白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「アンガールズ単独ライブ「びしょ濡れの犬のほうが拾いたくなる」」(2018年7月25日)

2018年4月21日・22日に北沢タウンホールで開催された単独ライブを収録。

本編に収録されているコントは全6本。タイトルにある“びしょ濡れの犬”を思わせるような悲愴感溢れる笑いが凝縮されている。イオンモールでのイベント中、弟子の山根に気功術がインチキであることを暴露されてしまった田中が、追い込まれてとんでもない言い訳を繰り広げる『気功術』。町内会に所属している山根がゴミを捨てにやって来た田中に「町内清掃に参加してほしい」と頼み込むと、「私は集団の中にいると人を怒らせてしまう人間なのでやめたほうがいい」という驚くべき理由で拒否されてしまう『町内清掃』。しょうもない意地で貯金を競馬のレースに注ぎ込んでしまった田中が、ちょっとでも当たる可能性を上げるために運を下げようと転げ回る『運』。悲惨で哀愁を漂わせながらも、抑えたくても抑えられない笑いの数々に、田中卓志という人間の人生観が滲み出る。

特に印象に残ったのは『コンビニ』。

舞台はコンビニのバックヤード。椅子に座って静かにスマホをイジッている田中の元へ、休憩に入った山根がニヤニヤしながら詰め寄るシーンで幕を開ける。昨日、初めて昼のシフトに入った山根は、そこで普段の田中とは違う一面を目撃したことを打ち明ける。夜のシフトに入っているときは、物静かで他のバイト仲間とは必要最低限の話しかしていなかった田中が、昼のシフトで女の子のバイト仲間と一緒になっているときには、意気揚々と話をするどころか、楽しそうに小道具を使っておどけていたのである。「むっつりスケベだったんですね!」と追及する山根。しかし、そんな山根の言い分に対し、田中は断固として否定。田中が昼のシフトで女の子のバイト仲間と楽しそうに話をしていたのには、れっきとした理由があったのである。それは……。

「女は、女は、めっちゃ笑ってくれるんだもん!」

女はちょっとしたことでもすぐに笑ってくれるが、男はなかなか笑ってくれない。この田中の主張に対して「男だって笑いますよ」と反論する山根だったが、田中は「俺は、女にはウケるけど、男にはウケない。その絶妙なラインにいる人間、それが俺だから!」と更に否定を重ねていく。そこから更に田中は持論を展開、男を相手に面白い話をすることが如何に難しいか、徹底的に説明し始める。

男の話に対して女の子が簡単に笑ってくれるのにも何かしらかの理由があるような気がしないでもないが、確かに、笑いに対して過剰に厳しい意見を抱いている人間には男の方が多い印象はある。「すべらない話」や「ドキュメンタル」、「IPPONグランプリ」のようなコンテンツに対して一過言持っているかのようなコメントをしている人間も、男性の比率が高いように思う。ちょっとした話に対して笑いどころやオチを求めるのも、女性よりも男性の方が多いのではないだろうか。

……ここまでの話に根拠は無い。あくまでも私個人のイメージによるものである。きちんとデータを取れば、意外とそれほど男女差はないのかもしれない。ただ、あくまでも実感という点に限定すれば、非常に共感を抱ける切り口のテーマだった。ちなみに、このコントでは田中が男にはウケないと断言するきっかけとなった話も語られるのだが、それはそれで、男ウケする笑いの根深い問題があるように思う。様々な角度において、非常に興味深いコントだった。

これらの本編映像に加えて、特典映像として五本の未公開映像を収録。田中のお母さんに考えてもらったネタを実際に二人で演じてみる「お母さんのネタ再現」、『気功術』のネタ中に起こったハプニングを収録した「単独ライブ リアルハプニング映像」など、様々な映像が収められているが、とりわけ、田中がとある芸能人とキスしている様子をイメージして一人で演じている姿を見て、誰とキスしているのかを山根にクイズ形式で当てさせる「誰とキスしているかクイズ」が圧倒的にバカバカしかった。誰が得するんだ、その映像は。

・本編【78分】
「気功術」「コンビニ」「お母さんに電話①」「町内清掃」「田中vsニセ田中」「電気消し鬼ごっこ」「山根、占い師を斬る」「運」「田中、自腹ギャンブル」「遺品整理」

