白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

2020年1月の視聴記録

■1月21日。新年を迎えてから、まだ一度も芸人のネタDVDを視聴していないことに気付き、何かを観ねばならぬという衝動に駆られる。自分の中で色々と候補は挙がったが、一応は新年の一発目ということで、それに相応しい作品をと思い、カジャラの最新公演を収録した作品を鑑賞する。

2019年2月から4月にかけて行われた公演を収録。ラーメンズ小林賢太郎が作・演出・出演を担当するコントユニット、それがカジャラだ。キャストを固定していないため、常に多種多様な面々によるパフォーマンスを楽しめるライブとなっている。今回のメンバーは、なだぎ武竹井亮介小林健一、加藤啓、辻本耕志、そして小林賢太郎。竹井と辻本は皆勤賞、小林健一は前回に引き続いて二度目の出演である。それぞれの出演者に見せ場があるのだが、それでもやはりなだぎ武の活躍ぶりは特筆に値する。なにせ基本的な動きにクセがある。他の出演者が同じ時間軸の中で生きているのだとしたら、なだぎは1.3倍速の世界で生きているように見える。ちょうど笑える滑らかなスピード感。そんななだぎに押されてはいたものの、同じく初の出演となった加藤啓もなかなかの活躍。整った顔立ちの彼が働かない男に扮した『在宅超人スウェットマン』は本作を代表するキャラクターといっても過言ではない。次の公演にも期待が高まる。(124分)

■1月23日。何もやる気は起きないが『Aマッソのゲラニチョビ』のDVDを観る。

Aマッソのゲラニチョビ マジカル・オオギリー・ツアー〜ディレクターズカット版〜 [DVD]

Aマッソのゲラニチョビ マジカル・オオギリー・ツアー〜ディレクターズカット版〜 [DVD]

  • 出版社/メーカー: SMM itaku(DVD)(SNDDP)
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: DVD
 

静岡朝日テレビが開局したインターネットテレビ局“SunSetTV”にて配信されているAマッソの冠番組『Aマッソのゲラニチョビ』で行われた企画『マジカル・オオギリ・ツアー』を収録。Aマッソの二人が大喜利に回答、スタッフが合否を判定し、合格であれば500円が支給されるという設定の元、静岡の観光名所を一泊二日で巡る様子が撮影されている。一見、なかなか厳しい企画のように見えるが、何故か大喜利のお題を用意するのは村上だし、スタッフの判定基準はガバガバだし、随所で良い意味での雑さが浮き彫りになっている。それ故に、本編の映像からはまるで緊張感が感じられない。ただ、Aマッソの二人が追い詰められている空気はひしひしと感じられ、「あんなにも挑発的な芸風のAマッソが追い込まれてる!」という状況で笑ってしまう。結果、Aマッソの発想以外の部分でも魅力が溢れ出ていて、とても面白かった。それにしてもロケの村上は些か自由過ぎるのではあるまいか。(95分)

■1月26日。なんか知らんが、かが屋のDVDを観る。

カロ [DVD]

カロ [DVD]

  • 出版社/メーカー: SMM itaku(DVD)(SNDDP)
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: DVD
 

お笑い第七世代のコント部門を牽引する若手コンビ、かが屋が自身で選んだ十本のコントを収録しているベスト盤。事前にスタジオ収録と伺っていたので、あまり観る気が起きなかったのだが(ワタシは無機質なスタジオで芸人のネタを収録する映像が大嫌いなのである)、かが屋の洗練されたコントの場合、むしろこの状態での収録に適しているように思えた。母親にドッキリを仕掛ける計画を練る『サプライズ』、合唱コンクールで何故か加賀が過剰に評価される『合唱』、自分の自転車の前でカップルが揉めていて近寄り難い『自転車』など、テレビで観た記憶のあるコントがきちんと押さえられている。キングオブコント決勝の舞台で披露された『花束』もしっかり収録。ただセットがかなり簡素化されてしまったため、ちょっと地味に見えたかも。いずれのコントも面白かったが、オーラスのコント『田舎の家族』があまりにも底意地の悪いネタで大笑い。「人を傷つけない笑い」の筆頭であるかのように語られがちなコンビの、本当の側面を見せつけられたような気がした。ちなみに、パッケージには「本編 48分」と書かれていたが、実際の本編時間は一時間以上だった。ご注意。

■1月27日、そういえば面白いと薦められていた、うしろシティのDVDを観る。

うしろシティ単独ライブ「人生に、エクスカリバーを。」 [DVD]

うしろシティ単独ライブ「人生に、エクスカリバーを。」 [DVD]

