白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「bananaman live one-half rhapsody」(2019年2月2日)

bananaman live one-half rhapsody [Blu-ray]

bananaman live one-half rhapsody [Blu-ray]

  • 発売日: 2019/02/02
  • メディア: Blu-ray
 

2018年8月2日から5日にかけて、俳優座劇場で行われた単独ライブを収録。

かつて「面白いけれどテレビには向かない芸人」の代名詞だったバナナマンが、一転、テレビで見ない日はないほどの売れっ子になって久しい。彼ら曰く「売れるきっかけになったのは、2005年に放送された『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』の企画での「コンビ解散ドッキリ」だった」ということなので、もう十五年ほど売れ続けている計算になる。……ということは、今の若い人の多くは、バナナマンがアングラ色の強いコントを演じていたことも知らないのかもしれない。最高傑作と名高い単独ライブ『ペポカボチャ』(2002)から十八年、思えば遠くへ来たものである。

そんなバナナマンが、売れっ子になってからも年に一度の単独ライブを続けていることは、意外と知られていない。そりゃそうだ。芸人にとって単独ライブは並々ならぬ重労働なのである。ネタを考え、台本を書き上げ、発声や動線の演出を整え、ライブ本番までにある程度の形にしてみせる……こんな大変なことはない。つまり、あれだけ多くのメディアに出演しながら、自作の新作コントを演じるライブを続けるなんて、とてもじゃないが実行出来るものではないのである。それでもバナナマンはコントを作り続けている。実に恐ろしいバイタリティである(注:新型コロナウィルスの流行を受けて、2020年以降の単独ライブは行われていない)。

そんな状況下で行われている単独ライブであるにもかかわらず、常に一定のクオリティを守り切っているのところが、また恐ろしい。自然体のキャラクターたちによる会話劇は、台本の存在をまったく感じさせず、それなのに大きな笑いを次々に生み出していく。例えば、会社の上司であるヒムラに対して、ナメた態度を取り続けている若い社員のトダにどのような対応を取るべきなのか、後輩のシタラと話し合う『cocky TODA』は、そんな二人の掛け合いの魅力を最大限に引き出しているコントの一つといえるだろう。愚鈍なヒムラの強烈なボケと天然サディストなシタラの巧みなコントロールがあまりにも自然に表現されていて、本当の素の二人がやり合っているように見える。この上手さの見えない上手さ。

この他のコントも上々。幼い我が子を連れてシタラの元へとやってきたヒムラが、子どもを優先して自分のことを蔑ろにする妻への苛立ちを爆発させる『Bitching』。付き人に説教する大御所歌手・大村なつおが言い間違いをするたびに、謎のヒゲメガネの男性が現れて、言葉の間違いを正しては去っていく『大村なつお』。自分だけの自由なピアノを追い求めた男が辿り着いた地平とは『snitching at the PIANO』。時に激しく、時にバカバカしく、その笑いの表現を多様に繰り広げている。特に『Bitching』はTwitterなどで時たま議論になる夫婦の話題を反映した、とても現代的なテーマのコントで、非常に面白かった……し、ちょっとハラハラさせられた。

しかし、なんといっても本作の目玉といえば、タイトル作でありオーラスのコント『one-half rhapsody』だろう。左半分が中学校の教室、右半分が高層マンションの一室、それぞれ真っ二つに分けられた舞台の中で、古くからの友人である現在のヒムラとシタラが思い出話の中で中学校時代の記憶を遡るもので、ヒムラが当時のクラスメートたちを何役も演じるバカバカしさもたまらないのだけれど(またいずれもクセモノ揃い)、だんだんとシタラの抱えている問題が明らかになっていく展開がなんともたまらなかった。みんなから一目置かれている立場だからこそ、出来ないこと・出来なかったこともあるのだ。

これらのコント以外にも、幕間映像もしっかり本編に収録。遺伝子の優性・劣性の話をしているだけなのに異常に面白い「耳かき」、日村が痩せない理由がはっきりと明らかになっていく「なんで痩せないんだろう」、第三のバナナマン・オークラが学生時代に飲んでいたアレをしっかりと作ってみる「デブドリンクの作り方」など、シンプルに笑える映像が揃っている。是非、ご賞味あれ。

・本編(125分)
「GAME of which」「Bitching」「耳かき」「大村なつお」「なんで痩せないんだろう」「cocky TODA」「ロスフェデラーホテル」「snitching at the PIANO」「デブドリンクの作り方」「one-half rhapsody」