・特典映像【13分】
「誰とキスしているかクイズ」「お母さんに電話②」「お母さんのネタ再現」「田中vsニセ田中 番外編」「単独ライブ リアルハプニング映像」

「ハナコ「タロウ4」」(2019年12月25日)

 

2019年4月から6月にかけて、東京・愛知・大阪・福岡で公演を行った単独ライブの模様をDVD用に再現して収録。あくまでもDVD用に再現している映像のため、実際の単独ライブで披露されたコントが全て収録されているわけではないらしい。ワタナベの芸人による作品には、時たま、こういったややこしい形式で再演されたものが見られるが、どういう意図によるものなのかがイマイチ分からない。版権上の問題でもあるのだろうか。

収録されているコントは全9本。新しい元号の発表にテンションが上がってしまってはしゃぎ倒してしまう『新元号発表』を皮切りに、バイト仲間の女性が異性に距離を詰められるのが苦手なタイプで上手くコミュニケーションが取れない『距離感』、乗っていた船が沈没して救助を待っているところに現れたのはけっこうギリギリな状態の海猿で……『救助』、久しぶりに顔を合わせた親戚のおじさんがずーっと人見知りする子どものような態度を取り続けている『親戚のおじさん』などなど、的確に笑いを生み出す設定のネタが演じられている。

ただ、基本的にワンテーマで展開しているため、ネタの深みを感じ取りにくいのが残念。どのネタもちゃんと面白いのだが、記憶に残るほどのパンチ力には欠ける。これ以降の単独では改善されているのだろうか。

その中でも印象に残っているのは『清掃員』と『行かないで』。

『清掃員』は、会社の就職面接の会場で、自分が呼び出されるのを待っている就活生(秋山)の前に、如何にも会社の重役っぽい雰囲気の清掃員(岡部)が現れるコント。フィクションでありがちな設定を逆手に取ったコントで、この切り口もまたありがちといえばありがちなのだが、清掃員を演じる岡部から醸し出される重役の如き風格が笑いを増幅している。この後に登場する菊田の存在感もまた素晴らしい。コントの設定とキャラクターが見事にマッチした一本である。

『行かないで』は、情熱的な彼女に対して素っ気ない態度を取り続ける彼氏のスマホに入った連絡をきっかけに、言い争いが始まってしまうコント。この彼氏のスマホに入った連絡というのが、このコントにおける最大の笑いどころとなっている。そのため、ここでもネタバレになってしまうため、具体的に明記することは出来ない。ただ、2019年の時点で、このテーマでコントを書き上げた時代性の高さが素晴らしい、ということだけは書いておきたい。なんなら、このコントで起こっているような諍いは、今現実に何処かで起こっているかもしれない。その先見性の妙。オーラスに相応しいコントといえるだろう。

これらの本編映像に加えて、特典映像として「岡部ハーレーを買う?!」を収録。岡部が秋山・菊田を引き連れて、バイクショップにハーレーを買いに行く様子が収められている。三人が不慣れなロケを歪ながらもこなしている姿がなにやら初々しい。結局、この時点ではハーレーを買わなかった岡部(免許を持っていなかったため)だが、2021年に実際に購入したらしい。売れっ子だなあ。

ちなみに、ハナコは2021年にオフィシャルYouTubeチャンネルで公開しているコント映像のベスト盤『HANACONTE + 』、2022年に単独ライブDVD『タロウ5』『タロウ6 』をそれぞれリリース済。そちらも機会があれば今後レビューする……かもしれない。

・本編【60分】
「新元号発表」「距離感」「ネタバラシ」「救助」「清掃員」「インタビュー」「親戚のおじさん」「俺だ」「行かないで」

・特典映像【12分】
「岡部ハーレーを買う?!」

「錦鯉 独演会「こんにちわ」」(2022年2月9日)

2021年10月29日に池袋HUMAXシネマズで開催された、自身初の単独ライブを完全収録。

本編には、「M-1グランプリ2020」決勝戦で披露された『CRまさのり』と、「M-1グランプリ2021」決勝戦で披露された『サルを捕まえる』を含めた、9本の漫才が収められている。但し、『サルを捕まえる』に関しては、M-1決勝で披露されたものとは少しバージョンが違っている。削られているシーンと、追加されているシーンがある。M-1フリークであれば、この違いを比較してみるのも面白いかもしれない。

