白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

『R-1グランプリ2024』ファーストステージ:ルシファー吉岡

『婚活パーティ』。婚活パーティの自己紹介タイム中、入れ替わり立ち替わりやってくる女性に自己アピールしようとするのだが、相手が自己紹介タイムのシステムをあまり理解していないため、そのルールを説明するうちに持ち時間が過ぎてしまう……そんな男の孤独な戦いを描いた一人コント。そもそもの話として、ルシファー吉岡の演じる中年男性が、婚活パーティのシステムを把握していて、相手にも上手に分かりやすく説明できる……という初期設定が素晴らしい。婚活パーティに慣れている男の雰囲気が、あまりにもハマり過ぎている。この状況が三回繰り返されて、観客に設定を理解させてからの流れも見事。「運営に訴え出るも聞いてもらえない」「他の男性もルールを理解していない」と他の可能性を潰してからの、怒涛の勢いで繰り広げられるボケの波状攻撃。一対一の掛け合いから突如として逸脱する「あなたも一緒に聞いてください!」、この状況を端的に表しているものの妙にダイナミックな表現がバカバカしい「今、この婚活パーティは、私以前・私以後で分かれているんですよ!」には、腹を抱えて笑った。もっとも厳密にいえば、これらはボケではない。婚活パーティの中で起きている問題を解決するために、男が出来ることをやっているに過ぎない。だが、事態を理解していない人間にとっては、その言動はまったく理解できるものではない。この男と他者との認識の齟齬を想像させられることで、笑いがいっそう増幅される。ハッピーエンドを匂わせながらのペーソスに満ちたオチも素晴らしい。この設定で出せる最高点を叩き出したのではないだろうか。いやあ、面白かったな。最後に余談。理不尽なシステムの問題点に対して立ち向かっている人の姿を描写しているという意味では、今回のルシファー吉岡のコントは非常に社会風刺の趣きの強いネタだったと思う。でも、あれほど吉住のネタで注目を集めた大会だったのに、そういう指摘をしている人をあんまり見かけなかった気がする。まあ、別にええねんけど。

追記。ちゃんとネタの構成を解説できていない気がしてきたので、改めて説明する(この追記部分に関しては、出先から記憶だけで書いているので間違っている点もあるかもしれない。ご容赦)。まず導入部分。「自己紹介タイムなのに、システムの説明をするだけで話が終わってしまう」という現状を観客に理解させるために、きちんと段階を踏みながら三回繰り返すのは、こういったネタの常套手段。ルシファーの場合、彼自身のビジュアルの良さもあって、ここでしっかりとツカめていたように思う。この現状を理解させてから、四回目にしてようやく状況を打破するために動き出すのも正攻法。しかし、スタッフも他の男性の参加者も頼りにならないことを、ここではっきりと説明する。最後の一瞬、ルシファーが現状を上手く利用しようと立ち回るような素振りを見せるところも重要だ。これ以後の展開において、ノイズに成り得る分岐点はすべて遮断することによって、観客がここから先の展開にしっかりと集中できるわけだ。とはいえ、まだまだ可能性は無限大だ。いくらでもハチャメチャな展開を繰り広げることが可能である。しかし、ここでルシファーは、あくまでも相手の女性に婚活パーティのシステムの説明に固執することを選択する。これが素晴らしい。テーマに一貫性を持たせることで、ネタの芯が太くなる。こうなると可能性は一気に狭まってしまうわけだが、そのタイミングで「あなたも一緒に聞いてください!」と、次のターンで待ち構えている女性を巻き込む展開へと発展する、この絶妙な意外性。一対一の構図ばかりを見せられていた観客の意識を操作した、一人コントだからこそ成立する見事な離れ業だ。ここからコントは一気にオチへと雪崩れ込むわけだが、このシーンでのハッピーエンドの匂わせ方も素晴らしい。ただただ形式的なお見合いのやり取りをするのではなく、女性にルシファーの髪型をイジらせるというひねりを加えることで、以後の展開を予測しづらい状況へと持ち込んでいる。ここで観客の意識を比較的ベーシックなオチから逸らしているからこそ、最後のオチがもたらすペーソスが格段に強調されるのである。改めて、ルシファーの容姿から構成・展開・ボケのひとつひとつに至るまで計算されつくした、本当にとんでもないコントだった。