかりカードでリボ払いの毎日です。元も子もない。下らないことばかり言い続けておりますが、なにせ世の中が薄暗いものですから、こういう場末のブログぐらいは陽気に明るく盛り上がっていこうじゃないって思ったり思わなかったりしているわけです。嘘だけど。

ってなわけで七月ですが、今のところは爆笑問題の漫才DVDだけしか予定がないようです。困ったもんだ。別に困りはしないけど。色んなライブが中止になっているので、もうこの事態は想定の範囲内なのですが、それにしたって寂しいじゃああーりませんか。なので、各社には不出の映像素材を敢えて今になって出すという暴挙に出てもらいたいところなのですが、どうですか。過去には、あくまでも事務所の記録用映像として撮影された、よゐこのベストライブやドランクドラゴンの単独ライブがソフト化された事例もありますので、ここは思い切って秘蔵映像で予算を償却するというのは如何で御座いましょうか。まあ、それはそれで、権利関係とかややこしそうですけども。

ちなみに八月は、小林賢太郎あれが出ます。