ちなみに、同じく「M-1グランプリ2021」決勝戦で披露された『合コン』、M-1グランプリ2018王者・霜降り明星が大好きなネタだと明言している『まさのり数え歌』は未収録。どちらもM-1の公式DVDで視聴可能だが(『まさのり数え歌』は「M-1グランプリ2019」敗者復活戦で披露されている)、次の単独では是非とも披露してもらいたいところ。

錦鯉の基本的なスタイルは漫才コント。長谷川が「○○をやりたい!」と提案し、一人で演じている姿を渡辺が第三者の視点で見つめながらツッコミを入れていく。“若手だけどおじさん漫才師”というキャラクターばかりが着目されがちだが、ネタの仕組みとしては、霜降り明星マヂカルラブリーのスタイルに近く、むしろその芸風は若いといえるのかもしれない。

本編に収録されている漫才も、また同様に長谷川の提案に渡辺が付き合わされるスタイルのネタが主となっている。登場人物が全員バカのニュース番組を見させられる『ニュースキャスター』。どれだけ注意されても、何度も何度も長谷川が動物たちのところへと飛び出してしまう『サファリ―パーク』。街の治安を守るために手段を選ばない長谷川の活躍を描いた『治安警備員』。……いずれのネタにおいても長谷川はバカであり続けているが、その方向性はそれぞれ微妙に違っていて、飽きさせない。特に『治安警備員』の長谷川は、通常の長谷川とはまったく違ったアウトローなキャラクターで、初見の人はちょっと驚くのではないだろうか。

印象に残っているのは『トイレ掃除』。「街のために駅のトイレを掃除したい」という長谷川が、渡辺に見守られながら駅のトイレを掃除して回る漫才コントである。まず「駅のトイレを掃除したい」というテーマの渋さが素晴らしい。一介の若手漫才師ではなかなか生み出すことの出来ない設定である。そこで繰り広げられるボケもたまらない。バカがトイレ掃除をするとなると、果たしてどのようなことが起こるのか……その想定されるような類いのボケを連呼しているにも関わらず、生理的嫌悪感を引き起こさない。スカトロ的なヤバさを長谷川のバカさがしっかりと上回るのである。この塩梅が絶妙。駅のトイレを掃除したいがあまりに、汚れた便器のことを逆に「ごちそう」だの「メインディッシュ」だの言ってのける、この下らなさ! あまりテレビ向けの漫才ではないだろうが、面白かった。

これらの漫才の間に、実際のライブでも流された幕間映像が収められている。いずれの映像も長谷川雅紀という人物の素の姿に注目したものになっており、錦鯉というコンビにおける長谷川の存在の大きさを改めて感じさせられる。とはいえ、最も面白かったのは、長谷川の朝の風景を撮影した映像に渡辺がツッコミを入れる『まさのりモーニングルーティーン』なので、やはり渡辺の存在も偉大であると言わざるを得ないだろう。次の単独があるならば、その時は渡辺隆にも注目してほしい。

この本編とは別に、特典として、「錦鯉・ハリウッドザコシショウ・バイきんぐの副音声コメンタリー」と特典映像「トークライブ「祝50歳 錦鯉長谷川まさのり生誕祭 バカの日」を収録。

本編と同様、副音声コメンタリーもM-1優勝前に収録されたもののため、いわゆる祝祭ムードは皆無。ザコシとバイきんぐの三人がかなり素のトーンに近い状態で錦鯉をイジり倒している。これもまた優勝直前だからこそ味わえる貴重な空気感である。次の単独がソフト化されたあかつきには、R-1王者・KOC王者・M-1王者の三組揃い踏みで、またコメンタリーを収録してもらいたいところ。

特典映像のトークライブは2021年7月30日に収録されたもの。長谷川雅紀のこれまでの人生を写真で振り返っており、その珍妙な写真と奇怪なエピソードの数々に笑いが止まらなかった。芸人・長谷川まさのりとしてバカの壁を超えた後に、更に立ちはだかる人間・長谷川雅紀としてのバカの壁。次のM-1優勝者は決まった後も、まだまだ仕事が途切れることはなさそうだ。

・本編【87分】
「ニュースキャスター」「選挙演説」「長谷川雅紀 観察記」「サファリパーク」「まさのりモーニングルーティーン①」「トイレ掃除」「まさのりモーニングルーティーン②」「熱血教師」「interview with Masanori Hasegawa」「CRまさのり」「まさのりクッキング」「サルを捕まえる」「雅紀くんと隆くん」「治安警備員」「長谷川雅紀 記録への挑戦」「クリーニング店」

