白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「佐久間一行SHOW 2014 VACATION~バケーション~」(2014年11月26日)

2015年8月21日視聴。

R-1ぐらんぷり2011」チャンピオン、佐久間一行が2014年8月8日から10日にかけて東京・ルミネtheよしもとで行った単独ライブより、8月9日の模様を収録。

普段、芸人の名前を書くときは、なるべく呼び捨てにするように心掛けている。演者と観客の間を自分なりに線引きしているのである。だが、佐久間一行に関しては、どうも「佐久間」ではなく「さっくん」と書きたくなってしまう。何故か。思うに、彼の天然というか、あどけない雰囲気がそうさせているのだろう。……というわけで、とりあえず今回は彼のことを「さっくん」と書く。私は気まぐれなので、次は「佐久間」と書くかもしれないが。

さっくんのネタはもう少し評価されてもいいのではないか、ということを、彼の単独ライブDVDがリリースされるたびに思っている。それほどに面白いし、唯一無二であるように感じる。例えば、本作のオープニングアクトで歌われている『アマガミジョーズ』。海水浴にやってきたらサメに襲われたけれど、どういうわけか甘噛みだから痛くない……。どんな歌だよ、とツッコミを入れたくなる。

歌だけではなく、コントも他に類を見ない。会社から帰るタイミングを見失ってしまったサラリーマンが、帰るタイミングについて延々と持論を展開する『帰るタイミング』。とんでもないお金持ちの男が、お金持ちならではのスケールの大きなエピソードの数々を呑気に語る『お金持ちの考えはわからない』。ツタがからまっている家の人の動向がTwitterで実況される『ツタがからまってる家の人』。生真面目な郵便配達員が「秘境の地の奥の3」と書かれた住所へ手紙を届けに行く『生真面目ポストマン』。漫画的というか、ファンタジーというか、なんとも上手く言い表せない不思議な世界だ。どうしてツタがからまってる家をTwitterで実況するのか。意味が分からない。でも、なんだか面白い。

それらの中でも、さっくん人間性が浮き彫りになっているように感じられたのが、『降臨』と『マイナーフィーチャー』。『降臨』は、神様に扮したさっくんが、第三者の立場から「気まずい雰囲気になってしまう状況」の数々を紹介し、それら全てを「だ~れも悪くない!」と断じていくコント。これを初めて見たときは、そのあまりの大胆さに感動が止まらなかった。気まずい雰囲気の原因を探すのではなく、はっきりと「だ~れも悪くない!」と言い切ってしまう気持ちよさ。昨今、巷で流行りの底意地の悪い笑いとは、まったくの対極に位置しているといえるだろう。『マイナーフィーチャー』は、卒業式での「卒業生起立!」という号令にうっかり立ち上がってしまった在校生の陰で、こそっと立ちかけてしまったヤツがいる……というように、大きな出来事(メジャー)が起こっている裏でひっそりと起きている出来事(マイナー)を紹介していくイラスト漫談ネタである。人目に付くために他者からフォローが入れられやすいメジャーに対し、あまりにもひっそりとしてしまっているため、大きく取り上げられることなく適当に対処されてしまいがちなマイナーを取り上げるところに、さっくんの優しさ(もとい、細やかさ)を見た気がした。

特典映像は、さっくんが休日にやっていることを後輩芸人のはいじぃ・ピクニック・ポテト少年団(解散がつくづく残念!)らとともに実行する「ブリッジVTR集」、さっくんの振り返りトークとともに本編には収録されていない映像をチラ見せする「オフショット」、さっくんがやりたいコントをスタッフに説明するときに見せるネタ帳を初公開!「アイデアノート」の三点。「アイデアノート」はかなり貴重なのでは。こういう感覚的な思考が、あの不可思議な世界観のコントを生み出すのだろうか……と、妙に納得させられた。

なお、限定盤にのみ付いてくる特典ディスクには、さっくんが定期的に開催している“佐久間一行 月1ライブ”でのトーク集・VTR集などが収録されている。さっくんトークは、ちょっとまとまってなくてとっちらかってしまっているけれど、話の内容そのものはちゃんと面白いので、その辺りを理解した上で見ると楽しい……かもしれない。 

■本編【71分】
アマガミジョーズ」「オープニングVTR」「降臨」「帰るタイミング」「お金持ちの考えはわからない」「繊細くん」「マイナーフィーチャー」「ツタがからまってる家の人」「顔出しヒーロー「GOフェイス」」「生真面目ポストマン」「きょーイチ」
 
■特典映像【53分】
「ブリッジVTR集」「オフショット」「アイデアノート」
 
■特典ディスク【126分】
「月1ライブトーク集」「月1ライブ特典映像集」「対談~ポテト少年団~」「リアル アゴイオン会」「リアル ストコー」「リアル タナゴ釣り」「なにげない場面集」