白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「M-1グランプリ2019」ニューヨーク、かまいたち(一本目)、和牛(2019年12月22日)

■『M-1グランプリ2019』の感想が書けないまま、一月が終わろうとしている。当時、リアルタイムで見られなかったことが、気持ちが盛り上がらない理由になってしまっているようだ。このままだと、春が過ぎても夏が訪れても何も書けずに終わってしまいそうなので、今年はかなりざっくりと感想を書いてしまうことにした。何も書かずに終わるよりはマシだろう。たぶん。■司会はお馴染み今田耕司上戸彩。年々、確実に年齢を重ねている筈の上戸は、それなのに今年もしっかりとキュート。もはや彼女の代表作は『金八先生』でも『あずみ』でもなく『M-1グランプリ』といっても過言ではない。■笑神籤の引き手はラグビーワールドカップ2019日本代表(堀江翔太、福岡堅樹、稲垣啓太)の三名。こういう話題の人を投入しても見劣りしないところに『M-1グランプリ』という大会の威厳を感じずにいられない。■審査員は昨年と同様、オール巨人塙宣之(ナイツ)、立川志らく富澤たけしサンドウィッチマン)、中川礼二中川家)、松本人志上沼恵美子が任命。昨年、色々と物議を醸した審査員だが、全体のバランスとしては悪くないので個人的には有り難い。ただ、今年は志らく師のコメントがやや控えめになっていたために上沼先生の独壇場となっていて、そこはもうちょっと落ち着いてもらいたかった気もしないでもない。面白かったけど。■トップバッターはニューヨーク。嶋佐のオリジナルの『ラブソング』に対して屋敷がツッコミを入れるスタイル。基準点で終わってしまいがちな一番手という立場であることを思えば、きちんと記憶に残るインパクトの強いネタを持ってこられた点は評価できる。ただ、漫才ならではの掛け合いによる面白味を敢えて捨てるという賭けに出たにもかかわらず、突出して秀でている部分がこれといって見当たらなかったのは残念でならない。歌ネタならではの手堅く形式を崩していく構成を経ておきながら、最終的に“長渕剛”“Foorin”“米津玄師”というベタな有名人ネタの連発で落ち着いてしまうとは。動き重視のボケで画に変化を加えることに期待を寄せていたのだろうが、そのために却って屋敷のツッコミを制限してしまったように見えた。■二番手のかまいたちは『USJ』。本来は最終決戦で披露する予定のネタだったのだが、早い段階で順番が回ってきてしまったので、此方を先に演ることにしたと聞いている。確かに、一本目が『トトロ』だったとしたら、彼らは最終決戦に駒を進めることは出来なかったかもしれない。「USJUFJと言い間違えてしまった山内が、それを濱家に指摘されたにもかかわらず、延々と間違えを認めようとしない」という内容の言い争いが、形を変えながら延々と繰り返されていく。この形の変え様が凄まじい。単なる押し問答を見せつけているだけなのに、まるで飽きさせない。とりわけ、濱家が大きな身体で舞台全体を動き回りながら、観客に自らの無実を訴えかけるくだりが珠玉。ニューヨークに必要だったのは、これぐらいの画の変化だ。また、ここから山内が、濱家の言動はおろか存在すらも無視し始める展開も見事。下手するとコントの色合いが強くなりすぎてしまうところを、絶妙な間で「クスリやってんのか?」と自らの言動を棚に上げたボケをぶち込みオチをつけてしまうことで、漫才の掛け合いへとギリギリのところで引き戻している。このダイナミックなやり取りの後に、あのややこしい言い回しで混乱させられるくだりを持ってくるところも計算高い。動的から静的へ。このメリハリの良さ。■三番手は敗者復活枠。今年は誰が敗者復活なのかを順番が回ってくるまで公開しないルール。おかげで発表までにフラストレーションが溜まってしまうのではないかと心配していたのだが、このタイミングならばさして問題はないだろう。■大方の予想通り、敗者復活枠に入ったのは和牛。ネタは『物件の下見』。水田演じる不動産屋が川西にオススメの物件を次々に案内する。アンタッチャブルサンドウィッチマンパンクブーブーなどのように、漫才の中でコントを演じるスタイルの漫才師は数多く存在するが、その多くはコントのキャラクターたちは会話のみで場面を成立させている。対して和牛の漫才コントはあっちこっちに動き回る。今回のネタでも、物件を出入りするたびに入口を出たり入ったりと忙しい。それでも漫才らしさを見失わないのは、漫才特有のリズム感を崩すことなく、センターマイクから離れすぎず、しっかりと漫才のアイデンティティを見失わずに演じ切っているためだろう。そんな動き回っている見た目に対して、ネタの構成はかなり堅め。一件目、二件目、三件目と「内見した物件に人が住んでいる」ことを軸としたボケを発展させていき、最後の物件でツッコミである筈の川西の視点が「人が絶対に住まない(住めない)ような物件をむしろ好意的に受け取ってしまう」へとズレてしまう展開に持っていく。この丁寧に丁寧に積み重ねられて、最後にしっかりと爆発する構成がニューヨークの漫才にあれば……(しつこい)。ただ、昨年の『ゾンビ』に比べると、やや大衆向けの分かりやすい方向へ向かってしまったようにも思えて、そういった昨年との比較の点でかまいたちとの差がついてしまった気がしないでもない。■この時点で、順位は「1位:かまいたち(660点)」「2位:和牛(652点)」「3位:ニューヨーク(616点)」と、序盤で決勝常連組が高得点を叩き出す展開に。結果、初の決勝進出組が、実力のある常連に立ち向かう構図になったように思う。上手く出来上がったなあ。■続きます。