・特典映像【107分】
トークライブ「祝50歳 錦鯉長谷川まさのり生誕祭 バカの日」

・音声特典
「錦鯉・ハリウッドザコシショウ・バイきんぐの副音声コメンタリー」

2022年上半期のリリース振り返り。

0209「錦鯉 独演会「こんにちわ」
0216「ハナコ「タロウ5」
0223「2021年度版 漫才 爆笑問題のツーショット
0223「ナイツ独演会 「キャホー」と言いながら亭主が帰ってきた。
0302「アインシュタイン DVDSTEIN2
0323「シソンヌライブ[dix]
0330「サンドウィッチマンライブツアー 2020〜2021
0420「ロッチ単独ライブ「モモイロッチ」
0427「ハリウッドザコシショウxバイきんぐ エンターテイメントライブ「やんべえ21」
0518「第23回東京03単独公演「ヤな因果」
0622「ハナコ「タロウ6」
0629「笑い飯の漫才天国~結成20+1周年記念ツアー~

いつもお世話になっております。すが家しのぶです。

2022年も半分が終わってしまったということで、この上半期にリリースされた芸人の単独作品をリストにしてみたのですが……こうして見ると、改めて少ないですねえ。まあ、芸人さんのDVDリリースって、だいたい下半期に固まっていることが多いので、上半期だけだとこんなもんなのかもしれませんけれど。それにしても12枚しかありませんからね。こんなもんかって感じですよねえ。

注目どころは、やっぱり錦鯉と笑い飯ですかね。片や「M-1グランプリ2021」王者、片や旧M-1の最多決勝進出者にして「M-1グランプリ2010」王者ですからね。というか、もう旧M-1が終わってから、10年が経っていたことに驚かされますね。当時の私はまだピチピチの25歳でしたよ。それが今ではフニャフニャの37歳です。時の流れというのはなんとも恐ろしいものですね。ちなみに、錦鯉のDVDは優勝決定前からリリースが決まっていました。このタイミングの良さ、流石ですな。

この他、気になるのは、ロッチとハナコでしょうかね。ロッチは2013年にリリースされた『ロッチ単独ライブ「ハート」』を最後に、4年ほどリリースがなかったのですが、「キングオブコント2015」決勝進出をきっかけに、単独ライブのDVD化が再び定例化。このままコント職人としての地位を築き上げていくことが出来るのかどうか。一方、「有吉の壁」での活躍も印象的なハナコは、今年2枚のDVDをリリース。東京03の背中を追いかけるように、コント職人としての道をひた走っております。

最後に下半期の注目作品について。

まずは七月にリリースされる『空気階段 単独公演 「fart」』。「キングオブコント2021」優勝後、初の単独公演を収録しているということで、そのスタンスにどのような変化が生じているのか気になるところです。過去の単独も再演して、ソフト化してくれませんかねえ。明けて八月には、この空気階段の水川かたまりも参加しているユニット・コント犬のDVD-BOX、その名も『コント犬~DVD-BOX~』が発売予定。スペシャルユニットによる公演のソフト化は過去にもありましたけど、四枚組っていうのはなかなか思い切った判断ではないかと。

九月にはかが屋の第三回単独ライブ『瀬戸内海のカロ貝屋』がDVDされる予定。実は、かが屋のライブ映像がソフト化されるのは今回が初。期待が持てますねえ。今年のキングオブコントも頑張ってもらいたいところ。十月にはビスケットブラザーズの初DVD『ビスケットブラザーズ単独ライブ「町のクチビル代理店」』のリリースが予定されています。奇抜で不思議な世界観のネタに定評がある彼ら。その濃厚な世界を余すことなく見せつけてくれるに違いありません。十二月には大ベテラン・さまぁ~ずによる十三回目の単独ライブを収録した『さまぁ~ずライブ13』が発売。衰え知らずのおじさんたちによるコントの熱はまだまだ収まりません。

それでは、下半期もお楽しみください。

「笑い飯の漫才天国~結成20+1周年記念ツアー~」(2022年6月29日)

2021年7月から2022年1月にかけて全国12か所で開催されたライブツアーより、2021年12月の大阪公演と2022年1月の東京追加公演の模様をセレクトして収録。ちなみに、笑い飯が単独名義のDVD作品をリリースするのは、2011年9月・10月に二ヶ月連続でリリースされた『笑い飯「ご飯」~漫才コンプリート~』『笑い飯「パン」~笑いの新境地~』以来、およそ11年ぶりとなる。

