白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

伊豆グリッシュマン with ニューヨーク

漫画の単行本を電子書籍で購入している。以前は、紙の本を買い求めていたのだが、自室に置き場が無くなってしまい、切り替えざるを得ない状況になってしまったのである。また、実家の物置に封印されていた、父が過去に集めていた漫画本を処分する手伝いをしたことも、考え方に少なからず影響を及ぼしたように思う。どんなに大切に保存したところで、いずれ劣化して、古本屋に廃棄処分同然の価格で売られてしまうことになるのなら、配信サイトが継続しているうちは読み続けられる電子書籍の方が良いだろう……と。

とはいえ、たまに「これは紙の本で読みたい!」という気持ちにさせられる作品もある。私にとってのそれは桜玉吉作品である。その面白さは電子書籍でも存分に味わえるものだろうが、デフォルメとリアルが混在する画風とペーソスに満ち溢れた質感のエッセイは、時を重ねるごとに劣化する紙との相性がバツグンに良いように感じる。本棚の目に入る位置に常駐させておいて、ふと思い出したときに手に取ろうと思える程度の良さも大きい。氏が精神的に病んでいた時代の作品は読んでいて苦しくなるが、それ以降のエッセイは油分が抜けきったかのように老成していて、読みたいときに読もうと思える絶妙な塩梅である。「別にこんなこと書き留めなくてもいいじゃない」というような話ばかりなのだが、だからこそ良い。もっとも、そんなことは電子書籍でも出来るわけだが、本棚から取り出せることに意味がある。いちいちアプリをタップして購入履歴から探し出す必要性がない。それが良いのだ。

ちなみに、これと似たような理由で紙の本で買い続けている本に、近藤聡乃『ニューヨークで考え中』がある。ひとつのエピソードがたった2ページでまとめられているフォーマットの軽やかさに対して、「文化の違い」「差別」「社会情勢」などの重厚なテーマが筆者の目線と思考でしっかりと語られていて、読み応えがある。テケトーに読める本ではないが、たまに取り出して、読み返している。

どちらもオススメである。