  • 出版社/メーカー: SMM itaku(DVD)(SNDDP)
  • 発売日: 2019/11/27
  • メディア: DVD
 

2019年6月から8月にかけて行われた単独ライブを収録。Twitterでフォローしていただいている方から「今回のうしろシティは面白かったです!」と事前に言われていたので、かなり期待した状態で観賞したのだけれど、今回もあまりときめかず。面白くないわけではない。面白いことをやっているというのは伝わってくる。ただ、単純にときめかない。もうちょっと明確に書くなら、これらのコントをうしろシティが演じなくてはならない意義を感じない。良くも悪くも器用にこなしているために、うしろシティというコンビの根幹に触れるようなネタが見られない。強いていえば、ライブの終盤で披露された『寿司屋のサービス』と『カードバトル』が、それなりにうしろシティの視点っぽかったような気がする。特に『寿司屋のサービス』は、人間の無意識に生じているシステムをシニカルに切り取ったようなコントで、あの往年の名作『寿司屋』を彷彿とさせた。うしろシティと寿司屋は相性が良い。

明けて1月28日、特典映像『エクスカリバー的スイカ割り旅』を鑑賞。ライブの幕間に流された映像の完全版とのこと。スカイツリーにいるうしろシティが、どちらかが目隠しして、残ったどちらかが声で指示を出して、お台場の砂浜に置かれたスイカの元へと向かう……という企画が行われている。これがなかなか良かった。阿諏訪が目隠しをして、金子が指示を出すことになったのだが、とにかく金子がフザケ倒し、阿諏訪を翻弄するのである。その姿があまりにも悪童で、面白かった。この感じがコントでも出せるといいのだけれども。(本編72分+特典22分)

■1月30日。今年リリースの作品も観なくてはと、まんじゅう大帝国を観る。

詰め合わせ [DVD]

詰め合わせ [DVD]

  • 出版社/メーカー: SMM itaku(DVD)(SNDDP)
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: DVD
 

タイタンに所属する若手漫才師、まんじゅう大帝国が自身で選んだ十本の漫才を収録したベスト盤。こちらも無機質なスタジオで収録されているが、漫才の世界観が出来上がってしまっているためなのか、それほど違和感はない。ドアのインターホンの音を聴いて「クイズの正解したのでは?」と勘違いするくだりで幕を開ける『ピンポン』、楽に売れるために自分で自分のものまね芸人になって売れようと思うなどと戯言をヌかす『ものまね』、挨拶に行くたびに何度も何度も娘を嫁に出してしまう不条理さがたまらない『結婚の挨拶』など、過去に観て衝撃を受けたネタがおよそ全て収録されている。とても嬉しい。ただ、本作で初めて目にしたネタは、どこか考えすぎているような印象を与え、先述のネタのようなバカバカしさが弱まっているように思えた。面白いネタを作り続けることの難しさをしみじみと。とはいえ、まだ結成から三年ほどしか経っていないコンビなので、まだまだこれからだろう。その進化を見逃さないように気を付けていきたい。(47分)

2020年2月の入荷予定

5日「bananaman live S

どうも、未だに『M-1グランプリ2019』の感想文を書き終えていないくせに、“お笑い評論家”などと名乗っているすが家しのぶです。烏滸がましいことは承知の上で、肩書による旨味を頂戴しようという姑息な姿勢を見せているわけですが、今のところ、「お笑い評論家のくせに」「お笑い評論家とか(笑)」みたいなことを言われるだけで、痛手しか被っておりません。でも、逆に燃えませんか。

そんなことより二月の入荷予定ですが、なんとも閑散たる状況に陥っております。一枚だけです。一枚。寂しいじゃありませんか。ここ数年の状況を見ても、なかなか珍しい状況です。もっとも、昨年二月にソフトをリリースしたKAJALLAは昨年十二月に、ハナコも十二月に、エレ片は今年一月に、それぞれライブDVDをリリースしているので、その辺りのズレ込みの結果なんですけどね。そういえば去年はジャルジャルが単独ライブをDVD化していましたが、今年はどうなるのでしょうね。……って、話がズレてきましたが。

唯一のリリースはバナナマン。これで何枚目になるかも分からない(調べれば分かるんだけれど調べるのは面倒臭い)単独ライブのソフト化であります。タイトルがシンプルで良いですね。設楽のSなのか、サディストのSなのか、サイズのSなのか、由来はよく分かりませんが、『ペポカボチャ』『疾風の乱痴気』『Love is Gold』といった過去公演のタイトルを思うと、なにやら妙な覇気を感じさせます。パッケージもクールで格好良いですね。スーツ姿のコント師は、漫才師とはまた違った渋みがあります。いいねえ。

「M-1グランプリ2019」ニューヨーク、かまいたち(一本目)、和牛(2019年12月22日)

