白昼夢の視聴覚室

犬も食わない

「KAJALLA #1「大人たるもの」」(2017年3月15日)

2016年7月から9月にかけて、東京・大阪・横浜・豊橋の四か所で開催されたコントライブを収録。様々な方法でコント表現を模索してきた小林賢太郎による最新の不定形ユニット“KAJALLA”。その第一回公演の模様を収めた本作には、嘘偽りのない至極真っ当で誠実な「大人のコント」が演じられている。

あるモノを買うために並んでいた大人たちが、在庫の有無やバージョンの差異に踊らされるオープニングコント『ならんだ大人たち』、これまでに経験した不幸を埋め合わせる保険「バランス」を契約にやってきた男が、印象的な口癖の男たちからの接客を受ける『しあわせ保険バランス』、子どもたちに甘い飴を分け与える謎の男と甘いと思わせておいて奇妙な味の飴を配っている謎の男が公園で不明瞭な戦いを繰り広げる『味なやつら』、内向的な趣味の男たちが、社交的な友人を通じて苦手な女性と会話する機会を与えられそうになり困惑する『カドマツ君』など、どのネタもシンプルで分かりやすく、それでいて面倒臭さが滲み出ていて、清く正しく「大人のコント」として自立している。とりわけ、とある山小屋で起きた出来事を現在の視点と過去の視点を同時進行に展開するコント『山小屋における同ポジ多重コント』は、過去と現在の人々が入り乱れた小林賢太郎の演出力を堪能できる傑作だ(タイトルも説明もややこしいが、コントそのものは一目瞭然なのでご安心頂きたい)。

ただ、小林賢太郎のコント作家としての表現力が最も反映されていたのは、『頭蓋骨』を皮切りに繰り広げられるシチュエーションコントの数々だろう。「医者と患者」というコントとしては非常にオーソドックスなシチュエーションで統一された一連のネタ群は、その多くが、ちょっとした会話や動作で大きな笑いが生まれていくストロングスタイルになっていて、地味ながらも腹持ちが良い。インパクトよりも質で勝負しているあたり、これもまた「大人のコント」である。特に笑ったのは、安井順平竹井亮介の間に小林賢太郎が割って入る……これはタイトルがネタバレになってしまうところもあるので、どのコントのことを書いているのかは伏せておこう。そのバカバカしさ、下らなさは実際に鑑賞して楽しんでもらいたい。……この直後があのコントというのが、また……揺り戻しが強い……。

ところで、先程からやたらに取り上げている「大人のコント」というワードだが、そもそも「大人のコント」とは何なのか。正直なところ、書いている本人もよく分かっていない。ニュアンスで使っている。もっと掘り下げてしまうと、「大人」とはなんなのか。どういう状態の人間を「大人」と呼べるのか。正しく言語化できる人はいるのか。大きければいいのか。大きい人は大人なのか。では小さい人は大人じゃないのか。そもそも何の大きさの話をしているのか。……考え始めればキリがない。ただ、オープニングコント『ならんだ大人たち』の中で、在庫やバージョン違いに踊らされた小林が店員に訊ねた「あのー、普通のってないんですか? もう、こっから先、十年は変わりませんっていう定番」という台詞が、この勝手に生み出された問題の答えのような気がしないでもない。

「大人のコント」、それは思うに……。

■本編【128分】

「ならんだ大人たち」「しあわせ保険バランス」「味なやつら」「頭蓋骨」「オカルト先生」「もんしん」「BSドラマみたいな男たち」「野生のヤブ医者」「カドマツ君」「山小屋における同ポジ多重コント」「第二成人式」