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さあ、水道の蛇口を開け。

「相手の返せないような球を打ってはいけません」

YouTubeで『卓球温泉』が無料公開されていたので鑑賞。

『卓球温泉』は1998年に公開された日本映画である。主演は松坂慶子。

会社員の夫と高校生の息子と三人で暮らしている主婦・藤木園子は、家事に追われるだけの日常に嫌気が差し、ラジオ番組でパーソナリティに相談したところ「家出しちゃえばいいじゃん」と言われて、本当に家出してしまう。向かった先は、かつて新婚旅行のときに夫と訪れた老舗旅館。ところが、道中で出会った旅館の関係者や、その旅館の女将の娘だという若い女性の話によると、温泉街はすっかり寂れ、少し前に女将は亡くなり、当時の活気は失われてしまったという。ともあれその日は旅館に泊まった園子は、居ても立っても居られなくなって、旅館内を掃除し始める。そこで見つけたのは一台の卓球台。それはかつて、ここを夫婦で訪れたときに、活気に満ち溢れていた町の卓球場を思い出せるものだった……。

どことなく現実味に欠ける主人公の佇まい、現在の観点で見ると時代錯誤だが人間臭くて愛おしいキャラクターたち、あまりにもすべてが上手く進みすぎているストーリー展開……などの要素が、荻上直子『かもめ食堂』をほんのりと彷彿とさせる。いわゆる名作と呼ばれるような邦画というよりも、ゆるーくぬるーく居間のテレビで見ている娯楽映画といった空気感で、あまりにも古き良き時代の日本映画過ぎて、なんだか懐かしい気持ちにさせられた。

その一方で、主人公が卓球のルールとして、「相手の返せないような球を打ってはいけません」と提唱する姿に、「とにかく相手に勝てばいい」「ルールをハックして勝者にならなくてはならない」という昨今の風潮とは真逆の思想が感じられ、むしろ現代にこそメッセージとして突き刺さるものを感じさせられた。もっとも、終盤のねるとん卓球(この言い回しがまた古い!)の流れを思うと、それは単なるセックスのメタファーだったのかもしれないが。とはいえ、セックスもまた一方的になるべきではない、純然たるコミュニケーションである。ともあれ、相手の返せないような球を打たない(=相手の立場になって発言する)というコミュニケーションの基本について、『卓球温泉』は改めて教えてくれたような気がした。

また役者がいいんだ。主演の松坂慶子はもちろん、若さゆえに軽率で奔放なラジオDJの牧瀬里穂、派手な見た目と繊細な顔つきが印象的な藤木の息子・窪塚洋介、愛嬌と威厳が合わさったような大旦那の桜井センリ……そしてなにより、蟹江恵三(園子の夫・哲郎)が良い……昭和のカタマリみたいな顔で、とても良い……。