■『M-1グランプリ2019』の感想が書けないまま、一月が終わろうとしている。当時、リアルタイムで見られなかったことが、気持ちが盛り上がらない理由になってしまっているようだ。このままだと、春が過ぎても夏が訪れても何も書けずに終わってしまいそうなので、今年はかなりざっくりと感想を書いてしまうことにした。何も書かずに終わるよりはマシだろう。たぶん。■司会はお馴染み今田耕司上戸彩。年々、確実に年齢を重ねている筈の上戸は、それなのに今年もしっかりとキュート。もはや彼女の代表作は『金八先生』でも『あずみ』でもなく『M-1グランプリ』といっても過言ではない。■笑神籤の引き手はラグビーワールドカップ2019日本代表(堀江翔太、福岡堅樹、稲垣啓太)の三名。こういう話題の人を投入しても見劣りしないところに『M-1グランプリ』という大会の威厳を感じずにいられない。■審査員は昨年と同様、オール巨人塙宣之(ナイツ)、立川志らく富澤たけしサンドウィッチマン)、中川礼二中川家)、松本人志上沼恵美子が任命。昨年、色々と物議を醸した審査員だが、全体のバランスとしては悪くないので個人的には有り難い。ただ、今年は志らく師のコメントがやや控えめになっていたために上沼先生の独壇場となっていて、そこはもうちょっと落ち着いてもらいたかった気もしないでもない。面白かったけど。■トップバッターはニューヨーク。嶋佐のオリジナルの『ラブソング』に対して屋敷がツッコミを入れるスタイル。基準点で終わってしまいがちな一番手という立場であることを思えば、きちんと記憶に残るインパクトの強いネタを持ってこられた点は評価できる。ただ、漫才ならではの掛け合いによる面白味を敢えて捨てるという賭けに出たにもかかわらず、突出して秀でている部分がこれといって見当たらなかったのは残念でならない。歌ネタならではの手堅く形式を崩していく構成を経ておきながら、最終的に“長渕剛”“Foorin”“米津玄師”というベタな有名人ネタの連発で落ち着いてしまうとは。動き重視のボケで画に変化を加えることに期待を寄せていたのだろうが、そのために却って屋敷のツッコミを制限してしまったように見えた。■二番手のかまいたちは『USJ』。本来は最終決戦で披露する予定のネタだったのだが、早い段階で順番が回ってきてしまったので、此方を先に演ることにしたと聞いている。確かに、一本目が『トトロ』だったとしたら、彼らは最終決戦に駒を進めることは出来なかったかもしれない。「USJUFJと言い間違えてしまった山内が、それを濱家に指摘されたにもかかわらず、延々と間違えを認めようとしない」という内容の言い争いが、形を変えながら延々と繰り返されていく。この形の変え様が凄まじい。単なる押し問答を見せつけているだけなのに、まるで飽きさせない。とりわけ、濱家が大きな身体で舞台全体を動き回りながら、観客に自らの無実を訴えかけるくだりが珠玉。ニューヨークに必要だったのは、これぐらいの画の変化だ。また、ここから山内が、濱家の言動はおろか存在すらも無視し始める展開も見事。下手するとコントの色合いが強くなりすぎてしまうところを、絶妙な間で「クスリやってんのか?」と自らの言動を棚に上げたボケをぶち込みオチをつけてしまうことで、漫才の掛け合いへとギリギリのところで引き戻している。このダイナミックなやり取りの後に、あのややこしい言い回しで混乱させられるくだりを持ってくるところも計算高い。動的から静的へ。このメリハリの良さ。■三番手は敗者復活枠。今年は誰が敗者復活なのかを順番が回ってくるまで公開しないルール。おかげで発表までにフラストレーションが溜まってしまうのではないかと心配していたのだが、このタイミングならばさして問題はないだろう。■大方の予想通り、敗者復活枠に入ったのは和牛。ネタは『物件の下見』。水田演じる不動産屋が川西にオススメの物件を次々に案内する。アンタッチャブルサンドウィッチマンパンクブーブーなどのように、漫才の中でコントを演じるスタイルの漫才師は数多く存在するが、その多くはコントのキャラクターたちは会話のみで場面を成立させている。対して和牛の漫才コントはあっちこっちに動き回る。今回のネタでも、物件を出入りするたびに入口を出たり入ったりと忙しい。それでも漫才らしさを見失わないのは、漫才特有のリズム感を崩すことなく、センターマイクから離れすぎず、しっかりと漫才のアイデンティティを見失わずに演じ切っているためだろう。そんな動き回っている見た目に対して、ネタの構成はかなり堅め。一件目、二件目、三件目と「内見した物件に人が住んでいる」ことを軸としたボケを発展させていき、最後の物件でツッコミである筈の川西の視点が「人が絶対に住まない(住めない)ような物件をむしろ好意的に受け取ってしまう」へとズレてしまう展開に持っていく。この丁寧に丁寧に積み重ねられて、最後にしっかりと爆発する構成がニューヨークの漫才にあれば……(しつこい)。ただ、昨年の『ゾンビ』に比べると、やや大衆向けの分かりやすい方向へ向かってしまったようにも思えて、そういった昨年との比較の点でかまいたちとの差がついてしまった気がしないでもない。■この時点で、順位は「1位:かまいたち(660点)」「2位:和牛(652点)」「3位:ニューヨーク(616点)」と、序盤で決勝常連組が高得点を叩き出す展開に。結果、初の決勝進出組が、実力のある常連に立ち向かう構図になったように思う。上手く出来上がったなあ。■続きます。