本編は、笑い飯の漫才を収録した「漫才パート」と、各公演にゲストとして出演していた芸人たちが参加する「コーナーパート」に分かれている。

「漫才パート」に収録されているネタは全七本。但し、そのうち三本は前半パートと後半パートでくっきり分けられているため、事実上は十本のネタが収められているというべきなのかもしれない。そのうち二本は、過去にM-1決勝の舞台で演じられた『鳥人2021』と『ハッピーバースデー』。『ハッピーバースデー』はほぼほぼ原本と同じ内容だったように思えたが(きちんと比較していないので、記憶だけで書いている)、『鳥人2021』は遊び要素が格段に増えていて、まったく違った味わいのネタに昇華されていた。まさか、あの奇奇怪怪なる鳥人という存在が、子どもの喚きに押し負けてしまう瞬間を見られるとは。

鳥人2021』と『ハッピーバースデー』以外のネタはほぼ初見。いずれもベラボーに面白かった。新しい靴を買ったことに気付かれて良い気分になろうとする『靴買ったん?』。満席の定食屋で席を譲ってくれるおじさんの優しさに触れる『天使みたいな人』。みんなが知っている某物置のCMを会議中に発案した人の恰好良いドラマを演じるために、その前にヘボ提案を出した人を演じてもらおうとする『物置のCM』。今も何処かで起きていそうなちょっとした日常のやり取りが、これまでに見たこともないバカバカしい方向へと広がっていく様は、まさに笑い飯の本領発揮といったところ。

特に笑ったのは『ぞうさんの歌』。誰もが知っている童謡『ぞうさん』の歌詞について、哲夫が持論を展開する。曰く「前半のパートは人間の視点なのに、後半のパートは象の視点で返事していて、これでは「人間のお母さんの鼻も長いのかな?」と子どもが勘違いしてしまうかもしれない」とのこと。そこで、前半パートを歌う人(人間視点)と、後半パート(象視点)を歌う人で分けたいので、その練習がしたいというのである。というわけで、人間のパートを哲夫が、象のパートを西田が歌うことになるのだが、ここで西田が象のパートを歌うことについて難色を示すのである。どうも話を聞いてみると、自分が象のパートを歌わされることについて、何かが引っ掛かっているらしい……。

哲夫の提案が既にボケとして成立している最中、そのネタに入ろうとする前に、西田が変なところで引っ掛かってしまって話が進まない状況がとにかく下らない。どちらも正しくない。どちらもヘンテコ。でも、まったく共感できないわけでもないな、という絶妙なバランス感がたまらない。話の流れで、哲夫が西田よりも象に見えると思ったことがある人物の名前を出すくだりは、腹が爆発するんじゃないかというぐらいに笑った。どうしてその人物の名前が出てくるのか。でも、ちょっとだけ、分からなくもないあたりが絶妙なのだ。しかも、この漫才が恐ろしいのは、話がここで終わらずに、ちゃんと童謡の『ぞうさん』を歌うところにある。この歌い始めるまでのくだりだけで成立するのに、きちんと『ぞうさん』も歌うのである。で、しっかりと、面白いのである。笑い飯というコンビの自由さとバカバカしさが大爆発した、とんでもない漫才だった。こういうネタはテレビだとなかなか出来ないだろうなあ……。

「コーナーパート」には、大阪公演ゲストの中川家博多華丸・大吉が参加する「体力ゲームステッカーチャレンジ」と、東京追加公演ゲストのとろサーモン南海キャンディーズ銀シャリが参加する「フリップ使い切り大喜利」を収録。博多大吉の運動神経の無さ、笑い飯・西田の大喜利パフォーマンス能力の高さをそれぞれ確認できる内容になっている。というか、久しぶりに勝負事らしからぬ、遊びの意味合いが強い大喜利を観ることが出来たのが、ちょっと嬉しかった。フリップは何枚使ってもいいし、おちんちんも何本使っても構わないのである。

これらの本編映像に加えて、特典としてドキュメンタリー「笑い飯が浅草・東洋館の寄席に初めて出演する日」を収録。2022年3月31日に笑い飯が東洋館の寄席に初めて出演、出番前に浅草を散策する様子から実際の漫才まで、しっかりと映像として収められている。ちなみに、東洋館で二人が演じたネタは、『割り込みを注意する~蚊~ハエの出てくる昔話』。なんだかちょっと懐かしいチョイス。ネタの後は、ナイツとの対談をじっくりと。M-1、漫才の方向性、賞レースの審査員として気になっていること、注目の若手漫才師など、かなり渋い内容の話を展開していた。こういう話が好きな人は、見てみても良いかもしれない。

