白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「錦鯉 独演会「こんにちわ」」(2022年2月9日)

2021年10月29日に池袋HUMAXシネマズで開催された、自身初の単独ライブを完全収録。

本編には、「M-1グランプリ2020」決勝戦で披露された『CRまさのり』と、「M-1グランプリ2021」決勝戦で披露された『サルを捕まえる』を含めた、9本の漫才が収められている。但し、『サルを捕まえる』に関しては、M-1決勝で披露されたものとは少しバージョンが違っている。削られているシーンと、追加されているシーンがある。M-1フリークであれば、この違いを比較してみるのも面白いかもしれない。

ちなみに、同じく「M-1グランプリ2021」決勝戦で披露された『合コン』、M-1グランプリ2018王者・霜降り明星が大好きなネタだと明言している『まさのり数え歌』は未収録。どちらもM-1の公式DVDで視聴可能だが(『まさのり数え歌』は「M-1グランプリ2019」敗者復活戦で披露されている)、次の単独では是非とも披露してもらいたいところ。

錦鯉の基本的なスタイルは漫才コント。長谷川が「○○をやりたい!」と提案し、一人で演じている姿を渡辺が第三者の視点で見つめながらツッコミを入れていく。“若手だけどおじさん漫才師”というキャラクターばかりが着目されがちだが、ネタの仕組みとしては、霜降り明星マヂカルラブリーのスタイルに近く、むしろその芸風は若いといえるのかもしれない。

本編に収録されている漫才も、また同様に長谷川の提案に渡辺が付き合わされるスタイルのネタが主となっている。登場人物が全員バカのニュース番組を見させられる『ニュースキャスター』。どれだけ注意されても、何度も何度も長谷川が動物たちのところへと飛び出してしまう『サファリ―パーク』。街の治安を守るために手段を選ばない長谷川の活躍を描いた『治安警備員』。……いずれのネタにおいても長谷川はバカであり続けているが、その方向性はそれぞれ微妙に違っていて、飽きさせない。特に『治安警備員』の長谷川は、通常の長谷川とはまったく違ったアウトローなキャラクターで、初見の人はちょっと驚くのではないだろうか。

印象に残っているのは『トイレ掃除』。「街のために駅のトイレを掃除したい」という長谷川が、渡辺に見守られながら駅のトイレを掃除して回る漫才コントである。まず「駅のトイレを掃除したい」というテーマの渋さが素晴らしい。一介の若手漫才師ではなかなか生み出すことの出来ない設定である。そこで繰り広げられるボケもたまらない。バカがトイレ掃除をするとなると、果たしてどのようなことが起こるのか……その想定されるような類いのボケを連呼しているにも関わらず、生理的嫌悪感を引き起こさない。スカトロ的なヤバさを長谷川のバカさがしっかりと上回るのである。この塩梅が絶妙。駅のトイレを掃除したいがあまりに、汚れた便器のことを逆に「ごちそう」だの「メインディッシュ」だの言ってのける、この下らなさ! あまりテレビ向けの漫才ではないだろうが、面白かった。

これらの漫才の間に、実際のライブでも流された幕間映像が収められている。いずれの映像も長谷川雅紀という人物の素の姿に注目したものになっており、錦鯉というコンビにおける長谷川の存在の大きさを改めて感じさせられる。とはいえ、最も面白かったのは、長谷川の朝の風景を撮影した映像に渡辺がツッコミを入れる『まさのりモーニングルーティーン』なので、やはり渡辺の存在も偉大であると言わざるを得ないだろう。次の単独があるならば、その時は渡辺隆にも注目してほしい。

この本編とは別に、特典として、「錦鯉・ハリウッドザコシショウ・バイきんぐの副音声コメンタリー」と特典映像「トークライブ「祝50歳 錦鯉長谷川まさのり生誕祭 バカの日」を収録。

本編と同様、副音声コメンタリーもM-1優勝前に収録されたもののため、いわゆる祝祭ムードは皆無。ザコシとバイきんぐの三人がかなり素のトーンに近い状態で錦鯉をイジり倒している。これもまた優勝直前だからこそ味わえる貴重な空気感である。次の単独がソフト化されたあかつきには、R-1王者・KOC王者・M-1王者の三組揃い踏みで、またコメンタリーを収録してもらいたいところ。

特典映像のトークライブは2021年7月30日に収録されたもの。長谷川雅紀のこれまでの人生を写真で振り返っており、その珍妙な写真と奇怪なエピソードの数々に笑いが止まらなかった。芸人・長谷川まさのりとしてバカの壁を超えた後に、更に立ちはだかる人間・長谷川雅紀としてのバカの壁。次のM-1優勝者は決まった後も、まだまだ仕事が途切れることはなさそうだ。

・本編【87分】
「ニュースキャスター」「選挙演説」「長谷川雅紀 観察記」「サファリパーク」「まさのりモーニングルーティーン①」「トイレ掃除」「まさのりモーニングルーティーン②」「熱血教師」「interview with Masanori Hasegawa」「CRまさのり」「まさのりクッキング」「サルを捕まえる」「雅紀くんと隆くん」「治安警備員」「長谷川雅紀 記録への挑戦」「クリーニング店」

・特典映像【107分】
トークライブ「祝50歳 錦鯉長谷川まさのり生誕祭 バカの日」

・音声特典
「錦鯉・ハリウッドザコシショウ・バイきんぐの副音声コメンタリー」