「新春生放送! 東西笑いの殿堂2020」(2020年1月3日)

NHK放送センター】
トレンディエンジェル「斎藤さんから勉強を教わる」
尼神インター「村一番の美女・誠子を生け贄に」
モンスターエンジン「息子に相撲を説明する」
まんじゅう大帝国「怖い話」
ザ・ぼんち「テニスのダブルス・シングルス」

なんばグランド花月
和牛「北風と太陽、赤ずきんちゃん」
西川のりお・上方よしお「社会問題漫才」
桂文珍「老人とミミ」

NHK放送センター】
ますだおかだ「岡田の離婚、再婚」
海原はるか・かなた「昔のネタを思い返す」
立川談笑「堀の内」
江戸家小猫「動物ものまね」

浅草演芸ホール
ロケット団脳トレ、スポーツ、」
三増紋之助「曲独楽」
春風亭一朝「芝居の喧嘩」

NHK放送センター】
新人お笑い大賞:ラフレクラン「コント:彼女から電話」
新人落語大賞:桂華紋「ふぐ鍋」

(ニュースによる中断)

NHK放送センター】
三四郎「小さいおじさんを見た」
タイムマシーン3号「オリジナルの学園アニメ」
桂米團治「正月丁稚」

【新宿末広亭
神田松之丞「鮫講釈」
春風亭昇太「長命」

NHK放送センター】
ナイツ「名言を忠実に」
テンダラー「一人焼き肉」

【心斎橋角座】
アルミカン「水族館デート」
チキチキジョニー「たこ焼きvsお好み焼き」
なすなかにし「教育番組のマスコットキャラクター」
酒井くにお・とおる「健康法」
横山ひろし春けいこ「感謝の手紙」

NHK放送センター】
中川家「路上教習」
爆笑問題紅白歌合戦煽り運転オレオレ詐欺電子マネー、新紙幣」
おぼん・こぼん「インチキ漫才(タップダンス、トランペット)」
オール阪神・巨人「家電」

『新春生放送! 東西笑いの殿堂2020』を見た。『爆笑ヒットパレード』『新春!お笑い名人寄席』とともに、正月を代表する演芸番組の一つである。その名の通り、東軍と西軍に分かれて、多種多様の演芸で競い合う。総合司会で東軍のキャプテンは爆笑問題、西軍のキャプテンは中川家が務める。中川家爆笑問題よりも四年ほど結成が遅いのだが、貫禄という点ではすっかり追いついているように見える。アシスタントに赤木野々花アナウンサー。

モンスターエンジンM-1の予選でも演じていた『相撲の説明』を披露。嬉しい。息子に相撲を説明する……という設定も渋いが、子どもの素朴な行為を面倒臭がっている西森の姿も渋い。如何にも中年といった貫禄を漂わせていて、ひたすらに味わい深い。ただネタが面白いだけではなく、人間としての説得力が滲み出てきている。面白かった。

昨年、急病に見舞われた立川談笑師匠は『堀の内』。ネタの内容があまり伝わらなかったのか、客の反応はあまり芳しくはなかったが、とても面白かった。

新宿末広亭での神田松之丞は、講談ではなく古典落語『鮫講釈』を披露。笑いどころが多く、トーンは軽妙なのに語り口は重厚というギャップも楽しかった。講談をより身近に感じさせられる活動、今後も頑張っていただきたい。続く春風亭昇太師匠は『長命』。こちらはひたすらに軽やかに笑わせる。芸風はまったく違えど、どちらもスゴい。

今や東京を代表する漫才師となりつつあるナイツは『名言』をテーマにした漫才。様々な偉人たちが名言を残した瞬間を忠実に再現するのだが、どれもこれも偉人たちのなんとなーくのイメージだけで再現しているため、結果として名言の空想性を引き出しているように見えて、まったく痛快だった。

観客投票の結果、今回は引き分け。何の意味が。

三度目の『うるう』日。(2020年1月18日・19日)

ゼロ年代を代表するコントグループ、ラーメンズ。その芸術的とも称された数々のコントの台本を手掛けてきた小林賢太郎が、二〇一一年から上演し続けている舞台がある。タイトルは『うるう』。作・演出・出演を小林が一人で担当している意欲作だ。『うるう』は過去に二度ほど上演されている。一度目は二〇一一年から二〇一二年にかけて、全国七都市で行われた。二度目は二〇一五年から二〇一六年にかけて、全国九都市で行われた。……そう。『うるう』はその名の通り、常にうるう年に行われているのである。そして二〇二〇年、三度目のうるう年とともに、三度目の『うるう』が開催されることになった。