・本編【140分】
■漫才
「靴買ったん?~輪投げ」「ぞうさんの歌」「オリジナルの童話~天使みたいな人」「鳥人2021」「1回千円のUFOキャッチャー~品種改良」「ハッピーバースデー」「物置のCM」

■コーナー
「体力ゲームステッカーチャレンジ」(博多 華丸・大吉/中川家
「フリップ使い切り大喜利」(とろサーモン/南海キャンディーズ/銀シャリ

・特典映像【54分】
笑い飯が浅草・東洋館の寄席に初めて出演する日」(対談ゲスト:ナイツ)

「コント集団 カジャラ 第四回公演「怪獣たちの宴」」(2019年12月25日)

2019年2月から4月にかけて全国十か所で行われた公演を収録。

カジャラ(KAJALLA)とは、小林賢太郎が作・演出を手掛けるコント集団の名称である。出演者は、小林賢太郎、辻本耕志、竹井亮介の固定メンバーに、複数のゲストが加わるシステムを採用していた。第一回公演『大人たるもの』には片桐仁安井順平、第二回公演『裸の王様』には久ヶ沢徹菅原永二、第三回公演『働けど働けど』には野間口徹小林健一が、それぞれ出演している。第四回となる本公演では、第三回公演から引き続いての参加となった小林健一、『R-1ぐらんぷり』で二年連続優勝の経験を持つなだぎ武溜口佑太朗ラブレターズ)や伊藤修子らが在籍する「劇団 拙者ムニエル」旗揚げメンバーの一人である加藤啓がゲストとして招かれている。

否が応でも目を引くのは、なだぎ武の存在である。過去を紐解けば、元「ピテカンバブー」の西田征史、『電波少年』のとある企画で「五択の安田」と呼ばれていた安田ユーシ、「フラミンゴ」の辻本耕志、元「アクシャン」の安井順平など、小林が演出を手掛ける舞台にお笑い畑出身の演者が上がること自体は、決して珍しいことではない。だが、既にオリジナルの芸で一定の評価を獲得している、それも大手芸能事務所で知られる吉本興業に所属する芸人の参加は異例中の異例。洗練された舞台作りに定評がある小林賢太郎の演出と、過剰に機敏な動きで爆笑をかっさらうなだぎ武の表現力は、どのような化学反応を見せるのか。

オープニングを飾るコントは『カジャラさん』。実在しない遊び“カジャラさん”を楽しもうとしている六人の男たちが、それぞれの出生地ごとに微妙に違っているローカルルールをすり合わせていく。実在しないもののリアリティを現実味と虚構の絶妙なバランスで描き上げるスタイルは、小林賢太郎が得意とする手法そのもの。そこに日本の実在する地名を掛け合わせることで、ラーメンズ時代の代表作である『日本語学校』のような土着的味わいが感じられるネタに仕上げている。この時点で、既になだぎ武の機敏な表現力が大爆発。和歌山出身者を演じる辻本とまったく同じ動きをしながらも、その滑らかでキレのある仕草がたまらなく可笑しい。

これ以降も愉快なコントが続く。「面白い人間になりたい!」と焼肉屋で会社の同僚に相談を持ちかけている男が、隣のテーブルの男たちの愉快なやり取りを羨望の眼差しで見つめる『焼肉屋』。近所の小学生から“在宅超人スウェットマン”と呼ばれている引きこもりの男が、ファンだという学生からの質問に対して次々に答えを出していく『在宅超人スウェットマン』。宴会に踊り子さんを発注したはずが、何故かメキシカン漫談のロドリコさんが来てしまって……『メキシカン漫談』。それぞれの演者の魅力に特化したコントが次から次へと押し寄せてくる。

