白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「アンガールズ単独ライブ「びしょ濡れの犬のほうが拾いたくなる」」(2018年7月25日)

2018年4月21日・22日に北沢タウンホールで開催された単独ライブを収録。

本編に収録されているコントは全6本。タイトルにある“びしょ濡れの犬”を思わせるような悲愴感溢れる笑いが凝縮されている。イオンモールでのイベント中、弟子の山根に気功術がインチキであることを暴露されてしまった田中が、追い込まれてとんでもない言い訳を繰り広げる『気功術』。町内会に所属している山根がゴミを捨てにやって来た田中に「町内清掃に参加してほしい」と頼み込むと、「私は集団の中にいると人を怒らせてしまう人間なのでやめたほうがいい」という驚くべき理由で拒否されてしまう『町内清掃』。しょうもない意地で貯金を競馬のレースに注ぎ込んでしまった田中が、ちょっとでも当たる可能性を上げるために運を下げようと転げ回る『運』。悲惨で哀愁を漂わせながらも、抑えたくても抑えられない笑いの数々に、田中卓志という人間の人生観が滲み出る。

特に印象に残ったのは『コンビニ』。

舞台はコンビニのバックヤード。椅子に座って静かにスマホをイジッている田中の元へ、休憩に入った山根がニヤニヤしながら詰め寄るシーンで幕を開ける。昨日、初めて昼のシフトに入った山根は、そこで普段の田中とは違う一面を目撃したことを打ち明ける。夜のシフトに入っているときは、物静かで他のバイト仲間とは必要最低限の話しかしていなかった田中が、昼のシフトで女の子のバイト仲間と一緒になっているときには、意気揚々と話をするどころか、楽しそうに小道具を使っておどけていたのである。「むっつりスケベだったんですね!」と追及する山根。しかし、そんな山根の言い分に対し、田中は断固として否定。田中が昼のシフトで女の子のバイト仲間と楽しそうに話をしていたのには、れっきとした理由があったのである。それは……。

「女は、女は、めっちゃ笑ってくれるんだもん!」

女はちょっとしたことでもすぐに笑ってくれるが、男はなかなか笑ってくれない。この田中の主張に対して「男だって笑いますよ」と反論する山根だったが、田中は「俺は、女にはウケるけど、男にはウケない。その絶妙なラインにいる人間、それが俺だから!」と更に否定を重ねていく。そこから更に田中は持論を展開、男を相手に面白い話をすることが如何に難しいか、徹底的に説明し始める。

男の話に対して女の子が簡単に笑ってくれるのにも何かしらかの理由があるような気がしないでもないが、確かに、笑いに対して過剰に厳しい意見を抱いている人間には男の方が多い印象はある。「すべらない話」や「ドキュメンタル」、「IPPONグランプリ」のようなコンテンツに対して一過言持っているかのようなコメントをしている人間も、男性の比率が高いように思う。ちょっとした話に対して笑いどころやオチを求めるのも、女性よりも男性の方が多いのではないだろうか。

……ここまでの話に根拠は無い。あくまでも私個人のイメージによるものである。きちんとデータを取れば、意外とそれほど男女差はないのかもしれない。ただ、あくまでも実感という点に限定すれば、非常に共感を抱ける切り口のテーマだった。ちなみに、このコントでは田中が男にはウケないと断言するきっかけとなった話も語られるのだが、それはそれで、男ウケする笑いの根深い問題があるように思う。様々な角度において、非常に興味深いコントだった。

これらの本編映像に加えて、特典映像として五本の未公開映像を収録。田中のお母さんに考えてもらったネタを実際に二人で演じてみる「お母さんのネタ再現」、『気功術』のネタ中に起こったハプニングを収録した「単独ライブ リアルハプニング映像」など、様々な映像が収められているが、とりわけ、田中がとある芸能人とキスしている様子をイメージして一人で演じている姿を見て、誰とキスしているのかを山根にクイズ形式で当てさせる「誰とキスしているかクイズ」が圧倒的にバカバカしかった。誰が得するんだ、その映像は。

・本編【78分】
「気功術」「コンビニ」「お母さんに電話①」「町内清掃」「田中vsニセ田中」「電気消し鬼ごっこ」「山根、占い師を斬る」「運」「田中、自腹ギャンブル」「遺品整理」

・特典映像【13分】
「誰とキスしているかクイズ」「お母さんに電話②」「お母さんのネタ再現」「田中vsニセ田中 番外編」「単独ライブ リアルハプニング映像」