……と、このような情報を知識としては認識していたワタシだったのだが、実際の公演を観に行ったことは一度もなかった。何故ならば、いずれソフト化されるだろうと踏んでいたからだ。過去、小林賢太郎が作・演出を担当している舞台公演は、ラーメンズの本公演・演劇公演・ソロ公演“ポツネン”を問わず、その多くがDVDないしBlu-rayとして映像化されてきた。そして、いずれは『うるう』も、同じ道を辿ることになるだろうと思い込んでいたのである。ところが、一度目の『うるう』が終わっても、二度目の『うるう』が終わっても、そういった話はまったく耳にしなかった。やがてワタシは頭の中で一つの推論へと考え至る。「あれ? これソフト化されねーんじゃねーか?」。こうなると能天気に待ち構えている場合ではない。いつまでもあると思うな親と推し、という言葉もある。ワタシはすぐさま三度目の『うるう』公演のチケットを入手したのであった。地元から近い会場には広島と大阪があったが、大阪は日頃から遊びに行くことも多かったので、今回は広島公演のチケットを購入した。

そして迎えた公演当日の朝。ワタシは父に車で最寄り駅まで送ってもらい、ホームで特急列車を待っていた。普段から当ブログを読んでいただいている方ならば不思議に思うかもしれない。ワタシはいつもなら高速バスを利用しているからだ。その方が安いし、乗り換えの不便もない。だが、この日は些か、事情が違った。母が同行していたのである。実は母もきってのラーメンズ(ないし小林賢太郎)好きで、以前から公演を観に行きたいと話していたのである。故に、母の心身に過度の負担がかからないよう、今回は高速バスではなく新幹線を、カプセルホテルではなくビジネスホテルを利用することになってしまった。予算が……。

午前九時、最寄り駅を特急列車しおかぜで出発。岡山駅で新幹線に乗り換え、広島駅へとひた走る。二時間後の午前十一時ごろ、広島駅に到着。着替えなどを入れたキャリーバッグをコインロッカーに預けて、まずは腹ごしらえだ。広島駅ビル・アッセ内にある『お好み焼き ねぎ庵 アッセ店』にて、大量の大葉を乗せた「大葉スペシャル」を食べる。お好み焼きの濃いい味付けの後に、ふわっと大葉の香りが残って、とても美味しかった。底に敷かれた焼きそばもパリパリで食感が楽しい。

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食後、少し駅周辺をぶらついてから、路面電車に乗り込み原爆ドーム前へ。まだ時間に余裕があったので、平和記念公園を抜けて、今回の会場であるJMSアステールプラザを目指そうという算段だ。ワタシは広島の大学を卒業しているのだが、在学中に平和記念公園を訪れることはなかったので、目に飛び込んでくる景色がどれも新鮮で美しく映った。それでも高校生ぐらいの頃に、学校の行事で一度訪れている筈なのだが……やはり、こういう場所には、それなりに年を取ってから訪れた方が良さが理解できるようだ。午後一時ごろ、JMSアステールプラザに到着。しかし、何故か入り口には、「夏川りみコンサート」と書かれた看板が。さては日程を勘違いしていたのか。慌てて確認してみたところ、どうやら施設内には二つのホールが存在し、大ホールでは夏川りみコンサートが、中ホールでは『うるう』が行われるようだった。ほっと胸をなでおろす。

施設の中に入ると、中ホールの入り口で早くもチケットがもぎられていたので、すぐさま我々も突入する。すると、そこには物販コーナーへと連なる長い行列が。どうやら物販コーナーのあるロビーだけが開放されているらしい。無論、我々も並ぶ。コーナーの手前にサンプルが置いてあったので手に取ってマジマジと眺めていると、列に並んでいないカップルが反対側からサンプルだけを物色し始めたので、久しぶりに殺意が芽生える。図々しいにもほどがある。Tシャツ、木製しおり、カジャラ公演のDVD・Blu-rayなどが売られている中、『うるう』公演をモチーフとした絵本とノートを購入する。絵本は一般の書店でも取り扱っているけれど、いい機会なので買ってしまった。

うるうのもり

うるうのもり

 

午後一時半、客席が解放されたので中へ。一目見て、その狭さに驚く。客席に入った途端、かなり近いところにステージがあるように見えるのである。我々の座席は最後尾だったが、それでもまったく距離を感じなかった。ただ、椅子の質があまり良くなくて、ちょっと座り心地が悪いように感じられた。公演が終わるまで、ワタシの尻は無事でいられるだろうか……。

午後二時開演。午後四時終演。

話の舞台は日本の何処かの森の中。他人と関わりを持たずに一人で生きているヨイチと、彼と偶然出会った少年の物語である。恐らく、四年後も、八年後も、この舞台は上演され続けるだろうから、ここで細かいことを書いてしまうとネタバレになってしまうので触れないが、社会に上手く馴染めない人、孤独を感じながら生きている人ならば、少なからぬ何かを感じてしまう舞台だった。恐らく、最初の公演が行われた当時よりも、今の方が突き刺さるものがある人が多いのではないだろうか。それほどに今、社会は孤独に苛まれている。

