白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「ハナコ「タロウ4」」(2019年12月25日)

 

2019年4月から6月にかけて、東京・愛知・大阪・福岡で公演を行った単独ライブの模様をDVD用に再現して収録。あくまでもDVD用に再現している映像のため、実際の単独ライブで披露されたコントが全て収録されているわけではないらしい。ワタナベの芸人による作品には、時たま、こういったややこしい形式で再演されたものが見られるが、どういう意図によるものなのかがイマイチ分からない。版権上の問題でもあるのだろうか。

収録されているコントは全9本。新しい元号の発表にテンションが上がってしまってはしゃぎ倒してしまう『新元号発表』を皮切りに、バイト仲間の女性が異性に距離を詰められるのが苦手なタイプで上手くコミュニケーションが取れない『距離感』、乗っていた船が沈没して救助を待っているところに現れたのはけっこうギリギリな状態の海猿で……『救助』、久しぶりに顔を合わせた親戚のおじさんがずーっと人見知りする子どものような態度を取り続けている『親戚のおじさん』などなど、的確に笑いを生み出す設定のネタが演じられている。

ただ、基本的にワンテーマで展開しているため、ネタの深みを感じ取りにくいのが残念。どのネタもちゃんと面白いのだが、記憶に残るほどのパンチ力には欠ける。これ以降の単独では改善されているのだろうか。

その中でも印象に残っているのは『清掃員』と『行かないで』。

『清掃員』は、会社の就職面接の会場で、自分が呼び出されるのを待っている就活生(秋山)の前に、如何にも会社の重役っぽい雰囲気の清掃員(岡部)が現れるコント。フィクションでありがちな設定を逆手に取ったコントで、この切り口もまたありがちといえばありがちなのだが、清掃員を演じる岡部から醸し出される重役の如き風格が笑いを増幅している。この後に登場する菊田の存在感もまた素晴らしい。コントの設定とキャラクターが見事にマッチした一本である。

『行かないで』は、情熱的な彼女に対して素っ気ない態度を取り続ける彼氏のスマホに入った連絡をきっかけに、言い争いが始まってしまうコント。この彼氏のスマホに入った連絡というのが、このコントにおける最大の笑いどころとなっている。そのため、ここでもネタバレになってしまうため、具体的に明記することは出来ない。ただ、2019年の時点で、このテーマでコントを書き上げた時代性の高さが素晴らしい、ということだけは書いておきたい。なんなら、このコントで起こっているような諍いは、今現実に何処かで起こっているかもしれない。その先見性の妙。オーラスに相応しいコントといえるだろう。

これらの本編映像に加えて、特典映像として「岡部ハーレーを買う?!」を収録。岡部が秋山・菊田を引き連れて、バイクショップにハーレーを買いに行く様子が収められている。三人が不慣れなロケを歪ながらもこなしている姿がなにやら初々しい。結局、この時点ではハーレーを買わなかった岡部(免許を持っていなかったため)だが、2021年に実際に購入したらしい。売れっ子だなあ。

ちなみに、ハナコは2021年にオフィシャルYouTubeチャンネルで公開しているコント映像のベスト盤『HANACONTE + 』、2022年に単独ライブDVD『タロウ5』『タロウ6 』をそれぞれリリース済。そちらも機会があれば今後レビューする……かもしれない。

・本編【60分】
「新元号発表」「距離感」「ネタバラシ」「救助」「清掃員」「インタビュー」「親戚のおじさん」「俺だ」「行かないで」

・特典映像【12分】
「岡部ハーレーを買う?!」