その中でも異彩を放っていたのが、『プレゼンテーション』と『怪獣たちの宴』。多重人格についてのプレゼンテーションを控えている男が、自身の中に存在するもう一つの人格に翻弄される『プレゼンテーション』は、主人公である小林賢太郎ともう一つの人格であるなだぎ武の一騎打ち。小林の動きをなだぎが、なだぎの動きを小林が、それぞれモノマネし合う姿は、パフォーマーとしての実力を真正面からぶつけ合ったタイマン勝負の様相を呈していた。また、「本来の実力を持つ自分A」と「本来の実力を出し切れないB」についての話は、小林が舞台に上がる人間としての信条を反映しているようで、そんな自分のことを、なだぎ演じるもう一つの自分が追求する様に、私小説めいたものを感じさせられた。無論、そんな苦悩する自分を見せるというパフォーマンス、なのかもしれないが。

一方、表題作でもあり、本編のオーラスとして演じられた『怪獣たちの宴』は、ファンタジー色の強いコント。六人の男たちが酒を飲み交わしながら、それぞれの思い出話を繰り広げる。加藤はお祭りで見かけた恐い教師の話、辻本は学校で目にした怖い出来事の話、小林は近所に住んでいた漫画やカルト雑誌や洋楽に詳しい“カルチャー兄貴”の話……それぞれの話の方向性はまったく違っているのだが、そこには必ず「アレ」の存在が。果たして「アレ」とはなんなのか……。物語だけを抽出すると陳腐かもしれないが、ちょっとした小道具や細かい仕掛け、揺るぎない演出によって丁寧に紡ぎ出された結末に、まんまと感動させられてしまった。全体を通してみると、まだまだ多少の粗は感じられたが、コントユニットとしてのカジャラの一つの到達点を思わせる公演だったように思う。

この翌年、2020年5月から7月にかけて、同じ六人のメンバーによる第五回公演『無関心の旅人』が上演される予定だったのだが、新型コロナウィルスの流行に伴い、全公演が開催中止となる。同年11月、小林が表舞台からの引退を表明。カジャラはその全てを見せ切ることなく、その活動を休止することになってしまった。改めて、無念でならない。

・本編【124分】
「カジャラさん」「焼肉屋」「在宅超人スウェットマン」「フランケン/お父様!?/ポセイドン/二宮金次郎アメリカン兄弟」「地球よ」「ニンゲン」「プレゼンテーション」「メキシカン漫談」「怪獣たちの宴」

愛しのヴィデオ・ボーイ!

先日の『東京ポッド許可局』でVHSのことが話題になっていた。

で、なんとなく脳の奥の引き出しに片付けていた記憶が、ふつふつと蘇ってきた。

今でこそDVDだのBlu-rayだのにウツツを抜かしている私だが、その根っこにあるのはVHSである。OLの弁当箱の倍ぐらいのサイズの黒い物体を、デッキにガチャガチャいわしながら突っ込んでいたのである。

私に限った話ではない。

そういう時代を経験してきた世代なのである。サブスクリプションで最新の映画を観ただのドラマを観ただの語っている今の三十代だって、同じことを経験している筈なのだ。時たま、テープがデッキに噛んでしまって、アタフタしながら親に助けを求めた筈なのだ。そういう思春期を経験している筈なのだ。ああ、思い出しただけで、なにやら恥ずかしい。

というわけで、今回はVHSの記憶を書いてみようと思う。

書かないと忘れそうだし。私的な記憶をネットの海に放流してしまえば、半永久的に漂流してくれるのではないかと期待している。その前にサーバーがどうのこうのいう問題が発生して、消えてしまうかもしれないけれど。それもまた人生である。うむ。

 ↑本記事のタイトルの元の曲。BGMにどうぞ。

私にとって最古のVHSの記憶は、父親が録画していたアニメのビデオである。

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2022年7月のリリース予定

20「空気階段 単独公演 「fart」

どうも、すが家です。暑い日が続きますね。

先日、四国では最高気温35度を記録しまして、そろそろ身体が融解するのではないかと危惧しております。全身とろけ太郎です。片栗粉まぶし之助かもしれません。何を言っているのやら。この調子だと、七月・八月ごろはどういうことになっているのか、今から心配でなりません。蒸発してんじゃないかしらん。

そんな七月のリリース予定ですが、今年の二月・三月ごろに開催された、空気階段の単独公演のソフト化のみになるようです。ちょっと寂しい感じもしますが、この御時勢なので、こんなもんだろうという気もします。先日、バイきんぐとバナナマンの単独ライブの開催がそれぞれニュースになっていたので、そろそろライブDVDもまた増えていくことになるのでしょうけれど、それはそれで配信中心になりそうな予感もありますね。どうなんでしょうか。

八月は、大喜利猿……ならぬコント犬による特大ボックス。