終演後、再び路面電車に乗り込み、広島駅へと舞い戻る。コインロッカーに預けた荷物を回収し、今宵の宿である東横イン広島駅前大橋南へ。チェックインを済ませ、部屋に荷物を置いて、再び外へ。広島駅から歩いて数分のところにあるフルフォーカスビルの六階にある「駅前ひろば」へ向かい、事前にチェックしていたお好み焼き屋『お玉のキャベツ 駅前ひろば店』へ。生中と牡蠣を投入したお好み焼き「ザ・みやじま」を注文し、飲み食いする。牡蠣が美味い。とにかく美味い。牡蠣の苦味がキュッと締まっていて、それが酒とよく合う。

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食後、もう一軒ハシゴしてみようという話になり、同じ階層にある『電光石火』へ。オススメの「夢(海鮮系)」を注文し、食べる。しかし、そこそこに呑んでいたこともあってか、味の方はあまり分からず。また、お店の看板メニューである「電光石火」を頼まなかったのも、良くなかったように思う。その真価は次回で感じ取りたい。

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すっかり満腹になった我々は、それから再びホテルへと戻る。ここで母と別れ、ワタシは再び広島の街中へ。久しぶりにやってきた広島の街を散策するとともに、母と一緒だとなかなか行けなさそうな店を巡ろうという考えである。路面電車に乗って、原爆ドーム手前の紙屋町で降りる。それから『メロンブックス』『フタバ図書』『ブックオフ』などを歩いて回るが、これといった収穫はなし。何か面白いものがあればと思っていたのだが……今回は運の巡り合わせが良くないらしい。これといった収穫のないまま、広島駅へととんぼ返り。途中、セブンイレブンで酒とツマミを買い込み、午後九時を過ぎた頃にホテルへ戻る。霜降り明星が一日に一度のペースで配信している動画チャンネル『しもふりチューブ』を見ながら飲み食い。最近、DVDよりも、YouTubeの動画配信をチェックする回数が増えてきた。とりわけ『しもふりチューブ』はユルめの内容と動画時間、そしてなによりポップな編集が絶妙で、ついつい見てしまう。真面目にネタ動画を配信するよりも、こういう遊び要素の強い映像の方が今の時代には合っているのかもしれない。適当に風呂に入って、午前一時ごろ就寝。

翌日、午前八時ごろ起床。諸々の用意を済ませて午前九時ごろチェックアウト。広島駅まで移動し、駅ビルの中にある喫茶店UCCカフェプラザ 広島アッセ店』にてモーニングを注文。レタスと目玉焼きを挟んだサンドウィッチを食べようとするも、黄身をこぼしてしまう。黄身の名は。

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午前十時、広島駅前にある蔦屋家電へ。ワタシが大学に通っていた頃、ここには怪しげな雑居ビルが建っていた。当時はこのイカガワシサこそ美しいと感じていたので、それが失われて、整然とした施設になってしまったことは、実際に暮らしている人たちには良いのだろうが、些か寂しいものもある。事実、我々は蔦屋家電を随分と楽しんだ。よくよく見ると、あくまでも大衆向けに用意された見せかけのオシャレ空間なのだが、田舎者にとってはそれでも有難みを感じてしまう。午前十一時半、『あじよしアッセ駅ビル店』にて昼食。カキフライ丼を食べる。ややボリュームに物足りなさを感じたが、なかなか美味しかった。次回は蕎麦も合わせて食べようと思う。

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食後、一階のお土産物売り場へ移動、家族や会社の同僚へ買って帰るためのお土産品を探し回る。ここはやはり、もみじ饅頭がよろしいようで。ついでに夕飯用の駅弁も買う。午後十二時半、広島駅を出発。岡山駅で乗り換えて、午後二時半ごろ地元の最寄り駅に到着。午後三時、帰宅。

こちらからは以上。お疲れさまでした。

「新春!お笑い名人寄席」(2020年1月2日)

新宿カウボーイ『審判』
ロケット団『健康に気を付けて』
 ナイツによる次の二組の紹介
母心『歌舞伎に新しい要素を取り入れる』
おぼんこぼん『家庭に歌を』
林家三平『落語:源平盛衰記
神田松之丞『講談:源平盛衰記「扇の的」』
ナイツ『闇営業、五輪招致、薬物、新しいツッコミ』
U字工事高校野球のOB会にインタビュー』
三四郎『モテたくて芸人になったのに……』
カミナリ『高校時代』
ダチョウ倶楽部『ゲームセンターみたいな靴屋さん』
クールポコ。×三四郎×カミナリ×磯山さやか×ダチョウ倶楽部
テツandトモ×阿佐ヶ谷姉妹×ナイツ×おぼんこぼん
春風亭小朝司会による美女大喜利
春風亭ぴっかり☆・大場美奈磯山さやか朝日奈央Mr.シャチホコ
阿佐ヶ谷姉妹『桃おばさん』
マギー司郎×マギー奈央(朝日奈央)『手品』
 ケーシー高峰の秘蔵映像集
林家木久扇『彦六伝』
爆笑問題『除夜の鐘にクレーム、モンスターペアレンツ、AI美空ひばり

