白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ベストネタシリーズ ラバーガール」(2017年8月23日)

ベストネタシリーズ ラバーガール [DVD]

ベストネタシリーズ ラバーガール [DVD]

 

人力舎所属の技巧派コント師ラバーガールが2007年から2016年までにリリースしてきたDVDから、十二本の珠玉のコントを収録したベストセレクション。収録内容は以下の通り。

◆本編【100分】(カッコ内は収録元のDVDタイトル)

「電報」(「ブラッシュバック・スピノーネイタリアーノ」)

「世界にはばたく日本人」(「メキシカンキャッシュボーイ」)

「誕生日」(「さよならインドの空に」)

猫カフェ」(「キャット」)

「バイトを辞めるヤツ」(「エマ」

「別れなさい」(「エマ」

「寿司屋」(「ジェイコブ」)

恋愛シミュレーションゲーム ラブリアル」(solo live+「GAME」)

「パワーポイント」(solo live+「GAME」)

「過去から来た男」(solo live+「T/V」)

「WAKE UP OHMIZU」(solo live+「GIRL」)

「聞いてくれよ」(「大水が出た!」)

なかなかに手堅い構成といえるのではないだろうか。初期の代表作『電報』に始まり、司会者とゲストの珍妙なやり取りを描いた彼らお得意の設定による『世界にはばたく日本人』、「キングオブコント2010」決勝の舞台で披露された『猫カフェ』、大水洋介演じるオカマの寿司屋がコミカルで笑えるのだが後味が少し切ない『寿司屋』など、活動時期ごとの代表作が適切に拾い上げられている。

その一方で、単独ライブならではの攻めたコントも、しっかりと押さえられている。偶然にも同じ誕生日だということが分かった二人が当日になってプレゼントを交換することを約束するのだが、その結果、とんでもない事態に発展してしまう『誕生日』。今日で辞めるというバイト仲間から貰ったカセットテープには、驚愕の音源が収められていた!『バイトを辞めるヤツ』。恋人の母親だという女性が彼女と別れるように要求し始めるのだが、ボケとツッコミが曖昧なやりとりが延々と続く『別れなさい』。いずれのコントも、一筋縄ではいかない危うさと、胸の奥をざわつかせる据わりの悪さがたまらなく面白い。当時は気が付かなかったが、『バイトを辞めるヤツ』の度を越えたヤバさには些か驚かされた。悪意や冗談を伴わない異常ぶりが恐ろしい。

この攻めの姿勢は、演出に細川徹を迎えたシリーズ“solo live+”に突入すると、より洗練されていく。先日、飲み会の最中に態度を一変させた大水が、その理由を飛永翼にパワーポイントを駆使して説明する『パワーポイント』。突如、轟音とともに現れた男性が、「私は過去のお前だ」と言い始めて……『過去から来た男』。街の荒くれたチンピラたちをOHMIZUが蹴散らしていく『WAKE UP OHMIZU』。以前よりも攻撃性が控え目になっているが、その分だけ、世界観が広がっているのがたまらない。より自由に、奔放に、バカバカしい笑いの世界へと広がっていく心地良さがある。

その意味では、オーラスのコント『聞いてくれよ』は、些かパンチに欠けるのだが、とはいえ、ラバーガール×細川徹の世界を堪能した後だと、その日常的なシチュエーションとシンプルで下らないボケの連発に安心感を覚えるのも確かだ。それはまさしく宴会の後のお茶漬けのよう。絶妙だ。

ひとつ、気になるところがあるとすれば、彼らの初単独ライブ「パットミベラルーシ」からのコントが収録されていないことぐらいだろうか。否、そもそも、「ジェイコブ」の特典映像としてソフト化された映像なので、収録されていなくても別に問題はないのだが、ここまで充実した内容になっているのであれば、それぐらいの対応があっても良かったような気がしないでもない。……こちらは初回限定特典ではないし。『ピザ屋』ぐらいは収録されても良かったような……いや、別にいいんだけれどね。

ところで、今年はもうラバーガールはソロライブを開催しないのだろうか。2007年の「ブラッシュバック・スピノーネイタリアーノ」以降、年に一度のペースで当たり前のように敢行していたが、その記録がとうとう途切れてしまうのだろうか。ソロライブを開催できないほどに他の仕事を貰えるようになってきた……ということなのだろうか。どうせなら、そうであってほしいものだが。