白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「東京ホテイソン 第1回単独公演「洒落柿」」(2022年12月14日)

2022年5月から6月にかけて開催された全国6ヶ所を巡るライブツアーより、6月5日に行われた大阪・朝日生命ホールでの最終公演を収録。作家にポテンシャル聡。

東京ホテイソンは、鹿児島県出身のショーゴ岡山県出身のたけるによって2015年に結成された。コンビ名は七福神布袋尊に由来している。所属事務所は、サンドウィッチマンを筆頭に、カミナリ、ランジャタイ、ロケット団などといった、個性豊かな漫才師が多く所属しているグレープカンパニー。『M-1グランプリ2017』準決勝戦進出をきっかけに注目を集めるようになり、『M-1グランプリ2020』で初の決勝進出を果たしている。本作は、そんな二人にとって、初めてのライブ映像作品である。

東京ホテイソンの漫才は問答のスタイルを採用している。初見では理解しがたいショーゴの不可解なボケが“問”、その意図を瞬時に汲み取って独特な表現で昇華するたけるのツッコミが“答”、それぞれの役割を果たしている。疑問を提示して回答で笑いを取る彼らの手法は、「○○とかけて△△と解く、その心は?」という言い回しで知られる“なぞかけ”に近いものであるといえるのかもしれない。

ただし、多くの観客を納得させられる正解を提示する“なぞかけ”に対し、東京ホテイソンの漫才の場合、その多くはショーゴのボケを明示化する構図を採用している。例えば、M-1決勝のステージで披露された『謎解き』というネタを見ると、ショーゴ「「たらこ」と「カバ」は「宝箱」になります。じゃあ「新幹線」と「アルゼンチン」は何になる?」という問題を出し、「シアトルマリナーズと正解を提示した上で解説を始める。当初、ショーゴの言い分を鵜呑みにしていたたけるだが、やがてその間違いに気付き、問題が導き出している本来の正解が「いーや!シアンルカゼンンーセチン!」であると指摘する。この時、偶発的に生じる不条理なワードが、大きな笑いへと繋げられていく。思うに、彼らの真の目的は、たけるに妙なワードを言わせるところに徹底していて、ショーゴが掲げるテーマや不可解なボケは、その可笑しみを自然に打ち出すためのフリに過ぎないのだろう。

本作でも、同様のシステムを駆使したネタが、数多く演じられている。ショーゴがパソコンで打ち間違えているローマ字に妙な共通点が見いだされる『ローマ字』、昼休みにやることがない二人の学生がスマホの機能を駆使して「逆再生したらちゃんとした言葉に聞こえるように録音する」遊びを始めるコント『学校の昼休み』、有名映画を表している言葉をショーゴが海外の実況風に読み上げ、何の映画作品なのかをたけるが当てようと奮闘する『海外の実況』……などなど。いずれのネタも、東京ホテイソンならではの手法の笑いに満ち溢れている。彼らのネタが好きな人間ならば、文句なしに楽しめることだろう。ただ、逆にいえば、東京ホテイソンというコンビのネタからイメージされる面白さからはさほど脱却しておらず、意外性には欠ける。単独ライブという独壇場なのだから、もうちょっと羽目を外した笑いを組み込んでも良かったのではないか、という気がしないでもない。もっとも、まだ第一回公演なのだからという理由で、しっかりと客の期待に応えた公演にしたかったのかもしれない。今後の展開に期待したいところ。

その意味では、従来の東京ホテイソンの芸風にヘンテコな要素を組み込んでいき、やがて「ぺこぱ」「キュウ」「トム・ブラウン」などの他芸人のスタイルを取り込んでいくショートコント『○○ホテイソン』が、本編では一番印象に残っている。従来の東京ホテイソンの芸風ではなく、その芸風を下地にパロディを展開する様子が、お笑い好きのアミューズメントパークといったような雰囲気でとても楽しい。単独ライブならではの遊び心溢れるパフォーマンスといえるだろう。

これらの本編映像に加えて、特典として、東京公演で披露されたバージョンの「コント『取り調べ』」を二人が振り返る映像副音声を収録。ツアーの序盤だったこともあり、普段は漫才を演じている二人のコント演技の方針が明確な答えが出されていなかった段階でのネタを見ながら、二人で反省している模様が収められている。実際に舞台に立っているときには気付かなかったミスについて触れている二人の姿に、客観的な視点を持つことの大切さを知ることが出来る……かもしれない。

・本編【90分】
「オープニング」「漫才「歴史」」「VTR:対義語」「漫才「ローマ字」」「VTR:画伯ショーゴの絵を見て何のアニメか当てろ」「コント「学校の昼休み」」「VTR:思い出の地を巡ろう」「ショートコント「○○ホテイソン」」「VTR:犬」「コント「取り調べ」」「VTR:グッズ紹介」「漫才「海外の実況」」「VTR:恋愛シミュレーション」「漫才「九九」」「エンドロール」

・特典映像【12分】
「映像副音声:コント「取り調べ」」