司会に東貴博、角谷暁子(テレビ東京アナウンサー)。ゲストに朝日奈央磯山さやか大場美奈SKE48)。浅草演芸ホールから中継という形式を取っているのだから、最後まで寄席演芸の世界でお送りすればいいのに、明らかに打ち合わせ不足なコラボネタ、何処に需要があるのかよく分からない大喜利など、テキトーな企画をめでたい空気で上手く乗り切っている(ように見えなくもないこともない)時間がチラホラと。とはいえ、北朝鮮ネタを連発したロケット団、トム・ブラウンのフォーマットで薬物使用芸能人の名前を連呼したナイツ、年末の話題をギュッと凝縮した爆笑問題の漫才を観られたのは嬉しかった。また、テツandトモの『なんでだろう』に載せて、おぼんこぼんの不仲ネタをイジる流れの中で、サラッとtake2の不仲疑惑についてイジッた塙は見事だった。

ただ、一番笑ったのは、林家三平と神田松之丞が落語にも講談にもある演目『源平盛衰記』をリレー形式で披露するという構成。片や『笑点』にまるでハマらない落語家、片やバリバリ人気うなぎ登りの講談師。そんな二人を同じネタで繋げるとは。悪意しか感じられない。そして予感は的中。前半を担当した三平師匠は見事に台詞を噛みまくり。それも、いつもの口調で噛んだのであれば見逃せるところを、きちんと言葉を聴かせるトーンで喋っていたものだから、ただただしっかりと躓いているところを見せつける形に。話の内容も林家の内輪ネタが多く、とてつもなく厳しい。そんな体たらくの後に登場した神田松之丞、この空気をどうするのかと眺めていたら……。

「今の三平師匠の『源平盛衰記』が、令和最高峰の芸でございます」
 (客の大爆笑)
「……なんか、非常にヤな笑いを取ってしまいましたが……」
 (客の大爆笑)
「大好きなんですよ。三平師匠ね。あれ、『源平』ってのは謂れがありましてね。今の三平師匠のおじいさんから始まってるんですよ。七代目の林家正蔵師匠。で、先代のね、面白かった三平師匠の方……」
 (客の大爆笑)

流石でございました。

「売れっ子が推す!今年くる芸人 お笑い推して参る!」(2020年1月1日)

ミルクボーイ『漫才:コーンフレーク』(西川きよし推薦)
かまいたち『漫才:トトロ』(千鳥推薦)
見取り図『漫才:相方の見た目』(千鳥推薦)
ジェラードン『コント:夜のオフィス』(ハリセンボン推薦)
うるとらブギーズ『コント:マリリンモンローゲーム』(次長課長河本推薦)
EXIT『漫才:レストランでプロポーズ』(ミキ推薦)
オズワルド『漫才:友達ちょうだい』(とろサーモン久保田推薦)
すゑひろがりず『漫才:トトロ』(友近推薦)
空気階段『コント:未来から来た自分』(ハリセンボン推薦)
チョコレートプラネット『コント:亀を助けて…』(麒麟川島推薦)
3時のヒロイン『漫才:朝ドラ』(次長課長河本推薦)
からし蓮根『漫才:友達作り』(千鳥推薦)
インディアンス『漫才:学校の怪談』(笑い飯推薦)
そいつどいつ『コント:魂の授業』(霜降り明星推薦)
やさしいズ『コント:オリジナルソング』(ハリセンボン推薦)
銀シャリ『漫才:森のくまさん』(西川きよし推薦)
トレンディエンジェル『漫才:コンサート』(EXIT推薦)
笑い飯『漫才:蚊』(西川きよし推薦)
ライス『コント:100の顔を持つ男』(FUJIWARA藤本推薦)
佐久間一行『茶色の魅力』(麒麟川島推薦)
ななまがり『コント:違いが分かる男』(千鳥推薦)
おいでやす小田『コント:勝ち組』(霜降り明星推薦)
三浦マイルド『どちらからも聞こえてきそう』(霜降り明星推薦)
ミキ『漫才:東京オリンピック』(ゆりやんレトリィバァ推薦)
プラス・マイナス『漫才:大河の名シーン』(NON STYLE石田推薦)
ダイアン『漫才:職務質問』(千鳥推薦)
2丁拳銃『漫才:金持ち』(野性爆弾くっきー!推薦)
相席スタート『漫才:浮気する男』(レイザーラモンRG推薦)
とろサーモン『漫才:怖い話』(次長課長河本推薦)
マヂカルラブリー『漫才:運動神経が悪い』(東野幸治推薦)
ゆったり感『漫才:叱る教師』(パンクブーブー佐藤推薦)
漫才小爺『漫才:中国語』(西川きよし推薦)
ビスケットブラザーズ『漫才:高級旅館』(麒麟川島推薦)
544 6th ave『ダンスパフォーマンス』(ロバート秋山推薦)
大木こだまひびき『漫才』(博多華丸・大吉推薦)
西川のりお・上方よしお『漫才』(笑い飯推薦)
スーパーマラドーナ『漫才:業界用語』(中田カウス推薦)
中田カウス×スーパーマラドーナによる本音トーク

総合司会にフットボールアワー、アシスタントに池谷実悠(テレビ東京アナウンサー)。年明け直後の午前2時20分~午前5時30分に放送された。「売れっ子芸人が2020年にブレイクしそうな芸人を推薦する」というコンセプトだが、東野がVTRの中で「他に推薦する芸人がいなかったからマヂカルラブリーの推薦を引き受けた」という旨のことを語っていたので、先に決められたメンバーの中から推薦人がチョイスする形式を取っていたのではないかと思われる(ちょっとガチっぽいチョイスも見られるけれど)。

あまり視聴率の期待できなさそうな時間帯にも関わらず、メンバーはかなり手堅い。M-1ファイナリストにKOCファイナリスト、THE W女王など、2019年の賞レースを彩った猛者たちが次々に登場している。その一方で、既に実力が認められている、銀シャリトレンディエンジェル、ダイアン、2丁拳銃といった実力派も。それでいて、テレビではあまり見ることのないライス、佐久間一行、ななまがり、おいでやす小田、三浦マイルドが突如としてぶち込まれている時間帯もあり、なかなか良いバランスの演芸番組だったのではないかと。余程のお笑い好きが香盤を考えたのだろう。しかし、何故か最後は、突如として謎の重鎮オーラを放ちながら登場した中田カウスが、氏の推薦するスーパーマラドーナトークを繰り広げるコーナーで〆。新年早々、力を見せつけたかったのかもしれないが、おかげでなにやら不穏な空気を漂わせながら番組が終わってしまった。どういうつもりなんだか。

印象に残っているのは、淡々とヤバい掛け合いが繰り広げられるオズワルド、『となりのトトロ』の世界を伝統芸能の語り口で再現したすゑひろがりず、鈴木もぐらのパーソナルな部分をSF的世界観に落とし込んだ空気階段、アホな恋人のことが好きで好きでしょうがないヤンキー風の男のやり取りがたまらなかったやさしいズ、簡単な変装をまったく見破れない警部に嫌気がさした怪盗が可笑しかったライス、マイルドにしている筈なのに濃厚な後味が残り続けるななまがり……あたり。特に、やさしいズのコントは素晴らしかった。あんなに愛おしい空気で笑いが起こるとは。来年、もうちょっと見る機会が増えるといいな。

「爆笑問題の検索ちゃん 芸人ちゃんネタ祭り 第7世代をぶっ潰せ!SP」(2019年12月20日)

EXIT「漫才:お笑いの用語やテクニック」
オードリー「漫才:イタコ」
四千頭身「漫才:動物園の遠足と遊園地の遠足」
東京03「コント:開店祝い」
宮下草薙「漫才:ボディビルダー
ナイツ「漫才:演技」
かが屋「コント:タイプ」
友近「ヒール講談」
トム・ブラウン「漫才:盗撮の撃退法」
東×土田×古坂大魔王「四千万円(四千頭身のパロディ)」
霜降り明星「漫才:ボクシング」
爆笑問題「漫才:沢尻エリカ、金原会長と『テラスハウス』、令和ベイビー、アナ雪2、ジャニーズのYouTube解禁」

既に多くの方が語っているように、友近の『ヒール講談』が圧巻。“ヒール”と“講談”という2019年を代表する二つのワードを組み合わせておきながら、まったく批評性を含ませず、正々堂々としかし客観的視点を保ちながらオリジナルの講談を披露するという凄味。内容も友近という芸人の源流を辿るもので、深みがある。その肉体的表現に徹したシンプルなパフォーマンスに、笑いも忘れてただただ唖然としてしまった。しかし、この直後に、トム・ブラウンが盗撮犯を撃退する方法を紹介すると称し、徹底してフザケにフザケ倒した漫才を繰り広げていて、完全に脱力してしまった。此方もまた圧巻の出来映え。霜降り明星トークを潰しにかかっていたのもたまらなかった。恐るべし。

しかし、一番衝撃を受けたのは、爆笑問題の漫才のとある場面。平成から令和に変わる瞬間、日を跨いで双子が生まれたという話から……。

太田「双子で“平成生まれ”と“令和生まれ”! こういう子がいるんですよ」
田中「へぇー!」
太田「これが大人になったら、平成生まれなんかたまごっちやってると「古いなぁー」って……」
田中「ちょっと待って、そうじゃない! そういうことにはならない!」
太田「「やっぱ平成だなぁ、お前は! たまごっちなんかやんないよ今時! 俺なんか、もう“コレ”だもんなあ……」」
田中「何してんだよ! なんだよ“コレ”は!」
太田「先のことだから、情報がわかんない! 何か!」

この「令和生まれが大人になる頃には何が流行っているか分からない」ことがボケになるという発想には、思わず舌を巻いた。ナンセンスのように見えて、真理であり、そして何故か先の未来に対する希望のようなものも感じてしまう。まさしく令和元年の年末に披露するに相応しい漫才だった。令和の未来でも、爆笑問題の漫才が見られますように……。